第27話

「何をしている。

 とっとと奈落に行って魔女を殺してこい。

 くずくずしていたら、団長を解任するぞ」


「しかし枢機卿猊下。

 我らがここ離れている間に、魔獣が襲ってくるかもしれません。

 枢機卿猊下を御護りするには、ここを離れるわけにはいきません。

 まずは騙して集めた傭兵達を向かわせましょう。

 思いがけず強力な傭兵も混じっています。

 奴らなら魔女であろうと魔獣であろうと、簡単に斃す事でしょう」


 教会の枢機卿は、恐怖と怒りで常軌をなくしていた。

 教会内の派閥に関係なく、多くの司教や大司祭が殺されてしまった。

 上納金を治めていた教会が破壊され、教区も崩壊してしまった。

 このままでは責任問題だ。

 いや、何時自分を襲いに魔女がやってくるかもしれない。


 追い詰められた枢機卿は、絶対に側から離さなかった聖堂騎士団に討伐を命じるほど、正常な判断が下せないようになっていた。

 だが聖堂騎士団の団長は、余裕をもって返事が出来た。

 団長も、自分では魔女や魔獣に勝てない事は重々承知していたが、シャア組の強さを目の当たりにしていたので、彼らにやらせればいいと考えていたのだ。

 だが事はそう簡単にはいかなかった。


「駄目ですな、団長殿。

 口約束など信じられませんな。

 どうしても魔女や魔物を斃しに行けと言うのなら、せめて枢機卿猊下から直接報酬の約束を頂かないと、とても命懸けの仕事など出来ません」


「なんだと。

 この無礼者が!

 傭兵ごときが、枢機卿猊下の謁見させろと申すか?!」


「傭兵ごときとは異なことを申します。

 教会は我々を勇者候補としてこの国に呼び寄せたはず。

 それを傭兵ごときと言うのなら、我々はこの国を去らせていただきます」


「待て。

 待ってくれ!

 分かった。

 シャアの言い分は枢機卿猊下に御伝えする。

 だから少し待ってくれ」


 奈落の淵から移動したシャア組は、一時は袂を分かった下劣な傭兵達と再合流し、聖堂騎士団の指示に従い、教会領を巡回したが、幸か不幸か魔獣にも魔女にも遭遇しなかった。

 尻に火が付いた聖堂騎士団は、勇者候補を一旦枢機卿のいる大聖堂に戻し、奈落の討伐に行く準備を整えるように命じたが、シャアが面と向かって拒否したのだ。


 勇者候補達も、シャアの指示に逆らうのも怖いが、魔女や魔物はもっと怖い。

 この国に来てみて、魔女や魔物が本当にいる事が分かった。

 巡回した村や街を巡って、自分達では魔女や魔物に歯が立たない事を痛感していた。

 だから逃げ出したかった。

 シャアもその事を理解していた。


 シャアは切り札が欲しかった。

 この国に入って色々と調べて、それが大聖堂に保管されている事を知ったのだ。

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