第2話

「ジェダ辺境伯家のレアラ殿と、バーブランド男爵家のエマ殿の、婚約の解消を命じる」

「何故でございますか」

「新たな王国法により、貴族同士の勝手な婚約や結婚は禁じられる」

「しかしながら、その新たな法律が定められる前に、レアラ様とエマ様の婚約は決められています」


 ジェダ辺境伯家とバーブランド男爵家の王都用人が、揃って王城に呼び出されて、両家の婚約を破棄するように命じられました。

 どこをどう考えても、王太子殿下による横車でした。

 両家の用人が厳重に抗議しましたが、王家の役人は、全く聞く耳を持たない状態でした。


「しかしながら、ここまで強硬なのは何故なのでしょう」

「何か裏があると申されるのか」

「はい。

 遂に王家が外様を潰す気になったのかもしれません」

「時が参りましたな」


 ジェダ辺境伯家とバーブランド男爵家の王都用人は、互いの情報を話し合いました。

 その結果、王家がここまで強硬になった原因を予想して、最悪の状態だと結論を下しました。

 そうなのです。

 王家は、邪魔な外様貴族を潰す決断をしたのです。


 そして最初の目標に、外様貴族最大のジェダ辺境伯家に狙いを定めたのです。

 本当なら、当主が王都に出仕している時に、強襲して殺したかったのでしょう。

 ですが、愚かで色魔の王太子が、その前にジェダ辺境伯家に喧嘩を売ったしまったのです。

 この状況では、ジェダ辺境伯家が王都に出てくることはありません。


 しかしながら、王都には貴族の妻子が人質として住まわされています。

 ジェダ辺境伯家が王家に叛旗を翻したら、私はもちろん、辺境伯の妻子も殺されてしまいます。

 実家の母と兄弟姉妹も殺されるでしょう。

 自分が助かりたかったり、母や兄弟姉妹を助けたかったら、王太子の愛人になるしかありません。


 ですが、そんな事は絶対嫌です。

 譜代の腰抜け貴族の姫ならば、命惜しさに色魔に身を任せるかもしれません。

 しかしながら、我ら外様貴族は、女子供であろうと、勇猛でうたわれた戦士なのです。

 絶対に王太子の閨に侍ったりはしません。


 誇りを胸に、潔くこの命を絶ちます。

 いや、一兵でも多くの王国兵を道連れにして見せます。

 私も聖女と呼ばれた女です。

 戦闘侍女に癒し力を与え、見事王国軍を撃退して見せます。


「姫様。

 領地まで落ち延びますので、御準備願います」

「ここに籠城するのではないのですか」

「ここにいれば、奮戦は出来ても必ず負けます。

 それでは若様に対して申し訳が立ちません。

 何があっても、姫様を領地まで御連れ致します」


 まあ、なんてことでしょう。

 私は戦って死ぬこばかり考えていましたが、ネラは生きて領地に帰る事を考えていたようです。

 私はまだまだ至りませんね。

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