第9話

「なんだと!

 シンデレラ殿が駆落ちしたと言うのか?!

 信じられん。

 信じられんぞ!

 王太子殿下からは、ボニファ公爵が罠を仕掛けたと聞いておるぞ!」


 シンデレラの婚約者であるグレアム将軍は、アモロ子爵家からの使者を相手に激怒していた。


「証拠はございますか?

 グレアム将軍閣下」


「証拠だと?

 俺の前で、何度も何度もシンデレラ殿を虐待し、殺そうとまでしたではないか!」


 アモロ子爵家からの使者は、厚顔無恥の輩だった。

 元々ザンピエ公爵家からアモロ子爵家に送り込まれた者だ。

 シンデレラの事など何とも思っていないのだ。


「誤解でございます。

 全てはアーダ様の親心でございます。

 幼い頃にお母上様をなくされ、貴族令嬢としての嗜みが不足しているシンデレラに、子爵家に相応しい振る舞いが出来るように、躾けなさっておられたのでございます」


「しらじらし事を言うな!

 既に王太子殿下から全てのご報告を受けているのだ。

 いまさら誤魔化しても無駄だ!」


「誤魔化してなどおりません。

 確かに公爵閣下がホストを務められた舞踏会において、シンデレラを罠に嵌めようとした者はおりました。

 ですがそのコバーン男爵家のアルヴィン男爵は、公爵閣下の手でその場で斬り殺され、男爵家も取り潰しになりました。

 手伝った令嬢たちも、公爵閣下の手がその場で斬り殺しました。

 公爵閣下もアーダ様も関係ございません」


「トカゲの尻尾切り。

 口封じに殺したのであろう」


「そんな事はございません。

 それとも何か証拠がございますか?」


 どう考えてもザンピエ公爵家の策謀だ。

 王位を狙うボニファ公爵がブルーノ王太子殿下と争い、互いに謀略を駆使して、多くの貴族士族を味方に引き込もうとしている。

 だが俺は違う。

 王家王国に忠誠を誓ってはいるが、邪悪下劣な個人に忠誠を誓っている訳ではない。


「証拠などどうでもよい。

 武人として、ブルーノ王太子殿下であろうとボニファ公爵閣下であろうと、民を虐げる者に仕える気はない!」


「それは、ビアータ様との婚約を拒否されると言う事ですか?

 アモロ子爵家との婚約を無効にされると言われるのですか?!

 それはアーダ様のご実家である、ザンピエ公爵家に恥をかかせるという事ですよ!」


「俺が婚約したのは、シンデレラ殿個人だ。

 アモロ子爵家と婚約したのではない」


「その婚約は、シンデレラの駆落ちで無効になりました。

 いえ、これは言葉を間違いました。

 申し訳ありません。

 我がアモロ子爵家の粗相により、破棄させていただきました。

 何者とも分からぬ下郎と駆落ちしたシンデレラは、アモロ子爵家の名誉を守るために、ご当主様が勘当されました」


「認めんぞ。

 俺は認めん。

 アモロ子爵家が勘当して、シンデレラ殿が子爵家令嬢でなくなろうとも、俺の婚約者はシンデレラ殿だけだ!」

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