第17話 パッ〇ンフラワーとモン〇ターボール

 フータは毎朝の日課としてSR以上確定ガチャを回す。

 出てきたSRカードやSSRカードは、その中身を精査し、すぐに使えそうだったり、面白そうな物はその場で取り出している。

 しかしながら、フータの異能とも言える、SR以上確定ガチャはちょっとばかし癖が強い。


 これ、実体化したら拙いよな。


 そんなカードもいくつか保有しているのが現状だ。

 さて、そんな爆弾カードを爆破処理すべく、フータ、ビリア、触手ちゃんの三人は、町から少しばかり離れた丘の上に来ている。

 ここは街道からも外れ、水捌けの関係で田畑にも向かなかったのか、未だに森だった名残の切り株が放置されて残っている。そんな人通りも無い、錆びれた場所だ。

 草の背丈が短いのは、時々放牧されたヤギや羊が食べているからだろう。おかげで、足元が見やすくて、歩くのには苦労しない。代わりに、大量のコロコロウンコが転がっているが、もうそれは致し方ない物として無視することにする。

 ただし、地面一面にウンコが落ちているとは、ビリアには言っていない。

 

 それ、ウンコだからね?

 

 何てことを伝えれば、今の彼女のように、鼻歌交じりにサクサクと歩いてくれなくなることは火を見るより明らかだからだ。


「このブーツ凄い。買って正解! 疲れないし、歩きやすいし、履いてるだけで爪の手入れまでしてくれ優れもの―!」


 ルンランと鼻歌を交えながらスキップするビリア。

 フータは思った事を口にしようとして、止めた。


 爪の手入れしてくれるとか、それ、靴の中に足の指を切り落とせるくらいの刃を持った何かが居るって事なんだが……。


 そんな恐ろしい靴を平気で履いて喜んでいるビリアに、フータは感銘を受けた。その能天気さが羨ましい、と。

 

「ねー、そのカードさぁ、処分するなら、私にくれても良いじゃん?」

「あのな、俺はお前の事を思って、まずは試してみようって言ってるんだぞ? お前は困らないかもしれないけどな、送り込まれた会社の人が可哀想だろう」


 すでに三回くらいこの話をしているフータは、もう一度、記憶容量がフロッピーディスク並みのビリアの頭に上書きする。上書き出来ているかは甚だ疑問ではあるが。


「ビリアも触手ちゃんも、自分の国と世界に、良さげなアイテムを送るって任務を帯びてるのは分かる。俺が要らないって言ったやつは送ってもらって結構だ」


 そこでフータは、ビリアをジト目で見る。


「ビリア。こっちから魔剣を通じて物を送ると、そっちの倉庫に出ていくんだよな?」

「そうそう。凄く警備の厳しい大きな倉庫だったよ。魔剣を派遣した世界からの品物が転送されてくるの」

「それって、物だけじゃなくて、動物とかも可能だったりするよな」

「うーん。確かオッケーだったはず? あれ? 生き物は不可だったっけ? 忘れた」


 結構大事そうなんだけど、それを忘れるのはビリアらしい。

 生き物可能だった場合、未知の病原菌とかを持った変な生物とか送り込まれて、大変な事になりそうだけれど、大丈夫なのだろうか。

 まぁ、ビリアの言う通り、彼女達魔族は相当頑丈&力も強いので、あまり心配はないかもしれない。


 ほら。

 馬鹿は風邪ひかないって言うし。病気にもならないのかも。


 フータはポーチの中に大事にしまっていたカードを一枚取り出す。


『SR 食虫植物』

『ランダムで食虫植物が出現』


「ビリア。お前とは短いとはいえ、この癖の強いレアガチャカードの数々を目にしてきているはずだ。そんなお前に、もう一度問いたい。このカード、明らかにやばいだろ?」

「えー。食虫植物って、台所に置いてあるハエ取るあれでしょ?」


 この女。全く分かっていないな。

 

「あのな。そんな可愛らしい、観葉植物みたいな奴が出てくるわけないだろ。こちとら腐ってもSRガチャなんですよ? 人間くらいぺろんちょと捕食するくらいのヤバイのが出てきてもおかしくないの。お分かり?」

「食虫植物だよ? 逆にフータがどうしてそんなに怖がるのか分かんない。もしかして、根っこが足になって動いたりするとか思ってる? もしそうなら、ゲームと漫画のやりすぎだしぃ。そんなん、植物じゃないしぃ」

「逆に聞く。どうしてただの植物が出てくると思えるの?」

「なんとなく」


 お話にならない。

 でも、仕方ないので、最後にもう一回だけ説明しておく。

 

「もし、このSRカードから出てくる食虫植物が、俺の想像するヤバイ系のモンスターだったと仮定する。それをビリアの居る世界に送り込みました。さて、自分が倉庫で商品を待つ側の立場だったらどうしますか? 倉庫で転送されてくる商品を待ってたら、突然モンスターが送り込まれてきて、大暴れするんだぞ? 嫌だろ?」

「大丈夫っしょ? フータは私達魔族を舐めすぎ。余裕で倒せるしぃ」


 だから、私にちょーだい!

 ビリアはそう言って、可愛らしく両手を差し出し、オッパイを強調しながら上目遣いにフータを見上げてオネダリする。

 俺の説得は無駄に終わった。

 ならば、もう良いだろう。


「じゃあ一枚目はビリアで良いかい? 触手ちゃん」

「キュッ」


 触手ちゃんから「いいよー」とのお返事をもらったので、手に持っていた『SR 食虫植物』カードをビリアに渡す。

 ビリアはそれを嬉しそうに受け取ると、早速魔剣を少しだけ鞘から引き抜き、そっと刃に触れさせる。

 すると、魔剣が仄かに光りを放ち、カードが輝く粒子となって消えた。これでビリアの世界にカードが転送されたのだろう。

 

「それじゃ、こっちでも使ってみますか」


 フータはもう一枚のSR食虫植物カードと、それを打ち倒すための対抗手段カードを取り出す。


『SR 食虫植物』

『ランダムで食虫植物が出現』


『SR モン〇ターボール』

『生命体にぶつけると、対象を収納する』


 触手ちゃんもカードが欲しいという事だったので、3枚ある『SR 食虫植物』を一枚あげようとしたのだが、流石は触手ちゃん。ちゃんと送る前に、送っても大丈夫そうな植物か、確認をしたいという話になった。

 ビリアとは大違いの慎重派淑女である。


「キュキュー」

「え? ……ああ。うん。確かにそうだ」


 触手ちゃんから華麗な指摘が入った。


『私が現物見たいって言ってるんだから、先に現物見させてから、ビリアちゃんにカード渡しても良かったのにね』


 うむ。確かに。そうすればビリアも何が出てくるか見てから判断出来ただろうし。

 しまったな。今頃、ビリアの世界で大変なことになってないと良いけれど。


「うふふ。私のノルマどうなったかなぁ。実はすごいモノで世紀の大発見とかされて、帰ったら表彰されちゃったり! うわー、マジ楽しみだしぃ」

「キュ」

「うん。そうだね。彼女はアレで良かったようだ。喜んでるし」


 変に現実を見せるよりも、幸せな事ってあると思うんだ。

 外れクジだと思って宝クジを買う奴はいない。誰しも、当たるものだと信じて、妄想して、楽しみにするのだ。

 だから、最初にハズレだと分かってしまってから、魔剣で送付するのと、何も知らずに送付するのとでは、大きく違う。きっと最初に現実を見せつけていたら、ビリアも今のように喜んではくれなかっただろう。


 送られてくる側の立場としては、迷惑極まりないだろうが、それは全てビリアが悪いので、苦情はビリアにお願いします。

 

「実際、本当にビリアの言う通り、あっちの世界では大喜びしてるかもしれないしなぁ。未知の植物なら、色々研究対象になるだろうし」

「きゅきゅー」


 触手ちゃんの「こればっかりは見てみないとなんとも」という言葉の通り、今のカード状態では、当たりなのか、外れなのかさっぱり分からない。

 だから、結論としては使ってみないと何も分からないのだ。

 そして、SRカードから出てきた食虫植物が、所謂モンスターと呼ばれるようなモノであった場合の対抗手段として、この『モン〇ターボール』も用意してある。

 説明文からするに、対象を捕獲する為のアイテムで間違いないだろう。というか、カードに描かれた絵からして、それにしか見えない。

 残念ながら、皆様には色々なしがらみの関係でモザイクが掛かっているだろうが、例のアレで間違いない。


「よーし。いくぞ」


 SRカードは『使う』と念じるか、『地面に落ちる』事で発動する。

 自分の近くに謎の食虫植物を出現させる訳にはいかないので、カードを持ってきた角材に紐で縛りつけ、少し離れた場所に目掛けて投げ捨てた。

 角材は放物線を描いて空を舞い、地面に落ちる。

 落ちた場所に光の柱が浮かび上がり、直にその光の中に大きな物体が現れた。


『ギシャシャシャシャシャシャ!!』


 それを何と表現したらよいのだろうか。

 強いてあげるとするならば、ウツボカズラの化け物。

 体表は禍々しい赤と黄色とオレンジのまだら模様という、非常に目に悪い色の植物だった。

 いや、アレを植物と言って良いのだろうか。

 先ほどから、口のような部分も見えるし、牙も生えているし、『ギシャー!』なんて叫び声を上げているし、これはもう植物ではない気がする。

 おまけにデカい。

 体長はフータの二倍を優に超える。さらに、ゆっくりではあるが、こちらに向かって進んで来るではないか。しかも、本体周囲には無数に蠢く蔓をのたうち回らせ、不用意に近づくことも出来ない。


「完璧に、モンスターだったな」

「キュキュ」


 触手ちゃんからも「ちょっとこれは倒すのが大変そう」というお言葉を頂いた。


「え!? キモッ! なにこれ、超キモイんだけど!」


 君が会社に送った食虫植物だよ、という突っ込みをしようとしたフータだが、言うのは止めておいた。今更言ったところで、後の祭りであるからだ。


「ビリア。メイスでアレ、倒せる?」

「ムリムリ! 近づくのも嫌なんだけど! ほら、口から涎垂らしてるしぃ、飛び散ってるしぃ、それにキモイ!」

 

 となると、これを使うしかないようだ。

 フータは『SR モン〇ターボール』カードを手に持ち、使用する、と念じる。すると、カードは一度小さく発光した。

 実体化したモン〇ターボールはちょうど手の平に収まる程度の物だった。野球ボールサイズで投げやすい。

 フータはそれをウツボカズラ型のモンスターへ投げつける。

 モンスターは飛んできたボ―ルを草の蔓で叩き落そうとしたようだが、蔦がボールを捕えた瞬間、パカリ、とボールが開き、光の糸がモンスターへと向けて飛び出した。

 その光の糸はモンスターをあっと言う間にぐるぐる巻きにすると、そのままドンドンと小さくなっていく。

 光る糸の隙間から、モンスターが握りつぶされてあふれ出す汁が、ジャバジャバと零れ落ちる。 メリメリ、ブチブチ、という繊維の千切れる音が木霊し、モンスターは断末魔の絶叫を上げ続けた。

 その絶叫が聞こえなくなっても、光の糸はモンスターを締め付ける事を止めず、最終的に、フータの二倍以上の高さを誇った大型モンスターは、超圧縮され、モン〇ターボールに入れるサイズの球体サイズにまで圧縮された。

 

 現場には、パカリ、と開いたままのSRアイテム モン〇ターボール。そして異様な雰囲気を感じる、モン〇ターボールと同じサイズの丸い塊だけが残された。

 先ほどまで暴れまわっていた食虫植物の姿形は無い。すべて、あの光の糸によって、この小さな丸い塊にまで圧縮されてしまったからだ。

 フータは自分の予想と違った現象が起きたことに唖然としつつ、もう一度カードの説明文に目を通す。 


『SR モンスターボール』

『生命体にぶつけると、対象を収納する』


 収納とは一体……。

 フータは丸い肉というか、草の固まった物体を見つめた。磨き上げられた泥団子のように、つるんとした表面。綺麗な球体であった。

 指先で突いてみるが、表面は石のように固まっている。

 持ち上げてみようと片手で掴むが、丸い塊はピクリとも動かない。

 

「……え? めちゃくちゃ重い!?」


 両手で持ち上げようとするが、塊はピクリとも動かなかった。

 足の裏で転がすように動かすことも出来ず、地面にしっかりと沈み込んでいる。


「そんなものも持ち上げれないの? 非力過ぎて笑えるんだけど」


 フータの必至な様子を憐れんだ瞳で見たビリアが、今度は私! とばかりに地面に落ちた塊を片手で握る。


「……え」


 そして焦る。

 片手で持ち上げようとしてもピクリとも動かず、両手で抱え上げ、「ふぬぬぬぅぅ!」となかなか間抜けな掛け声を出して、漸く地面から少しばかり浮いた。


「無理! 重すぎ!」


 そして直に手放した。

 塊は、ドズン、と音をたて、そして地面を揺らしてめり込んだ。

 フータは見た目からは想像出来ない程の重量に、首を傾げた。


「このアイテムの『収納』っていう説明は、サイズだけ圧縮するのかな。だから質量は元のままだったりするのかも。ってことは、この丸い球体の密度は、凄い事になってそうだなぁ」

「キュキュー」


 触手ちゃんから『しかも使い捨てのアイテムっぽいねー』というお言葉を頂く。

 確かに、パカーン、と蓋を開けた状態で転がっているモン〇ターボールは使用済み感漂っている。

 試しに拾って蓋を閉じようとするが、ばね仕掛けでも入っているのか、閉じる事は無く、再び開いてしまう。


「キュキュキュ」

「え? こんなので良いの? ゴミだけど。良いよ、触手ちゃんにあげる」


 触手ちゃんがモン〇ターボール(使用済み)を欲したため、そのまま与えると、触手ちゃんはソレをちゅるん、と一飲みにしてしまった。

 お腹を壊さないか心配になる。

 

「それで、この塊はどうするの?」

「どうもしない。とりあえず、このカードの食虫植物はヤバイ系ってことが分かったから、使用はしない事にする」

「要らないなら私にちょーだい!」


 ビリアのオネダリを無視し、フータはカードをうっかり落としたりしないよう、大切に仕舞う。


「実験は終わったから、今日の冒険は終了! 市場をぶらついて帰ります!」

「ねー! 他のカードもいらないならちょーだいよー!」

「ビリアの会社から何かしらアクションがあったらな。あんなので良いなら、まだいくつかあるからやるよ」

「言質とったわよ! 絶対だからね!」


 うきうき気分のビリアを見て、フータはこのぐらい何も考えずにいられたら、幸せだろうな、と思うのだった。


 ――そのころ、ビリアの住まう魔族の世界において、魔剣派遣業を営む会社の倉庫街は、大変な事になっていた。





 とある都市の沿岸部。

 巨大な港を持つその町は、多くの工場と倉庫街が軒を連ね、地上に空き地が無くなると、海を埋め立てたり、海上フロートを建造して発展を続けていた。

 国内有数のテーマパークも存在し、また、星が球体であることを認識できるほど遠くを見渡せる、超超高層タワーマンションも乱立していた。

 普段は大量の人が行き交い、活気に満ち溢れる町であるが、今日は誰もが自らの部屋に設置されたテレビに釘付けになっている。


 テレビの画面には、空撮された物だろうか。かなり遠くから撮影された現場の様子が映し出される。

 そこには、雲まで届くほどの、巨大な、ナニカが映し出され、テロップには『他次元転送装置の誤作動!? 未確認生物の出現!』という表示がされていた。


 そのニュースになっている事件に対応をしているのは、ビリアが所属する魔剣派遣業を営む会社であった。

 野外に設けられた臨時指揮所の中で、多くの社員が突如現れた巨大モンスターの対応に追われている。


「従業員及び軍の撤退を確認! 海上フロート第三倉庫区域に生命反応なし。爆破影響範囲から他フロートの離脱完了! いつでも行けます」


 会社保有の重戦車が砂浜に並び、沖にある会社保有の浮島へ向けて徹甲弾を撃ち続けている。

 地を揺るがす咆哮は断続的に続き、それは現場から何キロも離れた市街地でも、雷鳴のように聞こえた。


 重戦車軍が最大火力を投射しているそのすぐ傍に、臨時指揮所は設営されていた。

 日は傾き、多くのバルーン型証明が指揮所周辺を照らすなか、その上空を、数機の攻撃ヘリが低空で駆け抜けていった。


 事は会社保有の軍隊だけではどうにもならず、町の警備軍、県の自衛軍、そして国の軍隊までも動員した、怪物退治にまで発展していた。

 轟音を立てて、自衛軍の戦闘機が編隊飛行をして目標上空を警戒している。その羽の下には、いつでも投下できるよう、複数の爆弾が取り付けられている。


 臨時指揮所のテントから外に出た局長は、忌々し気に沖合にある浮島を見る。

 そこは会社保有の人工島であり、異世界からやってくる品を受け取り、保管する倉庫街でもあった。今現在は一面火の海で、崩れ落ちた倉庫が瓦礫の山となって大きな影を作っている。

 海岸から浮島を見ると、地表の炎が夜空に浮かぶ雲を赤々と照らし、海だけでなく、空までも燃え盛っているように見えた。


 そんな地獄の炎の只中に、ソレは聳え立つ。


 植木鉢のような土台から生えた、双葉と一本の茎。その先端には丸い果実が実っている。その果実は化け物の頭部そのものであり、赤地に白の斑点が浮かんだ表皮を持つ。果実の中央で真っ二つに裂けた大きな口には、巨大な牙がズラリとならび、飛び交う戦闘機や、近づく攻撃ヘリに対して、牙を打ち鳴らして威嚇していた。

 高さは優に200mは超え、一昔前の怪獣映画さながらの光景だ。遠近感が狂いそうになる。

 その光景を見ながら、局長は「とても現実とは思えん」とぼやく。


「局長!」

「分かった。爆破しろ」


 我が社の倉庫街が浮島に作られているのには理由があった。

 それは、異界からの品物を扱う関係上、もし、どうしても対処できないような事があれば、海に沈めてしまう必要があったからだ。

 これが自立移動可能な化け物であった場合は、最大級の武力を持ってこれを撃滅するしかなかったが、今回の化け物は移動不可の植物系。ならば、無駄な弾を使わせ、多大な弾薬類の請求を、国や県、町から提出される前に、浮島を爆破し、海底に沈めてしまった方が負担は少なくなるという判断の結果だ。

 それに、対処が遅れれば遅れる程、世間の批判も浴びる事になる。どちらかと言えば、民間事業者として、顧客が離れる事の方が金銭的な被害よりも痛手になる。


 無事な浮島は接続を解除し、海上移動させてある。残されているのは、あの植木鉢の化け物が暴れる区画のみ。

 

 局長の爆破指示があったその数秒後、倉庫街が築かれた浮島が、度重なる爆発音と共に、崩壊していく。

 赤々と燃え盛る炎の中に聳え立っていた巨大な化け物は、土台が海に没した事により、慌てた様子でのたうち回る。だが、そのまま海の底へ沈んでいった。

 最後には、浮島の姿形は無くなり、炎が付いた残骸が漂う暗闇の海だけが残された。

 そして局長は、今後の事後処理にいったいどれほどの時間と、経費が掛かるかを考え、両手で頭を抱えて蹲った。


「……どうしてアイツは……パッ〇ンフラワーに金銭的価値があると思ったんだ。しかも、どうやって生きたまま、あのような化け物をこちらに送り込んできた……嫌がらせか? 私に対する復讐なのか? そもそも、生物は転送出来ないはずじゃ……。まさか植物だからフィルターから外れた? いや、そんなことは今までに一度も無かったはずだ……」


 局長は絞り出すように、ぶつぶつと頭の中の疑問を吐き出し続ける。

 だが、結局はこの一言に尽きた。


 あの馬鹿は一体何を考えている! 

 

 実際には、転送装置は壊れておらず、ちゃんと生きているモノは送れないようになっていた。しかしビリアが送付したのは、実体化する前のカードである。つまり、転送装置の除外対象にはなっていなかった。

 カードは何事も無くこちらの世界に転送され、地面に落ちて、中の化け物が実体化した結果が、浮島一つ爆破処理である。

 

 この事件により、ビリアの立場は急激に悪くなるどころか、彼女の家族をも巻き込み――





 ――そして世界を巻き込む事態へと、加速していくことになった。




『SR 食虫植物』

『ランダムで食虫植物が出現』


~フータのメモ~

 植物っぽいモンスターが出てくる。今回は対処出来たが、触手ちゃんでも難しそうなので、今後このカードはすべて破棄対象。



『SR モンスターボール』

『生命体にぶつけると、対象を収納する』


 ~フータのメモ~

 見た目は赤と白のボール。版権的に危なそうな見た目をしている。捕獲ではなく、対象を圧殺する。威力は凄そうだったから、隠し玉に取っておけば良かったかなぁ……。使い捨てな所が惜しい。

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