第7話

「死ぬのはまだ早いですよ。

 安心してください。

 私は貴女の味方です。

 これを見てください。

 貴女の母親の持っていた日光女神像と対をなす、月光女神像です」


 驚きました。

 父が作った借金の担保に取られないように、今は信頼できる人に預けていますが、母の形見である日光女神像を知っている方が現れました。

 これを知っているのは、追放された譜代家臣でも極僅かです。

 もっとも父も知っていますから、全面的に信用することはできませんが。


「貴男は誰ですか!

 何故それを持っているのですか?」


「やいやいやい。

 てめぇはなにもんだ!

 邪魔しやがると殺すぞ!」


「少し待っていたください。

 シンデレラ。

 この屑どもを処分します」


 急に現れた男はそう言うと、なにやら印を結び、呪文を唱え始めました。


「野郎、魔法使いか?!

 殺せ!

 魔法を使う前に、殺してしまえ!」


 屑どもは焦っています。

 それはそうでしょう。

 普通の人間が魔法使いに勝とうと思ったら、魔法を唱える前に殺すしかありません。

 屑どもは九人もいますが、熟練の魔法使いなら瞬殺してしまうでしょう。

 ですが問題は、この男が実力者かどうかです。


 偉そうに出てきた以上、それなりの実力者だとは思っていました。

 これで屑どもに簡単に殺されるようなら、恥さらし以外の何者でもありません。

 ですがそんな心配は杞憂でした。

 男は屑どもを殺しました。

 それもただ殺したのではありません。


「いってぇぇぇぇ。

 いてぇぇぇ。

 痛いんだよ!」


「痛い!

 痛い!

 許してくれ!

 勘弁してくれ!」


 九人の屑どもが地面に転がりのたうち回っています。

 よほど痛いのでしょう。

 意味もなく謝り痛みを訴えています。

 襲われそうになっていた私が、気の毒に思うほどの痛がりようです。


 よく見ると、身体の表面が溶けているように思えます。

 超大型のスライムに飲み込まれたら、同じように全身を溶かされてしまうのでしょうが、魔法で同じような攻撃ができるとは知りませんでした。

 見ていて寒気がするような恐ろしい魔法です。

 こんな魔法は見たことはおろか、聞いたこともありません。


「このまま殺すのですか?」


「殺してしまいたいのはやまやまですが、ボニファ公爵とアーダに罪を証言させないといけません。

 素直に証言する気になるくらい、痛み苦しんでもらいます」


「もう大丈夫ではありませんか。

 見ていてあまり気持ちのいいものではありません。

 できれば早く終わらせてください」


「おい。

 お前たちは何者だ」


「貴男たちこそ何者ですか。

 我は襲撃犯を懲らしめていただけだ。

 身分を明らかにしなければ、こいつらと同じボニファ公爵の手先と判断して殺す!」


 私を助けてくれた、亡母の知り合いだと思われる謎の男は、明らかに騎士と分かる鎧を装備した一団に喧嘩を売ってしまいました。

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