第2話

 オリヴィアは教会の命じるまま、毎日治療を行った。

 著名な魔法使いや治療家でも治せない病人も、オリヴィアなら治せた。

 どのような難病も、瞬く間に完治させた。

 極悪な呪いに祟られた者も、たちどころに癒した。

 オリヴィアに治せない者はいなかった。


 オリヴィアの二つ目の不幸は、美し過ぎた事だった。

 治療の評判が広まるほど、容姿の美しさも広まった。

 白磁のように白い肌。

 絹糸のように細く、プラチナのように美しい髪。

 濡れたように輝く慈愛溢れるに白銀の瞳。


 オリヴィアの美しさの評判は、遂に王宮の中にまで届いた。

 この国は腐っていた。

 民の事など考えず、欲望のままに振舞う王族が支配していた。

 特に王子達は悪質だった。

 兵を使って娘狩りを行い、乱暴の限りを尽くしていた。


 八人の王子は、一人の娘を同時に嬲り者にするのが好きだった。

 しかも、家族や恋人の前で嬲り者にするのが好きだった。

 何日もかけて、娘が狂うまで嬲り続けた。

 飽きたら、家族共々奈落の底に落とした。

 魔物が住むと言われる奈落に。


 可哀想な娘と家族は、魔物に喰い殺された。

 魔物に善悪の区別などない。

 ただ生きる為の弱い者を襲い食べるのだ。

 いっそ純粋だった。

 欲望の塊である人間よりも遥かに純粋だった。


 そんな王子達にオリヴィアの評判が届いてしまった。

 美しいだけでも欲望の対象になっただろう。

 それに加えて、聖女と言うのが欲望を刺激した。

 王子達は、聖なるもの穢す欲望に舌なめずりした。

 諫める者は誰もいなかった。


 王子達は教会に命令を下した。

 聖女を治療に寄こせと。

 最初教会は拒んだ。

 せっかくの金蔓を失うのが嫌だった。

 王子達の本当の目的など分かっていた。


 教会の権力と影響力を使って拒もうとした。 

 だが王子達は強硬だった。

 教会が拒めば拒むほど執着が産まれたのだ。

 だから協会に特権を認めた。

 教会領に新たな税を導入する権限を与えた。


 教会領内だけの新たな税だ。

 王子達も王国も全く痛くもかゆくもない。

 だが、教会領の民には地獄だった。

 それでなくても過酷な税に苦しんでいた。

 これ以上の税は死ねと言うのも同然だった。


 だが、誰も民の事など考えなかった。

 聖女の事も考えなかった。

 金が全てだった。

 聖女はいずれ死ぬ。

 だが領地の新税は、王国の続く限り手に入る。


 教会は聖女を売った。

 散々利用しておいて、悪魔同然の王子達に売り払った。

 狂うまで慰み者にされるのを知っていたのに。

 最後は奈落の底に落とされ、魔物に喰い殺されるのを知っていたのに。

 心を痛める事もなく、もっと金が手に入ると、喜んで売ったのだ。


 オリヴィア・ローウェルが十三歳の春だった。

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