俺はその中に……。

 6月6日。


 とうとう香織と空、そしてよっしーとマリナの距離を縮める作戦が決行される。


 空と香織には事前にメールで連絡しており、二人からは許可を得ている。


 特に空は文章の最後に顔文字が付いていた。お前……そんなキャラだったか?



 待ち合わせ場所には既に空と香織が揃っており、後から来るマリナを抜くと後はよっしーだけだった。


「だが、よっしーはこういうのには疎いからな。なかなかに厳しいと思うぞ。」


 空は腕を組み、そんな事を言っているが、お前も人の事言えねぇぞ。


「マリナ。うまく距離を縮められたらいいんだけど……」


 あんたも人ごとじゃないからな?距離を縮めないといけないのは香織もだからな?



 ようやくよっしーも到着し、公園の中にあるバーベキューエリアに向かった。


 バーベキューエリアは小さな川があり、バーベキューをし終わった後、川で遊べるという学生達には人気のエリアだ。


「バーベキューのセットは借りれるんだっけか?」

「あぁ、追加料金を払えば食材も提供してくれるらしい。」

「おぉ、すごいな。」


 俺達はバーベキューセットをレンタルし、追加で食材も買った。

 

 みんなが準備に取り掛かる。


 その間に俺はメールでマリナに来ていいぞと送っといた。




「香織先輩と山本先輩!」


 すると、バーベキューエリアの入り口からマリナがやって来た。いや、来るの早すぎじゃね?


「三倉?」

「マリナ?どうしてここに?」


 香織はわざとらしく、マリナに質問してみる。


「えー、たまたま公園を散歩してたら先輩達を見つけたんで、声をかけてみました。」


 うーん。まぁまぁな嘘だな。高校生が公園を散歩するか?と思ったが、よっしーは特に気にしてないようだった。


「そうだ。三倉も一緒にバーベキューするか?なっ、いいだろ?みんな。」

「もちろん!」

「おう。別に構わない。」


 香織と空は予定通り許可してくれた。後はよっしーだけだ。


「いいぜ!一緒に楽しもうぜ!」


 親指をぐっと上げ、爽やかな笑顔を作る。おぉ………これが、学校で噂の佐藤スマイル。略してさとスマ。


 これで全員の許可を得たわけだが、どうやってよっしーの距離を縮めようか…………。


「いいんですか!?ありがとうございますー!」


 マリナは手を合わせ、喜ぶ。ほう。これがマリナスマイル。略してマリスマか。これは今俺が作りました。


「しゃ、準備も終わったし焼いていくか!」


 俺は野菜が嫌いなので、肉だけを入れていく。それにここに来て嫌いな野菜なんか食ってられねーよ。


「こら、野菜も入れなきゃ。」


 香織がまるで、子供を叱るよな時の声で言いながら野菜を入れていく。


「そーですよー先輩。先輩のおならが臭くなりますよー。」

「うるせ。ってかお前からそんな台詞聞きたく無かったわ。」


 あんな金髪美少女からおならって……まぁ、マリナファンクラブとかがいたらそいつらは喜びそう気もするが。



 そうこうしている内に肉が焼けてきたので皿に皿に載せ、焼肉のタレをかけてから口に入れる。


「おぉ、美味い!」


 自然が広がる場所で食べているからかわからないが普段食べている焼肉より数倍美味い。


「おぉう。確かに美味い。」


 続いてよっしーも食べ、それにつられみんなも食べていく。

 みんな美味しそうに食べていてる。



 なんか、こうしてみんなと何かをするのはこれで初めてなんだよな。


 その時、突如頭痛がして俺は苦しながらも頭をおさえる。


 初めて……じゃない。


 俺の知らない記憶が断片的にだが頭に流れ込んでくる。


 川の近くで家族と後数人。その人達にはもやがかかって誰なのかわからない。そのもやのかかってる中の1人は満面の笑みを浮かべていた。なんなんだこれは?


「どうした?もっしん。」


 頭をおさえている俺の事が気になったのか俺に声をかけてきた。


「いや、なんでもない。」


 無理に作り笑いを見せ、俺はバーベキューを続行する。


 謎の記憶。俺はこれがなんなのか薄々気付いていた。


 これは本当の俺あいつの記憶なんだ。


 今まで本当の俺あいつの記憶なんて流れ込んできた事は無かった。今回、俺がバーベキューをしいたら、昔、本当の俺あいつがバーベキューをしている記憶が流れ込んできた……。これは同じ事をしているからなのだとしたら、何故、今まで流れ込んでこなかった?一度くらいは本当の俺あいつと同じ経験をしてきたはずだ……




 その後もバーベキューは続いたが俺は記憶の事が頭から離れず、心から楽しむ事が出来なかった。





 ***


 バーベキューも終了し、俺達は川で遊ぶ事になった。

 水着もレンタルできるらしくみんな水着をレンタルする。


「おぉ……」


 香織は白。マリナは黒のビキニだった。

 この二人、胸がでかいからすげぇエロい。


「……どうしたんですか?」

「お前のビキニ姿に惚れてた。」

「流石に引きますよ?」


 マリナから軽蔑の目を向けられ少し落ち込む。


「それより、お前達の好きな人が来たぞ。」


 更衣室から空とよっしーが出てきた。てかなんで女子より出るの遅いわけ?


「せーんぱい!どうですか?似合ってますか?」


 おぉ、マリナがよっしーにアタックしてる。


 バーベキューの時、2人で雑談してたし、少し二人の距離が近ずいたか?まぁ、その時の俺は記憶の事で悩まされてたけど。


「おう。似合ってるぜ!」


 よっしーはさとスマを作り、マリナを評価する。あっ、マリナの奴顔赤くして照れてやがる。


 一方香織達の方は?


「宇月、似合ってるな。その水着。」


 空は恥ずかしげも無くそう言う。恥ずかしげも無く言える空に俺は惚れてしまいそうだよ。


「そ、そう?ありがとう……」


 香織は照れ隠しのつもりか下を向きながら礼を言う。


「しゃ、早速入ろうぜ。」


 そう言い、川に一歩踏み入れる。

 最初は冷たさはあったが、徐々に慣れていき、今は気持ちいい。


 続いてみんなも入ってくるや否や俺に水をかけてきた。


「なんでみんな俺に!?」

「だって一番リアクション面白そうだし。」


 香織はふふふっと笑いながら言ってくる。

 どうやらみんなも同じ理由で俺に水攻めしてくるようだ。


「だったら俺の本気を見せてやるよ!」


 そう言い、俺は手に水をかき集めみんなに当てていく。


「きゃ!先輩やったなー!」


 マリナはわざとらしく高い声を上げるとマリナも水を集め始める。


「えい!」


 俺に水が来るかと思ったがよっしーに水をかけていた。よっしーも流石に不意打ちには驚いたようだ。


「裏切ったなー?」


 よっしーはニヤッと笑みを浮かべるとよっしーもマリナに水をかけ始める。


「「グッ」」


 香織と空は親指を上げる。なるほど、こいつらマリナと企んでいたな?


「へへっじゃあ今度はこっちに仕返しだ!!」


 今度は2人に狙いを定め、と見せかけて空だけに水をかける。


「えっ!?」

「おい香織。ここは手を組もうぜ。」

「……おっけ!」


 俺の意図を察したのかわからないが香織はほんの数秒の間をあけ、手を組む事になった。


「そい!!」


 俺と香織で水攻めしていく。空は防戦一方の状態だった。


「二人とかせこくないか!?」

「お前達も全員で俺を攻めたじゃんかよ!まぁ、喉渇いたし、離脱してやるよ。」


 そう言い2人から離れていく。そうして香織と空の一騎打ちが始まった。


その時の香織は幸せそうな顔をしていた。


 いいんだこれで。これで……



 今の香織の目には大きく空が写っているのだろう。



その瞳の中に少しでも俺は入っているのだろうか。

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