第10話

「母上様の方が馬鹿です。

 高慢ちきなすまし女に騙される母上様の方が愚かなのです。

 聖女はこれほど可憐でおしとやかなのに、それが理解出来ないなんて。

 もはやこれまでです。

 父王陛下や母上様に国を任せておけません。

 神が認定された聖女が選んだ私こそ、この国の指導者に相応しいのです」


 あれあれ。

 これは自滅ですね。

 救いを差し伸べようとした王妃殿下の手を、思いっきり叩きました。

 いえ、これは、さらに顔を殴ったに等しいでしょう。

 この場にいる全貴族の前で叛乱宣言したのですから。

 

 しかし、私が高慢ちきなすまし女ですか。

 マリーが可憐でおしとやかに見えるのですね。

 馬鹿とは可哀想なモノです。

 悪意あるモノの言葉に簡単に騙されてしまいます。


 庶民なら自分と家族だけが被害を受けるだけで済みますが、王太子となると、国中の人間が被害を受けて不幸になります。

 いえ、一国の話ではすみません。

 我が国が混乱していると隣国の眼に映れば、馬鹿な国が攻め込んで来るかもしれないんです。


 そんなことになれば、攻め込んで来る国も民まで不幸になります。

 中には略奪や戦功で富や地位を得る者もいるでしょう。

 ですが無理矢理徴兵された多くの庶民は、戦死したり戦傷を受けたりするのです。

 中には戦病死する者もいるでしょう。

 そんな不孝の連鎖を産むことは、断じて阻止しなければいけません!


「そうですわ!

 王太子殿下こそ、この国の指導者に相応しいのです!

 王太子殿下でなければ、貴族たちの専横を止める事などできません。

 どうかこの国をお救いください。

 国王陛下と王妃殿下には、心安らかにお休みいただきましょう」


 おっと、マリーがなにか言っています。

 王太子を扇動しているようですね。

 ですがやはり馬鹿ですね。

 大失言をしてしまいましたね。


 ここはホワイト侯爵家の専横と言わなければいけません。

 貴族たちと言った時点で、全貴族を敵に回しました。

 忠義馬鹿と本当の馬鹿以外の全貴族と言う意味ですが。

 しかし、国王陛下と王妃殿下に心安らかにお休みですか?

 悪くとれば、殺せと言う意味にも取れますね。


「なんて性悪なんでしょう!

 王太子を誑かしたばかりか、妾と国王陛下を殺せと言いましたよ。

 ねえ陛下。

 心安らかに休ませろだなんて隠語を使って、弑逆を唆しましたよ!」


「え?

 あ?

 ほ?

 そうか?

 そうだな!

 なにをしているか?!

 急げ。

 急いで性悪女を逮捕しないか!」


 あら、あら、あら。

 この期に及んで、まだ、王太子を助けるおつもりですか?

 これはいけませんね。

 これでは、私も国王と王妃にお休みいただきたくなっちゃいます。

 私は我慢できても、貴族たちが我慢できなくなってしまいます。


 それに、ここまでやった王太子が、素直に幽閉に応じるとは思えません。

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