第25話

「姫様。

 ガブリエル王子殿下とグレイソン王弟殿下との謁見はいかがなさいますか?」


「御二人とは既に一度王族として正式に会っています。

 今回は大使と商館長としての来日です。

 舞踏会場で話ができるようにしてください」


「承りました」


 レイスリー宮中伯は本当に優秀です。

 父王陛下が体調を崩され、各国の使者との会談が不可能になった現在、それを悟らせないように図ってくれています。

 本当はそれほど悪い訳ではありませんが、これ以上王と言う重圧に耐え続けると、心が壊れてしまうと私が判断して、旧ホワイト侯爵領に母上様と一緒に戻ってもらいました。


 各国の密偵は情報が錯綜して右往左往しているでしょう。

 父王陛下が戦力の拡充と訓練の為に、ホワイト領に戻ったと言う好戦的な情報から、既に崩御されているのを隠しているという情報まで、私と父王陛下が流した欺瞞情報に踊らされています。

 一番切実に感じているのはゲラン王国とマイヤー王国でしょう。

 両国間の戦争にとって、我が国の動向は無視できないでしょう。


「ビリー、輸入の方はどうなっていますか?」


「マイヤー王国との交易を中心に、中継貿易で莫大な利益が上がっております。

 ゲラン王国との交易利益も例年の十倍近くなっています。

 ですがその分諸物価が未曾有の高騰をしております。

 民が食糧不足で飢える事になるかもしれません」


 マイヤー王国は開戦準備の為に、蓄えを放出してでも軍需物資を購入しているのでしょう。

 ゲラン王国も同様の状態なのでしょう。

 いえ、それだけではないと思われます。

 互いに必要な軍需物資を購入しようとして高値になっている以上に、互いに相手が軍需物資を購入出来ないように、買占めを図っているのでしょう。

 それに加えて、高値で売ろうとする商人の思惑が、未曾有の物価高を産み、莫大な利益に結びついているのでしょう。


「莫大な利益が出るのはいい事ですが、国内が物価高で混乱するのは困ります。

 その混乱に付け込んで侵攻を図る国が現れるかもしれません。

 早急に手を打たなければいけません。

 何か思案はありますか?」


「備蓄食糧を配給制にすると言う方法がありますが、それを行うと、必ず横流しを図る不心得者が現れます。

 それに国が大きな損失を被ることになりますし、他国が侵攻してきた場合に兵糧が不足する可能性もあります。

 いえ、備蓄食糧の不足が他国の侵攻を誘う事でしょう」


 確かにビリーの言う通りです。

 簡単に配給を行う事はできません。

 それでなくとも、給料が食糧現物支給の旧王国騎士が、本来備蓄しておくはずの食糧を売り払っていると耳にしています。

 何か考えなければなりません。

 ホワイト侯爵家時代から財務を担当してくれているビリーなら、口にできない解決策を持っているのかもしれません。

 他の宮中伯を下がらせてから聞く事にしましょう。

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