第11話

 教会は大騒ぎになった。

 無学な村人のたわごとではなかったのだ。

 大きな街の、全ての住民が見聞きしたのだ。

 その街にいる神官が、その耳で聞き目で見たのだ。

 街中を恐怖に御陥れた雄叫びを。

 凄惨な殺害現場を。


 枢機卿は不愉快だった。

 小娘ごときが、自分の立場を悪くするのが許せなかった。

 教会の中には、枢機卿の地位を狙っている者も多い。

 今回の件は、教会内の権力闘争に火を付けるかもしれない。

 だから、オリヴィアを返り討ちにする事にした。

 聖堂騎士団と称される、教会内の戦士団を身近に置いた。


 だが中には、恐怖に震える者もいた。

 最初にオリヴィアを騙した神官だ。

 本来家族に渡すはずの金を横領していた。

 その事が彼を恐怖させていた。

 次は自分が襲われるのではないかと。

 それが現実となった。


 翌日から、毎晩魔獣の雄叫びが、神官が務める教会に響いた。

 神官は恐怖に震えて、教会の奥深くから出てこなくなった。

 だが何時までも震えていられなかった。

 他の神官が不審に思い、問い詰めたのだ。

 助けてもらいたい一心で、本当の事を話した。

 どの神官も同じような事をしてたから、相身互いだと思ったのだ。


 だが他の神官達は自分の安全を優先した。

 魔女に恨まれている者と一緒にいれば、自分達が巻き添えを食うと考えた。

 教会の神官長も、自分の安全を優先した。

 恨まれている神官を破門して、教会から追い出した。

 彼は半狂乱になって街中を走り回った。

 匿ってくれるように頼み回った。


 だが誰も助けてはくれなかった。

 日頃の行いが悪すぎた。

 教会の権威を笠に、ありとあらゆる悪行を重ねていた。

 小は無銭飲食や恐喝。

 大は人身売買の手伝いまで行っていた。

 彼だけではなく、全ての神官が忌み嫌われていた。


 街中を走り回る元神官は、何時しか脚から血を流していた。

 靴を失い、足の裏が傷だらけだった。

 むりやり民家に押し入ろうとしたが、叩きのめされて追い出された。

 破門された元神官なら怖くなかった。

 日頃の恨みを晴らしたのだ。


 日が落ちて、魔獣の雄叫びが聞こえてきた。

 街中のどの家も、厳重な戸締りをした。

 誰も夜の街に出なかった。

 家のない浮浪者以外は。

 元神官は半狂乱となって走り回っていた。


「久しぶりだね。

 神官様。

 私の事を覚えているかい。

 こんなに姿は変わってしまったが、みんなあんたらの所為だよ」


「ギィヤァァァァ!

 許してくれ。

 勘弁してくれ。

 金は返す。

 返すから許してくれ」


 オリヴィアは許さなかった。

 手足を石で打って砕いた。

 魔獣に腹を喰い破らせ、内臓を喰わせた。

 自分の内臓の一部を、むりやり元神官に食べさせた。

 死にかけても治癒魔法を使い、死ぬことを許さず、拷問を続けた。

 最後は教会の門に釘で打ち付け、首を刎ねて殺した。

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