第30話

「凄い!」


「なんて御宝だ!」


 シャアが枢機卿に剣を押し付け、教会の宝物殿に案内させた。

 その中は、目も眩むような御宝で一杯だった。

 神にすがる国中の民から巻き上げたモノだ。

 いや、もはや神を信じる者などいない。

 神を騙って、教会領の民から無慈悲に巻き上げたモノだ。


 シャア組以外の勇者候補は、我を忘れて御宝を懐に入れている。

 いや、傭兵時代に戦場掃除で遺体から鎧兜や衣服を剥ぎ取ったように、頭陀袋に手当たり次第に御宝を放り込んでいた。

 それでも傭兵時代の知恵で、造りの功名な足のつきそうな物は避けて、金貨や鋳つぶせる金製品を選んでいた。


「シャア。

 さっき宝剣と言っていたが、この中に有るのか?」


 クロードがシャアに疑問を問いただした。

 クロードから見れば、ここは一般的な宝物殿で、秘宝殿とは思えなかったのだ。

 もちろんシャアもその事は理解していた。

 だから枢機卿の身体に聞いた。

 粉砕骨折させた部分を叩き、拷問したのだ。


「ギャァァァァ。

 痛い。

 痛い。

 やめてくれ。

 もう許してくれ」


「多くの民が、同じように泣いて頼んでも、無慈悲に全てを奪ったのだろう。

 オリヴィアを王子達に売り払ったのだろう!

 お前に与える慈悲などない!

 早く秘宝殿に案内しろ。

 案内しなければ、残った骨身も全て叩き砕くぞ!」


 そう言ったシャアは、砕いていない指二本を握り潰した。

 痛覚が多く、より痛みを感じる手先足先を残していたのだ。

 枢機卿は我慢出来なかった。

 御宝は大切だが、痛みには抗えなかった。

 教会の秘宝中の秘宝を隠す、宝物殿の中にある隠し部屋を開いた。


「あった!

 これが探し求めていた聖剣だ!」


「御兄さま!

 ここにある鎧兜も、聖なる力を感じます」


「ああ、そうだな。

 聖なる力を宿した物は、全て持ちだす。

 このような穢れた場所には置けない」


「はい。

 御兄さま!」


 シャアの口調は変わらないが、エミリーの言葉が一変していた。

 とても傭兵の口調ではない。

 まあるで王侯貴族のような言葉遣いだ。

 歴戦のクロードとアメリアはその事に気がついていたが、何も言わなかった。


 実力が急激に上がって、大抵の敵とは互角以上に戦えるバートとエイダだが、まだ経験と言う点で劣っており、エミリーの変化に気が付かなかった。

 

 シャアは聖堂騎士団の若手に、聖なる力を帯びた物全てを運ばせた。

 もはや傭兵は使えなかった。

 御宝に眼が眩み、下手に命令すれば、死を恐れず逆らう事が分かっていた。

 傭兵達は、御宝を持たせて帰国させればいい。

 そう考えていた。


 自分達六人が残り、聖なる武具を装備して戦えば、怨念と魔獣からオリヴィアを解放出来ると考えていた。

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