第13話

 教会内の惨状は、魔獣の雄叫びが止んで一日経ってから発見された。

 一日に何度も来ていた、教会から援軍の嘆願が来なくなった教区の司教が、不審と恐怖に調べさせずにはおれなかったのだ。

 派遣した神官から報告を受けた司教は、急ぎ大司教を通して枢機卿に報告を入れ、援軍を要請した。


 報告を受けた枢機卿は不愉快だった。

 元聖女の報復だとは信じなかった。

 あくどいことをやり過ぎて、悪党同士の殺し合いに発展したのだと考えた。

 教会内の勢力争いも疑った。

 自分の反対派が噂を流し、枢機卿派の神官を殺そうとしていると考えた。


 だから、圧倒的な戦力で押し込むことを考えた。

 実行犯は見せしめのために殺す事にした。

 その為の戦力を用意しようとした。

 聖堂騎士団は、自分の護衛から外せない。

 だから、傭兵を集める事にした。


 ところが、教会の権威を使っても、傭兵が集まらなかった。

 枢機卿は傭兵の臆病を笑った。

 噂に踊らされる愚か者だと内心嘲笑した。

 だが笑ってばかりもいられない。

 噂に脅える愚か者が、恐怖感から反対派閥に味方するかもしれない。


 そんなことになったら力関係が逆転してしまう。

 聖堂騎士団を投入する事を本気で考えた。

 だが結局身の安全を優先する事にした。

 金を使うのは惜しいが、反対派閥を潰せば、そこから金を奪うことが出来る。

 そう考えて、他国から傭兵を集める事にした。

 いや、勇者達を募集する事にした。


 奈落から魔女が現れ、無辜の民を虐殺した。

 それどころか、神に仕える敬虔な神官までころした。

 遂には教会を襲撃し、聖域を穢した。

 そんな魔女を退治する勇者達を募集する。

 見事魔女を退治した者は、教会が勇者に認定すると、他国に広めたのだ。


 この国の人間なら、教会の悪行を身をもって知っている。

 勇者を募集しても、誰も集まらない。

 そもそも勇者など存在しない。

 だがこの国の現状を知らない他国の傭兵なら、勇者の名声欲しさにやって来る。

 名声を欲する傭兵なら、少ない報酬で、命懸けの殺人をやらせられる。

 相手は魔女ではなく、反対派閥が雇った傭兵だろうが。


 集まった勇者候補は、どれだけ死んでも構わない。

 むしろ全員死んでくれた方があと腐れがない。

 反対派閥を完全に潰した後で、生き残った勇者を殺せばいい。

 聖堂騎士団を使えば簡単な事だ。

 枢機卿はそう考えて、他国にある教会を通じて、勇者を募集した。


 隣国でその募集を見た者の中に、オリヴィアの兄と姉がいた。

 村を石持て追われたローウェル家の人達は、何とか生き延びていたのだ。

 いや、隣国に逃げ出し、傭兵となっていた。

 村人に報復する為に。

 教会に報復する為に。

 オリヴィアの恨みを晴らすために。

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