第3話
「姫様。
先を御急ぎください」
「いいえ。
御養母様と義妹達を先に逃がさなければいけません」
王家を敵と判断した家臣達は、電光石火で動きました。
王都屋敷に火を放ち、王都を大混乱に陥れました。
その上、身軽な家臣達が、王家の警備隊を襲撃しました。
その為、王家王国は王都内で同士討ちを始めるほど混乱しました。
普段からろくに武芸の訓練をしていないので、大事な時に役立たずなのです。
私達は、その混乱に乗じて逃げ出しました。
体力自慢の重装甲兵に護られながら、ジェダ辺境伯領に向かったのです。
我がバーブランド男爵家だけではなく、ジェダ辺境伯家の寄子貴族が、一斉に逃げ出したのです。
流石ジェダ辺境伯家と言えます。
寄親としての責任をはたし、寄子を見捨てたりはしないのです。
寄子貴族も、寄親を裏切り、王家に寝返ったりはしませんでした。
本当の信頼関係が出来ているのです。
ですが、辺境と呼ばれる遠くの領地にまで、無事逃げ延びるのは並大抵のことではありません。
最初は実の母や兄弟姉妹と一緒に逃げましたが、四日目の夜に王国に組する貴族家の襲撃を受けてしましました。
最初の攻撃は、護衛の重装甲兵が、一撃で粉砕してくれました。
ジェダ辺境伯家とその寄子貴族は、最初から王都を逃げることを前提に、王都家臣団を編成していたのです。
だから王都家臣団は全員独身で、それぞれの役目に応じた武勇を極めた者達でした。
ですが、多くの貴族家が敵に回ってしまいました。
譜代貴族家は当然ですが、外様貴族家も、王家に尻尾を振ったのです。
戦士の誇りを棄てて、家を保つ為に王家の横暴を認めてしまいました。
哀しい事でした。
今頭を下げ、尻尾を振ったとしても、あの王太子が外様貴族を大切にするわけがありません。
徹底的に外様貴族を苛め抜くでしょう。
誇りを踏み躙り、外様貴族が嘆き哀しむのを見て、愉悦する事でしょう。
そして最後には、外様貴族家を潰すでしょう。
そんな事になれば、太平に慣れた貴族家の人間は生きていけないでしょう。
女子供は、最後は奴隷に身を落とすことになるでしょう。
ほとんどの家臣領民も、譜代貴族に支配され、塗炭の苦しみに喘ぐことでしょう。
いえ、やはり最後には、奴隷にされてしまうでしょう。
私が見聞きしてきた、王太子とその側近貴族の領地は、領民に人間の尊厳を認めていませんでした。
家畜より酷い扱いを受けていました。
だから、絶対に王太子一派に膝を屈してはいけないのです。
戦士の誇りを持って、最後まで戦わないといけないのです。
だから私も、戦います。
家族と離れて、殿を務めます。
私とネラが名乗りを上げれば、敵は私達に殺到するのだから。
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