第19話

 司祭とのその家族。

 教会に住む悪党達が惨殺されて一週間。

 街は平安を取り戻そうとしていた。

 多くの人が、襲撃は去ったと思い込んでいた。

 次の襲撃は、大司祭のいる教会だと思い込んでいた。


 だが違っていた。

 再び同じ街に魔獣が現れた。

 今度は領主の城が魔獣に囲まれた。

 たまたま城から出ていた家臣は、そのまま逃げた。

 主君も家族も捨てて、城に戻らず他の街に逃げた。


 忠義も家族愛もなかった。

 自分の命が一番だった。

 そんな人間でなければ、領主の家臣は務まらない。

 まともな正義感や倫理観を持っていたら、良心が咎めてとても役目が務まらない。

 悪党でなければ、役人のような悪逆非道な仕事は出来ない。


「討って出るぞ。

 城に籠っても無駄だ。

 生きていい目を見たければ、魔獣を斃すんだ」


 領主は家臣に出陣を命じた。

 魔獣と戦う事を命じた。

 自分も完全武装をしていた。

 民から搾り取った金で造らせた、防御力の高いフルアーマープレートだ。

 またがる軍馬も名馬だ。


 だが戦う気などない。

 家臣達に血路を開かせる心算だった。

 家臣を戦わせている間に、自分と家族は逃げる心算だった。

 王都に逃げれば、王国軍がいる。

 いくら魔獣が相手でも、王国軍なら撃退出来ると信じようとしていた。


 だが直ぐには逃げ出せなかった。

 下級兵士が突撃を拒んだのだ。

 突撃を渋る下級兵士を、剣で脅してむりやり出陣させた。

 身分の低い順番に、先陣を命じられて突撃した。

 領主とその家族は、多くの者を犠牲にして、自分達だけ逃げる心算だった。

 だが、恐る恐る先頭を切った兵士が、一撃で両足を粉砕された。


「逃げ切れると思っていたの?

 私は忘れないわよ。

 家族の前で嬲り者にされた事」


「私も忘れていないわよ。

 娘を目の前で嬲り者にされた事」


「俺も忘れていないぞ。

 恋人を嬲り者にされた事」


 この街の領主も、王子達に倣って娘狩りをしていた。

 その時に殺された娘や、その家族や恋人が、死んで奈落の底に落とされていた。

 王侯貴族のやる事など同じだった

 その恨みが、報復されているのだ

 将兵が次々と無力化されていった。


 一撃で殺してなどもらえなかった。

 領主とその家族は、先日殺された司祭達を同じ方法で殺された。

 魔獣達に拉致されて、城に連れ戻された。

 そこで七日七晩拷問された。

 そして同じように狂ってから殺された。


 家臣達は身動きできない重傷で放置された。

 街の人間に報復さるためだった。

 人間性の崩壊した国だ。

 街で生活する者の心も荒んでいる。

 しかも強弱が逆転したのだ。


 領主の家臣として、街の人間をいたぶり搾取してきた。

 そんな領主の家臣が、重傷で身動き出来ない状態なのだ。

 街の住人が見逃すはずがない。

 魔獣達は領主家族を拉致して城にいる。

 街の民は領主の家臣達を嬲り殺しにした。

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