第12話

 気が付くと、ベットに寝かされていました。

 最初はどこにいるのか分かりませんでした。

 義母に押し込められた、屋根裏部屋の藁ベットとは全然違う、柔らかなベットです。

 シーツの真新しく清潔に洗濯されています。

 どう考えても、アモロ子爵家ではありません。

 

 不意にザンピエ公爵家の舞踏会の事が思い出されました。

 次いで馬車から突き落とされ、襲撃された事を思い出しました。

 最後に見ず知らずの男に助けられたことを思い出しました。

 血の気が引く思いでした。

 何より貞操の事が心配でした。


 私の操はグレアム様に捧げています。

 貞操を奪われるくらいなら、死んで操をたてます。

 ずっとそう考えてきました。

 気を張り詰めて、死線を歩いてきました。

 剣を持つ殿方には分からないでしょう。


 女も戦っているのです。

 操を奪おうとする野獣と戦っているのです。

 中には貞操感のないふしだらな女性もいますが、私は違います。

 私はグレアム様を愛し、操を守ろうと戦ってきたのです。

 

 なのに、これはどうした事でしょう。

 母上様の事を知っているお方とは言え、見知らぬ男性の家に泊ってしまいました。

 誰のとも知れぬベットで寝てしまいました。

 何と愚かな事をしてしまったのでしょう。

 情けなくて涙が出てしまいます。


 話に聞く破瓜の症状はありません。

 ですが相手は魔法使いです。

 どんな手段を使うかもしれません。

 もし操を奪われているのなら、子爵家令嬢の誇りを守るために、自害しなければなりません。


 ですが貞操が守られているのなら、死にたくはありません。

 グレアム様にもう一度会いたい!

 グレアム様の声を聞きたい!

 グレアム様に愛しているよと言って頂きたい。

 グレアム様の胸に顔をうずめ、逞しい腕に抱かれたい。


 グレアム様の事を想うと、胸が熱くなり、いてもたってもおられなくなります。

 きっと心配してくださっています。

 私の為に、胸を痛めてくださっています。

 一時の快楽や、出世や金に迷う、普通の男性とは違うのです。

 不世出の英雄なのです。


 何としても確かめなければなりません。

 私の貞操が守られている事を確認しなければなりません。

 あの男に聞かなければなりません。

 怖気ている場合ではないのです

 アーダが家に入り込んでからは、常に死を覚悟して戦ってきたのです。

 ここで尻込みする私ではありません。


「誰かいますか?

 誰もいないのですか?!

 聞きたいことがあります!

 誰もいないのですか!?

 ここを空けてくれないのなら、ドアを壊して出て行きますよ!」

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