第17話

 バートとエイダが教会の勇者募集を知った頃、オリヴィアの復讐が着々と進んでいた。

 末端教会の神官を皆殺しにしたオリヴィアは、次に司教のいる教会を狙った。

 管区を預かる司教のいる教会は、たいそう立派な作りだった。

 だがその為の金は、民から搾り取ったモノだ

 教会領の民には、神の慈悲など与えられないのだ。

 

 教会領だけではなく、この国の全てが地獄だった。

 この国の民は、この世の地獄で生き続けるしかなかった。

 生き地獄から解放されるには、死ぬか悪党になるしかなかった。

 だからこの国には悪党が多かった。

 悪党になるしか生きていけなかった。


 そんな国の中で、教会の司教と言えば大悪党だった。

 教会領の民から搾り取るだけではない。

 税を払えない民を奴隷に落とし、男は劣悪な待遇で鉱山労働させた。

 女は売春宿で働かせた。

 多くの権力者と同じだった。


 この司教には愛人がいた。

 若さに異常な執着がある女だった。

 若さを保つ為なら、何でもやる女だった。

 そして事もあろうに、若い生娘を殺し、血の風呂に入るようになった。

 その為に若い女を集めていた。


 だがこの国には、若い生娘はほとんどいない。

 王子達が率先して娘狩りをするからだ。

 生娘と言えば、まだ幼い子供ばかりだ。

 その女の子を教会の権力で集め、殺して生血を絞るのだ。

 その血を飲み、血風呂に入って若さを保っていた。


 殺された女の子達は奈落に捨てられた。

 捨てられた女の子達の怨念が、オリヴィアの身体に染みついていた。

 だからその恨みを晴らさずにはおれなかった。

 オリヴィアが魔獣に喰い千切られた身体の一部にも、女の子達の怨念が籠っていた。

 オリヴィアの身体から離れた怨念が、魔獣と一体化して恨みを晴らした。


 何時もと同じように、魔獣の群れが教会を囲んだ。

 教会と街は隔離された。

 昼夜を問わず聞こえる魔獣の雄叫びは、神官達を眠らせなかった。

 厳重な戸締りをした出入り口を、魔獣が開ける振りをした。

 司教と神官を恐怖に陥れる為だ。


 いつも通り恐怖に陥れ、狂気に囚われるまで追い込んだ。

 教会には暴力を専門とする強面の神官もいたが、魔獣を相手にする勇気などなかった。

 弱い者虐めは出来ても、強者に立ち向かう勇気などなかった。

 教会の中で震えているだけだった。

 ただ一人だけ、司教の愛人だけは平気だった。


 どのような悪逆非道も平気だった。

 幼い子供を殺して生血を飲むような女だ。 

 精神が歪み切っている。

 父や神官達が恐怖に震えるなかで、女の子の生血を求めて、未だに狂気の命令を神官達に命じていた。

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