第11話

「王太子殿下をお助けしなさい!

 神の意志に従いなさい!

 神は王太子殿下を王に望んでいるのです!」

 なにをしているの?

 早く神の意志に従いなさい!」


 偽聖女は追い込まれているようです。

 金切り声で叫んでいます。

 冷静な判断ができないのでしょう。

 神様と言わずに神と言ってしまっています。

 偽聖女の方が神様より上位だと思い上がっているのでしょうか。


 しかし、用意周到ではあります。

 貴族の中には、衣装の下に短剣を隠していた者がいるようです。

 王家の護衛の中にも、剣を抜いて国王と正妃に向かう者がいます。

 王太子と偽聖女だけでは、ここまでの準備は不可能でしょう。

 教会が裏で動いていますね。


「貴男!

 国王陛下と正妃殿下を護りなさい!

 王家に忠誠を示す好機です!

 剣と命を捧げなさい!

 ぐずぐずしない!」


 雷に打たれたように硬直していた者たちが、私の叱咤激励を受けて、一斉に動き出しました。

 他人事と思わないように、皆が自分に言われたと思うように、八方目で騎士や貴族に視線を送ったのです。

 本気で武芸に取り組んでいてよかったです。


 私のデビュタントが殺し合いの場になるとは、想像できませんでした。

 まあ、想像出来る人間なんて、悪事を企んだ当人たちだけでしょう。

 しかし、これで私の名が歴史書に残る事になるのでしょうね。

 王太子が勝っても負けても、王太子は婚約者のデビュタントで婚約破棄を宣言し、教会の力を借りて聖女と共に謀叛を起こしたと。


 でも王太子に勝たせる訳にはいきません。

 勝つのは私です。

 ホワイト侯爵家が勝つのです。

 ああ、ああ、ああ。

 ホールが血まみれです。


 掃除が大変ですが、仕方ありません。

 その分見返りをもらわないといけません。

 予想通り、国王派と王太子派は拮抗しています。

 王太子派は、準備万端整えていたので武装していますが、人数が少ないです。

 国王派は、武装している者は少ないですが、私の檄で多くの貴族が参加しています。


「私の事はいいから、王太子と偽聖女を捕らえなさい」


「承りました」


 功名はホワイト侯爵家のものです。

 事が起こってから、直ぐに私の周りに集まった護衛が、一斉に動きました。

 皆一騎当千の騎士たちです。

 執事や給仕の服装をしていますが、本職が騎士の者や騎士見習いの従騎士です。

 ホワイト侯爵家は武を尊ぶ家柄なのです。


 瞬く間に、王太子と偽聖女が捕縛されました。

 殺すには及びません。

 いえ、殺してしまっては、ホワイト侯爵家が手を汚すことになってしまいます。

 王太子の不始末は、王家に取って頂かなければいけません。

 婚約破棄の賠償金と、謀叛人捕縛の功名、どちらの褒美もたっぷりいただきます。

 当然今までの貸金も全て強制回収させていただきます。


 どうなされるおつもりですか?

 国王陛下。

 王妃殿下。

 

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