第3話

「皆さん楽しんでくれているかな。

 今日は無礼講だから、はめを外して楽しんでくれたまえ」


 ボニファ公爵の言葉に、シンデレラを見る会場の貴族たちの目が更に嘲笑を増した。

 いよいよ罠が閉じる。

 シンデレラは罠を食い破る覚悟で下腹に力を入れた。


「きゃぁあぁぁぁ。

 ないわ!

 家宝の髪飾りがないわ!

 盗まれたのよ。

 誰かが盗んだのよ!」


 酷い三門芝居だとシンデレラは内心ため息をついた。

 自分を盗人にするつもりなのは直ぐに分かった。

 だがやり方が酷すぎる。

 罠など用意せず、力業で自分を犯人にするつもりだと、ため息が出る思いだった。


「私は見ました。

 シンデレラが髪飾りを盗みました。

 間違いありません。

 確かにこの目で見ました」


「私も見ました。

 その女が髪飾りを盗んだところを、確かに見ました」


「おとなしくしろ。

 盗んだ髪飾りがないか確かめてやる」


 子爵令嬢の身体検査をするというのに、女ではなく男が前に出てきた。

 脂ぎった下劣な表情の男だ。

 抵抗できない女性を嬲るのが楽しみで仕方がないのだろう。


「待ってもらおうか。

 動くな!

 一歩でも動けば、その首ねじり切る」


「何だと!

 下郎、盗人の味方をするつもりか!

 邪魔をするなら、貴様も同罪とするぞ!」


「下郎だと。

 私はエドモン。

 王太子殿下の親衛騎士隊の百騎長を務めている。

 私を愚弄するのは、私が代理を務める王太子殿下を愚弄するに等しい。

 それを理解した上での言葉か!」


「いや。

 その。

 そんなつもりは」


「それと」


 エドモンは、とても立派な体格をしていた。

 巨躯ぞろいの騎士の中でも特に立派な身体つきだ。

 その身体で信じられないように素早さで動いた。

 動いて脂男の腕を捩じ上げ、男の懐から髪飾りを取り出した。

 そしてそれを高々を掲げて。


「盗まれたという髪飾りはこれか!

 なぜ盗まれたはずの髪飾りがこの男の懐にある?

 この男の懐にある髪飾りを、何故そこのお嬢さんが盗んだと言える!?

 盗まれたと主張した女も含め、四人の謀略か!」


「いえ、それは、私の髪飾りではありません」


「本当です。

 本当に見たんです。

 ええ確かです。

 確かに見たんです」


「私も確かに見ました」


「ではお嬢さん。

 盗まれたという髪飾りの特徴を言ってください。

 家宝とまで言うのですから、詳細に言えるでしょう。

 そうでなければ、盗まれたというのは狂言とみなします」


「それは。

 あの。

 赤い大粒の宝石が付いた」


「宝石の種類は何です。

 家宝なら言えるでしょう」


「…あの。

 …その。

 …えっと」


「まあいいではないか。

 エドモンとやら。

 たかが髪飾りではないか」


「ですが公爵閣下。

 そのたかが髪飾りで、このお嬢さんは盗人にされかけたのです。

 それは貴族として決闘に値する名誉棄損です。

 もし公爵閣下が同じような真似をされて、犯人を笑って許せるのですか?!」


 エドモンは、挑戦するような眼でボニファ公爵を睨みつけた。

 ボニファ公爵は罠にはめるつもりが、逆に自分が罠にはまったのだと気が付いた。


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