第34話

 シャア達は一歩及ばなかった。

 聖なる武具を手に入れて、急いで王城に駆け付けたが間に合わなかった。

 オリヴィアは既に七人の王子を追いかけて行ってしまい、残っているのは見張りの魔獣だけだった。


「間に合わなかったのは残念だが、これもいい機会だ。

 聖剣と聖なる武具の効果を確かめよう」


 シャアは五人に新たな武器の試し斬りを提案した。

 オリヴィアと対決する前に試しておきたかったのだ。

 幼い頃の寝物語に、祖父母から何度も聞かされた聖なる武器だ。

 その効果が嘘偽りだとは思わないが、誇張されている可能性もある。

 バートとエイダの為にも、確かめておきたかった。


 冷酷な所もあるシャアは、危険を冒さずにオリヴィアを利用する心算だった。

 エミリーを危険に晒すくらいなら、オリヴィアを見捨てる心算だった。

 だが自分達に危険が及ばないのなら、妹を想うバートとエイダの為に助けてやる心算だった。


 その為には、聖なる武器の性能を確かめておきたかった。

 相手は単なる魔獣ではない。

 人の怨念を取り込んで狡猾になっている。

 怨念で力を増した怨魔獣とも言える存在なのだ。

 しかも最後に残るのは、聖女とまで呼ばれたオリヴィアが、闇落ちして魔獣と同化した存在なのだ。


「逸るな!

 普段と同じように、十分な間合いを取って攻撃しろ!」


 シャアは焦るバートを叱咤した。

 オリヴィアと再会して以来、動きに焦りが見えるのだ。

 粗のある動きで、今迄以上に隙があるのだ。

 これでは大事のさいに背中を任せる事ができない。

 だが昔はもっと酷かった。


 若いと言うか、幼いくらいのバートとエイダを預かった当初は、足手纏いもはなはだしかった。

 それを辛抱して一人前に育て上げたのだ。

 少々動きに粗が出たと言って、今更慌てはしない。

 それにエイダの動きはむしろ良くなっている。


 危機に際してこそ人間の本質が見えると言うだが、その通りだった。

 一見気が強く見えるバートよりも、エイダの方が危機に際して冷静に行動出来る。

 本質はエイダの方が強いのだ。

 ならばエイダを兄妹の軸に考えればいい。


「バート、お前が慌てたらエイダを巻き込んで殺す事になるのだぞ!

 それでオリヴィアを助けられると思っているのか?!

 エイダの盾となり、牽制だけをする心算で戦え!」


「……はい」


 バートも悔しいだろうが、ここは我意を抑え込んだ。

 矢張り成長しているのだ。

 これなら組から外さなくて大丈夫だとシャアは思った。

 クロードとアメリアは何の心配もいらない。

 聖なる武具に苛立ち、逃げずに襲い掛かってくる怨魔獣を牽制してくれている。


 問題はこの聖剣が本当に怨念と魔獣を斃せるかだ!

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