第13話

「なにを騒いでいるのですか?」


 昨晩の男がとぼけた顔でドアを開けて入ってきました。

 表情はとぼけていますが、なかなかの美形です。

 グレアム様ほどではありませんが、社交界にでれば、多くの令嬢の心を掴む事でしょう。


 身長はグレアム様より低い一八〇センチメートル程です。


 髪はグレアム様の軽くウェーブした山吹色ほどではないにしても、ストレートの白銀は魅力的です。


 瞳はグレアム様の魅惑的な金色には劣るものの、赤銀で美しく輝いています。


 肌はグレアム様の菜の花色ほど艶やかではありませんが、透明で赤味がかっていて魅力があります。


「ここはどこです!

 貴方は誰ですか!

 それをはっきりして頂かないと、私は自害しなければいけません」


「え?

 なんで!?

 いや、待ってください!

 話します。

 話しますから、早まらないでください!」


 随分慌てています。

 悪い人ではないようです。

 ですが油断は出来ません。

 男に隙を見せてはいけません。

 昨日のような失敗は二度と御免です。


「では、嘘偽りなく、全てを話して頂きます」


 男は全てを話してくれました。

 嘘ではない証拠は一つもありません。

 でも嘘だと言う証拠もありません。

 本当だとしたら、私に父以外の血縁が残っていたことになります。

 信じたい気持ちが心の奥底から湧きだしてしまいます。


 男はバルトロと名乗りました。

 私の祖父の弟子で、養子だと言うのです。

 義理とは言え、叔父にあたるそうです。

 初耳です。

 全く聞いたことがありません。


 代々アモロ子爵家に仕えてくれていた、カロジェロやキアーラから聞かせてもらったこともありません。

 母はモーガン子爵家からアモロ子爵家に嫁いできたのですが、驚いたことにモーガン子爵家の実子ではないと言うのです。

 私の実の祖父だと言う、聖魔王家のガストーネと言う人が、魔法でモーガン子爵家の全員に実子だと思わせたのだと言うのです。


 それがもし本当だと言うのなら、信じられない魔法です。

 そんな魔法があるなど、聞いたこともありません。

 それに魔力量が驚きです。

 子爵家に住む全ての家族と使用人に同じ魔法をかける。

 他人の子を子爵の実子だと思い込ませる。

 驚愕の大魔法です。


「証拠はありますか?

 証拠がなければ信じる事は出来ません。

 それと私を早く返してください。

 貴方の話を信じて、男性と二人きりで同じ家にいるわけにはいきません。

 直ぐに家に帰して下さい!」


「家と言われますが、どこの家に帰ると言うのです。

 もうアモロ子爵家には帰れませんよ。

 帰れば今度こそ殺されます!」


「もうあの家には帰りません。

 私が帰りたい家は……」

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