第28話
「枢機卿猊下。
ここにいるのが勇者候補の代表、シャアでございます」
聖堂騎士団の団長は、シャアの強訴に抗しきれず、枢機卿との謁見を整えた。
全てはシャアの思惑通りだった。
「よくぞ来た。
シャアとやら。
遠慮せず顔をあげるがいい」
「恐れ入ります」
「何事か願いがあるという事だが、遠慮せず申してみよ」
そうは言ったものの、枢機卿は何も与える気がなかった。
金は勿論、兵糧すら与える気がなかった。
一旦自分が手に入れた物は、銅貨一枚であろうと、他人に渡す気はなかった。
上手く言いくるめて、徴税権だけを与える心算だった。
絞りに絞って、もう涙も流せなくなった民から、なけなしの食糧を奪う権利だけを与える心算だった。
「私が欲しいのは、教会の秘宝、聖剣ですよ。
この大聖堂の奥深くに保管されているという、聖剣をもらい受ける。
その聖剣があれば、魔女であろうと魔獣であろうと、確実に斃してやるよ」
「おのれ痴れ者!
身分を弁えろ!
傭兵ごときが、教会の秘宝を渡せだと。
殺せ。
殺してしまえ!」
「しかし枢機卿猊下。
聖剣を貸し与えれば、本当に魔女と魔獣を斃してくれるかもしれません」
「黙れ、黙れ、黙れ!
汚らわしい下民になどに、教会の秘宝を貸し与える事は出来ん。
早く殺さんか!
殺さねば団長を解任するぞ。
お前達もこの者を殺すのだ。
さもなくば教会を破門するぞ!」
枢機卿は怒り狂っていた。
自分の宝が奪われると激怒していた。
枢機卿から見れば、教会の秘宝は自分のモノだった。
自分の宝を人に貸し与えるなど、絶対に嫌だったのだ。
自分なら上手く騙して借りた物は絶対に返さない。
シャアとやらは、魔女と魔獣を斃すために必要だから貸せというが、それは秘宝を騙し取るための方便で、魔女と魔獣を斃す気など全然なく、渡した途端この国から逃げ出すと、そう枢機卿は思い込んだのだ。
聖堂騎士団長と団員は、解任や破門が怖かった。
ずっと教会の権威を盾に生きてきた。
その権威を失えば、今迄のようにうまい汁を吸って生きていけない。
それどころか、破門されたとなれば、今迄踏みつけにしていた者から報復される。
多少武芸に自信があるが、三六五日四六時中警戒する事など出来ない。
眠っている間に、恨みを晴らそうとするモノに襲われたら、いつかは必ず殺されてしまう。
それも楽には死ねないのは確実だ。
今まで自分達が聖堂騎士団と言う地位を笠に行ってきた、傍若無人で非人道的な行いを、そっくりそのまま報復されるだろう。
そう考えれば、一か八かに賭けて、シャア達と戦うしかなかった。
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