第10話

 村人が朝起きると、狂って村を飛び出した者が、石に打たれて死んでいた。

 またも村の入り口に置き去りにされていた。

 村人の恐怖は、もうどうにもならないところに来ていた。

 わずかな事がきっかけで切れてしまうほど、限界まで張りつめていた。

 その状態で、更に幾日かの恐怖の夜が続いた。


 日が昇っている間も、魔獣の雄叫びが恐怖を誘う。

 だがそれも、闇の恐怖とは比較にならない。

 闇の中に轟く雄叫びも怖い。

 だが何より怖いのは、全く何の音もしない恐怖だ。

 魔獣に村を取り囲まれていると知っていて、虫の声すら聞こえない恐怖。

 遂に誰かが狂気に囚われた。


 喚き声を上げながら、村を飛び出していった。

 これがきっかけだった。

 村中の家から、人々が飛び出し、村から逃げ出そうとした。

 恐怖に我を忘れて、何も考えられずに逃げ出した者。

 誰かが襲われている間なら、逃げられるかもしれないと考える者。

 中には子供を置き去りにして逃げる者さえいた。


 だが魔獣の足から逃げられるはずがないのだ。

 魔獣の強さに歯が立つわけがないのだ。

 しかもただの魔獣ではない。

 人の怨念が憑りついていて、人の知恵まであるのだ。

 ただ逃げるだけでは逃げきれない。


 多くの村人が、石を投げつけられた。

 骨が砕け、肉が飛び散った。

 だが今度は前回とは違った。

 石に打たれ、動けなくなった村人が生きたまま喰われた。

 一度で死なないように、あちこちを喰い千切られた。

 生きたまま内臓を喰われた。


 その痛みは、耐え難い激痛だった。

 痛覚が麻痺しないうちに、激烈な痛みが感じられるように。

 村人の状態を管理しながら襲った。

 苦しみを味合わす事に重点を置いて、腹を喰い破った。

 村人の前で内臓を喰った。


 だが全員が喰われたわけではなかった。

 何人かは逃げ延びた。

 いや、逃がされた。

 王国中に恐怖を広める為に。

 オリヴィアの報復が真実だと知らしめる為に。

 特に憎い村人を、わざと逃がしたのだ。


 その目論見は成功した。

 ズタズタのボロボロになった村人。

 オリヴィアの産まれた村の者が、半ば狂って訴えるのだ。

 オリヴィアの魔獣に襲われたと。

 家族を追うたのと同じように、石で打ち殺されたと。

 生きたまま内臓を喰われたと。


 二度目の噂が瞬く間に広まった。

 教会も噂を気にしだした。

 本気にはしなかったが、疑念を持った。

 それで十分だった。

 一度はわざと逃がした村人を、街の中で喰い殺した。

 その前に、街中を恐怖に陥れる雄叫びを聞かせた。

 村人の言う事が本当だと国中が信じるように。


「ウォォォォン。

 グギャォォォォ。

 ガァォォォォォ。

 キィィィン。

 キャゴォォォ」


「私を覚えている?

 あなたたちが追い出したローウェル家のオリヴィアだよ。

 家族の恨み、晴らさせてもらうよ」


 オリヴィアは待っていられなかった。

 自分の手で恨みを晴らしたかった。

 その為に、特に恨みの深い、畑と家を奪った者を残していたのだ。

 手足の骨を石打で砕いた。

 魔獣を使って腹を喰い破り、内臓をぶちまけた。

 出来るだけ苦痛が長引くように、日が登るまで治癒魔法を使いながら、繰り返していたぶり、日の出と共に殺した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る