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俺は出会う。

 7月10日。


 あの日の打ち上げは無事終了した。


 あいつらは距離を縮め、今はメールで連絡を取るようにまでなったらしい。



 そしてみんなはなんでこんなに日がとんでいるんだと思った人もいるだろう。


 何もなかったんだ。この空いた期間、何も起こりやしなかった。俺はこの間、好きな人を諦める葛藤。知らない自分の記憶。それらに悩んでいただけ。


 俺は空にやっているような思い出をたくさん作り好きな人の対象を変えるという方法を香織にやるというのが頭に思い浮かんだが、諦めた。


 そして今はすっかり一学期を終える終業式にまで日は進んでいた。


「もっしん。夏休み何か予定あるのか?」

「んー。なんもないな。」

「なら祭り行こうぜ。この近くにある神社の。」

「オッケー。後は誰か来るのか?」

「バーベキューに来た奴ら全員。」

「そーか……」


 なんか俺がいても虚しくなりそうな気しかしないが。


「そろそろ時間だ。体育館に行こうぜ。」

「おぉ。」




 ***


 あれから何もなく、終業式は終わり、俺は1人で下校中だ。


 俺主人公だよね?なんでこんなにイベントが少ないんだ?


 夏休みにあるとしても夏祭りだけ。しかも、メンバーも俺がいてもいなくても別にどっちでもいいようなものだし。


「あぁ……なんかイベント来ないかな…………」


 そう1人で呟くと余計に寂しさが生まれた。


「なら、私とデートしませんか?」

「…………はっ?」


 下を向いていると正面から声が聞こえ、前を向くとそこには俺と同じ歳くらいの少女がいた。


 周りには誰もいない。そこでようやく俺に言っている事に気づいた。


「俺?」


 確認の為俺は自分に指をさし、聞いてみる。


「そうです。お金は出しますので。」


 会ったことのない女の子から突然デートのお誘い。怪しい。怪しすぎる!


「え、えーと。遠慮しときます。」


 こういう怪しいイベントはいらん。やばい事に巻き込まれかねない。


「お願いです!デートをしてください!!」


 彼女は必死そうな表情で叫ぶ。何か、事情があるのか?


「え……なんで、デートを?」


俺は軽い探りを入れてみた。


「思い出が欲しいんです。」

「思い出?」

「はい。知らない同年代の人とどこかおでかけしてみたくて。」

「は、はぁ……」


 なんか、変わってんな。この子。


「それに、あなたに声をかけたのは似てると思ったからです。」

「似てる?」

「うん。どこか寂しそうな所が。」

「寂しそう……」


 俺の気持ちを初対面の彼女に見抜かれていた。似てるってことは……


「君も寂しいのか?」

「……」

「–––––いいよ。」

「えっ?」

「どこかへ出かけようよ。俺も今暇だし。」


 俺は彼女と出かける事に決めた。とは言っても怪しさはまだ拭いきれてはいないが。


「……俺は山本慎二。君は?」

「私は雨宮花蓮あまみやかれん。」

「それじゃどこ行く?」

「そうですね––––」




 この時の出会い運命と呼ぶべきなのだろうか?


 もしそうじゃなくても、この出会いは俺を大きく変えてくれた。だが、今の俺には知る由もなかった。

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