第12話

 教会は蜂の巣をつついたような騒ぎだった。

 教区を司る司教に状況を伝え、支援を要請した。

 一教会で対処出来るような、容易い状況ではなかった。

 それでも、日頃貯め込んだ金を使い、傭兵やゴロツキを集めようとした。

 だが誰も集まらなかった。


 村人達の殺された状況。

 元神官の殺された状況。

 余りに凄惨だった。

 人殺しに慣れた者達も、二の足を踏むほどの惨状だったのだ。

 この期に及んで、神官長が金を惜しんだのが悪かった。

 教会に信用がなかったのも大きかった。


 このような危険な護衛を、後金だけで受ける者などいない。

 教会が何度も後金を支払わなかった前例があった。

 だから誰も護衛の仕事を受けなかった。

 神官長と神官達は、教会の戸締りを厳重にして、奥深くに隠れていた。

 だがそれも虚しいモノだった。

 どれほど厳重にしても、魔獣の力を防ぐ事など出来ない。


 元神官が殺された翌日から、魔獣が教会を囲んで雄叫びをあげた。

 元神官がいた頃と同じように、魔獣が教会を狙った。

 街の者は誰も教会に近づかなかった。

 神官長も神官達も、眠れぬ夜を過ごした。

 だが日が昇っても、魔獣の雄叫びは止まなかった。

 神官長も神官達も、不眠で狂いそうだった。


 だが今回は、それほど長く脅かさなかった。

 三日後に教会が襲われた。

 表扉が魔獣に攻撃され、粉々に砕かれた。

 今回は石打は行われなかった。

 生きたまま貪り食われるだけだった。


「私を覚えている?

 私は覚えているわよ。

 何故私を王子達に売ったの?

 神様の命令?

 神様が私を売って金に変えろと言ったの?」


「私じゃない。

 私じゃないんだ。

 枢機卿だ。

 枢機卿がやった事なんだ。

 報復するなら枢機卿にしてくれ」


「ダメよ。

 教会の悪事を私が知らないと思っているの。

 私の身体には、奈落に捨てられた人の無念と恨みがこびりついているの。

 神官長が、裏で金貸しをしているのは分かってるの。

 暴利をむさぼり、返せない人を奴隷に売ったのも分かっているの」


「仕方ないんだ。

 教区に金を納めなければいけないんだ。

 司教様に金を渡さなければいけないんだ。

 そうしなければ、教会では生きていけないんだ」


「神様も強欲ね。

 それとも馬鹿なのかしら。

 自分の名を利用して、悪事を働く者を黙認するなんて。

 神と言うより悪魔ね。

 だったら、魔女の私と仲良くやれるかしら」


「……」


「話はここまでよ。

 死になさい」


 神官長と神官達は、朝まで治癒魔法で癒されながら、魔獣に身体を喰われた。

 いや、互いの身体を喰い合うように命じられた。

 助かりたい一心で、神官長と神官達は、喰い合った。

 最後は互いの喉を喰い破って死ぬことになった。

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