第2話
シンデレラの義母のアーダと義妹たちは、体裁を気にしていた。
自分たちがシンデレラを殺そうとしていることは、シンデレラの婚約者グレアムと父親のアブラーモには知られている。
アブラーモはシンデレラを殺しても口を噤むだろうが、グレアムは黙っていないだろう。
だから先ず罠を仕掛けることにした。
「シンデレラ様。
今日は公爵閣下の舞踏会に参加していただきます。
こちらの衣装に着替えてご用意ください」
慇懃無礼の言葉そのものの、何の敬意も含まない冷たい言葉で、侍女がシンデレラに着替えを強要した。
シンデレラはこれが罠だと分かっていた。
舞踏会に行けば、何かの冤罪を着せられるだろうことは、簡単に推測できた。
そうでなければ、今まで一切舞踏会に参加させなかった義母たちが、今更舞踏会に行けと命じるはずがない。
だが断れなかった。
ろくに食事をしていないので、まったく体力がなく、無理矢理着替えさせられても抵抗できない。
ここで抵抗しても体力を浪費するだけで、どうにもならない。
それくらいなら、舞踏会場で戦う体力を残しておいたほうがいい。
シンデレラはそう判断して、空腹で倒れこみそうな自分を叱咤激励して、馬車に乗り込んだ。
馬車は御者一人しかいなかった。
急遽借りてきたボロボロの馬車だった。
まあ当然と言えば当然だ。
子爵家の立派な馬車は義母と義妹が使っている。
シンデレラに家の馬車を使わせるはずがなかった。
これくらいのことはシンデレラの想定内だった。
用意された衣装も、とても子爵家令嬢が着るようなモノではない。
貴族の令嬢ならば、このような衣装で舞踏会に参加するよりは、欠席するような粗末な衣装だ。
死装束ならば、せめてもう少し礼儀を尽くして欲しかったとシンデレラは思ったが、あの義母と義妹に、そのような心遣いを期待するのは不可能だと諦めるしかなかった。
舞踏会場のザンピエ公爵邸にについたシンデレラだが、誰にもエスコートしてもらえなかった。
それどころか、粗末な衣装や何の宝飾品も着けていないことを、揶揄する陰口に晒されることになった。
だがそんなことなど気にしていられなかった。
先ずは腹ごしらえして、少しでも体力を回復したかった。
だがここは敵地のザンピエ公爵邸だ。
給仕や侍女に頼んだ食事には毒が入れられている可能性がある。
だから他の人が既に食べている、テーブルに並んだ大皿料理しか手をつけられない。
既に多くの嘲笑に晒されているから、今さら体裁を気にしても仕方がないので、シンデレラはテーブルに乗った料理を食べ始めた。
蔑むような視線に晒されるが、シンデレラには生き延びることこそが最優先だった。
隠れた味方のお陰で、最低限の食事は確保していたが、義母や義妹に気づかれないように、満足するほどは飲み食いできていないのだ。
ボニファ公爵が舞踏会場に入ってきた。
会場の気配が一気に凍り付いた。
いよいよ狩りが始まる。
会場の全ての視線がシンデレラに集まる。
シンデレラも罠に立ち向かう覚悟を決めた。
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