第23話

「ギャァァァァ」


 情けない事だった。

 仮にも教会を護る戦闘部隊の一員が、人が殺される所を見た程度で悲鳴を上げる。

 僭称とは言え、聖堂騎士団を名乗っていると言うのにだ。

 まあ、抵抗出来ない者を嬲り殺しには出来ても、自分が殺されるかもしれない場は怖いのだろう。


 今はまだ、シャアも聖堂騎士団員を殺す気などないのに。

 当然殺気など漏らしていない。

 殺気に反応して恐怖しているのではなく、この場の惨状と、シャアの決断に恐れをなして悲鳴を上げているのだ。

 そう、シャアはいきなりリーダー仲間を斬り殺したのだ。


 聖堂騎士団との謁見を終え、聖堂騎士団員に案内され、リーダー仲間と控室に戻って来たが、ドアを開く前から、異常を感じて臨戦態勢をとっていた。

 ドアを開けて直ぐにシャアは状況を正しく把握した。

 その時には既に剣を抜き放っていた。


 記憶力と動体視力に優れたシャアは、仲間が襲い掛かってきた盗賊騎士団を逆撃し、皆殺しにした事が分かった。

 そう理解した時には、さっきまで共同して聖堂騎士団長と交渉していた、盗賊傭兵団リーダーの首を刎ねていた。

 斬り口からは噴水のように血が噴き出していた。


「理由を報告してくれ」


 沈着冷静はシャアは、一切の感情を表に出さずに、サブリーダーのクロードに戦いになった理由を説明させた。

 シャアには大体の事が理解出来ていたが、控室にいなかったリーダー達や、聖堂騎士団員には理解不能だった。

 だから正当性を主張する為に、クロードに報告させたのだ。


 クロードの説明は理路整然としていた。

 他のリーダーは勿論、聖堂騎士団員も異論をはさむ余地がなかった。

 斬り飛ばされた女誑しの腕が証拠として出され、毒針が確認された。

 シャア組に恐怖していた他の勇者組も、我先にとシャア組の正当性を訴え、シャア組に眼を付けられないように保身に走った。


 案内を務めていた聖堂騎士団員達は慌てふためいた。

 当然だろう。

 せっかく集めた勇者候補が、魔女と戦う前に百人以上死んでしまったのだ。

 急いで聖堂騎士団長に知らせたが、どうなるモノでもない。

 事情も殺したシャア組の方に正当性がある。


 聖堂騎士団長は内心怒りに震えていた。

 だがそれを表に出すほど若くも愚かでもなかった。

 たった五人で百人を皆殺しにする強者を処罰など出来ない。

 処罰出来ない以上、怒りを露にするわけにはいかない。

 だがらグッと飲み込んだ。


 一方シャアは予定変更を決断していた。

 今なら全勇者候補を支配下に置いて動くことが出来る。

 だが欲得尽くでこの国に来た者達が、シャア組の正義感を快く思うはずがない。

 無理に正義感を押し付ければ、必ず逆恨みして、隙を見て逆襲に転じる。

 だから出来るだけ早く教会の支配下から逃げ出す事にした。

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