俺は知る。

以前、マリナと来たショッピングモールに足を運んでいた。

この子。雨宮花蓮を連れて。


肩まである黒い髪で、整った顔だちをしており、みんなからは好かれそうなのだが、体型は少し人より痩せているように見える。


「で、どうする?雨宮さん」

「さんはいらないですよ。歳も近いようですし。」

「ならそっちも敬語禁止な」

「–––––わかった。」


花蓮は少し照れながらも話す。


こんな子がどうして俺とデートなんかをと思ったが、この子なりに何か事情があるのだろう考え、聞くのはやめた。


「それでどこ行くんだ?」

「うーん。服を見に行きたいかな……」

「うん。それじゃ行くか。雨宮。」


DUに着き、花蓮の服を見てまわる。そういえばマリナと行った時もこんなんだったな……。


「これなんていいんじゃないかな?」


そう言って見せてきたのは白いワンピースだった。


「うん。夏っぽいし似合ってるぞ。」


俺は素直に感想を言うと、花蓮は少し頬を赤くし「そ、そう?」と言ってきた。


その後も、服を見てまわったが結局服を買う事はなくDUを出た。



DUを出た後、フードコートの近くにあるゲームセンターにやって来ていた。


「ここがゲームセンター……」

「ん?来たことないのか?」

「うん。初めて来た。ちょっと遊んでみてもいい?」

「いいよ。どこ行こうか?」

「プリクラ行ってみたい。」

「お、おう。じゃあ行こうか……」


プリクラ。そんなの俺も体験した事がないリア充の為にある機会。遂に俺もプリクラデビューか……。


中に入り、初めての事で悪戦苦闘しながらも写真を撮る事ができた。


俺と花蓮はカメラに向かってピースをした。リア充ならどんなポーズなんだろうか?


その後も何回か撮り、落書きに移った。


「ど、どうしようか。」

「うーん。じゃあとりあえず猫耳付けてみようよ。」

「………え!?俺に猫耳?」

「プリクラではよくある事じゃないの?」

「そ、そうなのか……?」


その後も落書きを続け、出来たのが俺には猫耳、花蓮には犬耳の写真だ。


「やっぱ目でかいな。」

「もう少し盛ってもよかったかもね。」

「そ、そうなのかな?」

「次はどこに行こっか?」

「雨宮が決めていいぞ。リア充が行くやつ系以外ではほとんど遊んだ事あるから。」

「うーん………それじゃあれは?」


そう言い花蓮が指をさしたのはVRのコーナーだった。


「VRか。大丈夫か?人によっちゃ酔うぞ?」

「多分大丈夫。」

「じゃあ行こうか。」


VRコーナー。確かに凄いんだが、少ない時間で結構金取ってくるからな……。


金を払い、俺たちはホラーのVRを体験する事になった。


店員から説明を聞いた後、VRを装着し、辺りは真っ暗になった。

そして映し出されてきたのは薄暗い廃病院だった。


「そ、想像してたより暗いな……」

「それがまた良いじゃん!」


怖がっている俺をよそに花蓮はうきうきしながら先へ進んで行く。

ビビってるの俺だけ?


「ちょ、ちょっと進むの早くないか?」

「だって早く進みたいもん!」

「も、もう少しペース落として––––うああああああああぁぁっっ!?」


突如、血だらけのナースが現れ、思わず叫び声が出る。花蓮は「あはは!こわ!」と言いながら進んで行く。素直に尊敬します。


その後もいろいろあったがようやくゴール出来た。


「に、二度とやらねぇ。」

「そんなに怖かった?」

「…………怖かった。」



VRコーナーを出て俺達はカフェで休憩をとっていた。


「VR楽しかったね。」

「そ、そうだな。」


俺の場合、楽しさより恐怖が勝ってたんだがな。


「私、こんなの初めてだよ。」

「ん?さっきも初めてって言ってたけどなんで来たことないんだ?」


さすがに小さい時に親と来たことぐらいあるだろ。



「私、心臓の病気があってね、ずっと病院で過ごしてて外に出れなかったの。」

「…………病気?」

「うん。」


どう反応すればいいのかわからなかった。


病気だと聞いてはいそうですか。お大事にって言うのはどうかと思うし。


「私、そんなに長くないらしいから同年代の男の子との思い出も欲しかったの。」

「そ、そうなんだ。」

「だから私とデートしてくれてありがとね。」

「……いや、別に礼を言われるほどでもないんだが……」


そうか。だからあんな必死に俺に言ってきたんだ。


「俺、記憶喪失らしいんだ。」

「え?」

「君が話してくれたんだ。俺も自分の事を言わなくちゃって。」


俺は俺が抱える問題を話しだす。


「小五の時に事故にあったらしくてそれで記憶無くして今の俺ができたんだ。」

「そうなんだ。」

「なんか、お互い抱えてるもんがあるな。まぁ、雨宮に比べて俺は些細なもんだけど。」

「そんな事ないよ。自分の知らない記憶があるって辛いでしょ?」

「最初はな。でも、それでも向き合うって決めたんだ。知らないでいるより、知っていた方がいいと思ってな。」

「凄いね。山本君。」


そう言い花蓮は苦笑する。


「君の方が凄いよ。」

「え?」

「病気を患ってるのに笑顔を絶やさないでいれて。もし俺が君と同じ立場だったら一日中泣いてるよ。」


「………」

「………」


沈黙が続いた。


「私、そろそろ病院に戻らなきゃ。」


沈黙を破ったのは雨宮だった。


「なら俺も着いていくよ。また違う日にでもお見舞いに行きたいからさ。」

「そう?ありがとう。」


そうして俺達は雨宮が入院する病院へ向かった。

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