第9話

「何と酷い女なんでしょう!

 今度は神様の名を騙っています。

 神様の名を使っていいのは、教会だけなのです。

 聖女の私は神様の代行者なのです。

 その私を差し置いて、神の名誉を守ると言うなんて、不遜の極みです!

 私こそが神様の名誉を守る戦いをしているのです」


 馬鹿ですね。

 本当にお馬鹿さんです。

 反論していますが、私の言ったことを、自分に置き換えて繰り返しているだけです。

 これでは貴族たちを味方につけることはできません。


 貴族たちを味方に付けたければ、もっと気の利いた事を言わなければなりません。

 機転が利かないのなら、理論武装しなければいけません。

 私もまだまだ未熟ですが、偽聖女相手なら勝てそうです。


「神様の名誉を守ると言うのは、どう言う事ですか?

 神様のお言葉を騙った者がいると言う事ですか?

 つまりそれは、教皇猊下と枢機卿猊下が、聖女殿と王太子殿下の婚姻を神様が望んでいるにもかかわらず、嘘をついて王太子殿下と私を婚約させたと言う事ですか?!

 それならば確かに、神様の名誉を守るために、教皇と枢機卿を討たなければならないでしょう!

 国王陛下、正妃殿下!

 どうぞ討伐軍を送られてください」


「ええ、そうね。

 直ぐに討伐軍を送らないといけないわね。

 そうですわね!

 陛下!」


「え?

 あ?

 ほ?

 そうか?

 そうだな!

 急げ。

 急いで軍を編成するのだ!」


 正妃殿下が私の目配せに気が付いてくださいました。

 このような大事は、国王に任せる事などできません。

 上手く動いて下さるのは、正妃殿下だけです。

 

「お待ちください!

 違います。

 そうではないのです!

 私が言いたいのは、その悪女が悪いと言う事なのです。

 ねぇ、王太子殿下。

 そうですよね、王太子殿下。

 全部あの悪女が悪いんですよね!」


「え?

 あ?

 ほ?

 そうか?

 そうだな!

 父王陛下。

 討伐軍を送るのは教会ではありません。

 ホワイト侯爵こそ討つべき相手なのです!」


「愚か者!

 そのような嘘つき女に騙されて。

 貴男はどれだけ馬鹿なのですか?!

 別室で頭を冷やしなさい。

 近衛兵!

 王太子を別室で休ませなさい。

 嘘つき女は牢に放り込みなさい!」


 馬鹿な子ほど可愛いのかもしれません。

 この期に及んでも、正妃殿下は王太子を助けたいのでしょう。

 ですがもう無理です。

 王太子が国王以上の馬鹿なのが露見してしまいました。

 いや、馬鹿で大人しいならともかく、馬鹿で行動力がある事が、この場の全貴族にばれてしまったのです。


 それでは誰もついていきません。

 まあ、傀儡にして操ろうと企む者はいるかもしれませんが、そんな奴は王太子と同じ馬鹿なので、先の見える他の貴族に潰されるでしょう。

 まともな貴族なら、他国に攻め込まれる危機を迎えたいとは思いませんから。


 さて、王太子に正妃殿下の親心が理解できるかどうか?

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