第26話

 オリヴィアは奈落の底でもがき苦しんでいた。

 元に戻ろうとする聖女の心と、怨念が戦っていた。

 それくらい聖女の心が戻って来ていたが、それでも怨念の方が強かった。

 自分で報復したい気持ちに変わりはないが、他の怨念に引きずられている今の状態では、我を忘れてしまうかもしれなかった。


 狂気に染まり、大切なバートとエイダに、魔獣の一部が襲い掛かってしまうかもしれなかった。

 こんな状態では、オリヴィアも報復に動けなかった。

 だが魔獣と一体化した怨念の一部は、オリヴィアのコントロールを離れ、勝手に奈落を出て行ってしまった。

 そして彼らの激烈な報復が始まった。


 オリヴィアにコントロールされている間は、統制のとれた報復が行われていた。

 だがオリヴィアのコントロールが離れた以上、無差別な報復が始まった。

 奈落の周辺にある村や町が、無差別に襲撃された。

 魔獣は人間を無差別に喰い殺した。

 地獄絵図の国だが、そんな中でも最低限の暮らしをしていた状況が崩れたのだ。


 土地を離れたら生きていけない国だが、村や街に残れば喰い殺されてしまう。

 だが国から逃げ出せば生き延びられる道がある。

 そう考える者が現れたのだ。

 一人がそう考えて逃げ出せば、後に続く者もいる。

 一旦そういう流れば出来れば、雪崩現象が起こる。


 民が全て国を捨てて逃げ出そうとした。

 教会と領主に止める事など出来なかった。

 末端の神官や領主軍の兵士まで逃げ出していたからだ。

 

「兄上。

 どうする心算なんです。

 このままでは、魔女が王都にまでやってきますぞ」


「俺達に復讐するためにか?」


「ええ。

 身分もわきまえず、復讐などとふざけた事を言って、魔獣を従えてやってきますぞ」


 余裕の表情で、新たに攫ってきた女を嬲っている第一王子に、第二王子が少々苛立ちながら聞いた。

 オリヴィアが魔獣をコントロールしている間は、末端の神官や領主から報復されていた。

 自分達を最後の標的とする事で、恐怖感を与えようとしている事は、明々白々だった。


 腹立たしい事ではあったが、時間が稼げると考えた王子達は、教会とは別に隣国から傭兵を集めようとしていた。

 だが教会と違い、自国以外にはほとんど力がなかった。

 悪行の評判が隣国にも広まっていて、どの王家も相手にしてくれないのだ。

 だから法外な報酬を約束して、隣国の将軍や騎士を引き抜こうとしている最中だったのだ。


「心配するな。

 もう話はつけてある。

 お前達は将兵を纏めておけ」

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