第8話 パンツ
クソビッチ改め、駄剣運搬要員の魔族娘ビリアが同居人になった。
見た目、大人しめのおっぱいデカい可愛い娘だが、口を開くとキャンキャンと鳴く煩いギャルになる。クソビッチじゃなくて、ギャルビッチとでも呼んでやろう。
「そんな、ウサビッチみたいな感じで呼ばれるのは嫌です!」
「なんだ、ギャルビッチはウサビッチを知ってるのかよ」
「ギャルビッチじゃない! 私の名はビリア!」
「どっちでも良いじゃない。なぁ、触手ちゃん」
触手ちゃんが「キュー」と俺に同意してくれる。可愛い奴め。
ビリアは実体を持ってこの世界に送還されたが、その性質は魔剣と同期させられているらしく、魔剣から離れる事が出来ないそうだ。
そして、魔剣とフータとの契約は未だ継続中で、魔剣がフータから離れると罰が下る仕様は今も続いている。
つまり、フータは魔剣から離れられず、魔剣からビリアは離れられない。すると必然的に、フータとビリアは常に一緒に行動する必要が出てくる。
そこで困ったのがフータである。
「これでは、いつまで経っても風俗に行けないではないか!!」
「変態! この変態! 近づかないで! 精液臭い!」
「ははは、こやつめ。言うではないか。褒美に俺の脱ぎたてパンツをくれてやろう!」
「いやあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ドッタンバッタン。
朝から客室でフータとビリアは戯れる。
その騒々しさに、流石に宿屋の看板娘テルシアちゃんは苦言を呈した。
「仲が良いのは良きことですが、お静かにお願いします」
ニコニコ笑いつつも、有無を言わせぬ覇気を放つ看板娘テルシアちゃん。御年15歳とは思えぬ、宿屋の女将顔負けの存在感であった。
フータはベッドに。
ビリアは椅子に。
触手はフータの頭上に乗った状態で、三人は一度落ち着きを取り戻す。
フータは深呼吸をして、コキコキ、と首を鳴らしてから「良し」と一つ気合を入れた。
「いでよ! SR以上確定ガチャ!」
本日の日課、ガチャを行う所存である。
先日、ガチャを回すか、回すまいか、という悩みから抜け出したフータは、毎日のガチャを楽しむ事が出来るようになっていた。
「この前のように金になる装備が出てくれると助かるんだがな」
金属バットが金貨10枚に化け、しばらくの滞在費と食費が確保出来た。それがフータの心を和ませ、こうしてガチャを楽しむ余裕を与えてくれる。
たとえ、外れアイテムが出たとしても、まだお金を食いつぶしてしまうには、十分な時間がある。その間に引けるガチャの中で、良い物が一つでもあれば、それなりの値段で売れる事だろう。
なんたって、このガチャはSR以上確定ガチャ。
使え無さそうな効果を持つ金属バットが、金貨10枚で売れてしまうのだ。
伝説のメイスとか、賢者のマジカルロッドとか出てきても、ちっともおかしくない。
そうなれば、きっと一生かかっても使い切れない程の大金を手に入れられるに違いない。
「ねー。一人で悦に張ってないで、さっさと回しなさいよー」
「……っち」
「うっわー、今のマジウザいんですけど! ちょー感じ悪い!」
いい気分でガチャを回そうとしていたのに、それをビリアに邪魔され、フータは不機嫌なままグルリン、とガチャのレバーを回した。
チンッとオーブンレンジのような音がして、ガチャの本体からカードが飛び出してくる。
ビリアがそれを取ろうとしたので、フータは即座にその手を叩き落し、カードを引き抜いた。
「いったー! なにすんのよ!」
「ギャルビッチこそ何しやがる! これは俺の、運命なんだぞ!」
「わけわかんないんですけどー! もー、最悪なんだけど。こんなおっさんと二人きりだなんて。いつ犯されてもおかしくない。ちょー危機的状況なんですけどー」
本当に組み伏して危機的状況に陥れてやろうか!
フータはイライラを募らせながら、しかし、己の手にあるカードに免じて、ここは一つ大人の余裕を見せようと、深呼吸をして落ち着きを取り戻す。
「臭い息吐かないでよー」
「死ねやギャルビッチ!」
フータは 落ち着きを 失った !!
フータは手に持っていたカードを、全力投球し、ビリアの顔面に叩きつける。
ベシーン、と良い音を立てて、カードがビリアの額を直撃した。
「みぎゃーーー!! マジ痛いんですけど! ちょー最悪! もう嫌! 帰る!」
「よし分かった! 俺が送還してやる! 魔剣でお前を刺せば、向こうから吸い取ってくれるだろうしな! 今すぐ刺して逝かせてやるよ!」
「ピィィィッ!? 顔がマジなんですけど! 流石にそれは死ぬって!」
シャキィィン、と魔剣を鞘から引き抜くフータに、ビリアはベッドをひっくり返して防壁を構築した。
「片手でベッドをひっくり返すとか、無駄にパワーありすぎだろ!」
「ふふん! 人間如きと同列に扱わないで! 私達魔族あひゃあぁぁあ!? いま、いま本気で振りぬいた! 今本気で振りぬいたよね! 信じられない!」
「っち……惜しかった」
立てかけたベッドの脇から首を出していたので、脅しで振ったのだが、結構ギリギリだった。危うくガキの首チョンパするところだったぜ。
こういうガキにはどっちが上か、最初に分からせるのが肝心。ワンころと同じだ。
ベッドの後ろに隠れているビリア。だが、そんな木製ベッド程度の防壁、この魔剣の前には無きに等しい!
「ベッドごと、串刺しにしてやる!!」
フータが腰だめに剣を構え、ベッドに向かって突進する。
もちろん、本当に刺すつもりは無く、ベッドに体当たりしてそのまま壁にでも押さえつけてやろうと思ったのだ。
ドスンッ、とベッドに体当たりする直前。悲鳴と共に、ビリアがゴロゴロとベッドの後ろから飛び出してきた。
彼女の服であるボンテージ調の衣装は、ビリアの過激な動きにもピタリと張り付かせ、時には謎光線を発して、フータの視界にオッパイの先の突起物や【自主規制】などが映らないようにしている。
「ふんぬ!」
フータは床に突っ伏しているビリアに向け、魔剣を上段に構える。
「こ、こうなったら~。私だって、やられるばっかりじゃないんだから!!」
ビリアは早口に何事かを呟く。すると、彼女の右手に、鋭く削り取られた氷の弾丸がいくつも現れた。
ぴりり、とした空気がフータとビリアの間を走る。
二人の額から、緊張の為か一筋の汗が流れていき、それが頬を伝い、顎の先から一滴――地面へと落ちた。
二人は同時に動きだす。
そのタイミングで、客室のドアが乱暴に開かれた。
「何やってるんですか!!」
あまりに騒がしい為、再度フータに注意しようとやってきた看板娘テルシアちゃんは、部屋の惨状に気が付き、思わず怒鳴り散らしてしまった。
心優しいテルシアちゃんであるが、流石に自分の大好きな宿屋の備品を破壊されて、黙っていられるほど、おしとやかではない。
テルシアちゃんは履いていたスリッパをビリアに向けて蹴り飛ばす。
スリッパはビリアの顔面を的確に捕えた。
突然の事にビリアの思考は乱れ、右手に浮かんでいた氷魔法が解除され、魔力として霧散してしまう。
そのままテルシアちゃんは愛用のモップを振り回し、剣を上段に構えているフータへ肉薄した。
「お部屋で暴れちゃ、ダメでしょう!!!」
そして、フータが全く反応出来ない速度で、三度、人体の急所を的確に穿った。喉ぼとけとか、股間とか、眉間とか。さらにテルシアは振り向くと同時に、ビリアの喉元にモップの柄の先を突きつける。
「弁償してもらいますからね」
テルシアちゃんが口にするのと同時に、フータは白目を剥いて、膝から崩れ落ち、床に顔面から倒れ伏した。そしてビクッ、ビクッ、と泡を吹きながら痙攣を始める。
喉元にモップの柄を突きつけられたままのビリアは、恐怖のあまり体をプルプル震わせ、両腕をゆっくりと上げて降参のポーズを取る。
そこまでして、漸くテルシアちゃんは大きく息を吐き、にっこりと微笑んだ。
「では、賠償金について話合いを、しましょうか」
そしてフータが気絶により相席しない内に、ビリアの完全降伏状態でベッドなどの弁償金が協議された。
その結果――
「おい。金が無いんだが」
フータの有り金はすべて無くなった。ついでに、部屋の中からベッドも無くなった。
『直るまで、床で寝てください』
ニッコリとテルシアちゃんから告げられては、何も言えない。
既に長期滞在するために、宿代は前払いしてしまっている。今この宿を出たら、路頭に迷うしかない。それに、壊したのは自分たちなのだから、自業自得である。
フータは椅子に座り込み、テーブルに突っ伏した。
ビリアは際どい衣装のまま、胡坐をかいて地面に座り込む。
多数の謎光線がビリアの股間部を、まばゆい光で覆い隠した。
「金が要る」
フータは突っ伏していた状態から、即座に立ち直った。
理由は簡単だ。
金がないと、触手ちゃんの食費が捻出できない。つまり、飢えた触手ちゃんにパクパクお召し上がりされてしまう可能性が高い。
金欠イコール、フータの生命の危機に直結しているので、フータはいつまでも嘆いてはいられないと、直に立ち上がった。
「触手ちゃん! これから狩りに行くよ! 金を稼がないと!」
触手ちゃんの戦闘能力は著しく高い。説明不要の強さというのも納得の強さだ。
そのため、特に依頼も受けず、適当に森まで走って、見つけた得物を片っ端から倒していけば、それなりの金になるだろうと考えたのだ。
もしくは、チンピラ狩りをして金を巻き上げるかだが、目撃者がいる可能性の高い街の中で、人間を襲うのは躊躇われる。
フータは魔剣を鞘に納め、運搬要員であるビリアに放り投げて渡す。
ビリアはそれを「あわわわわ」と言いながら大きく胸の前で抱きしめるように受け止め――損ねて盛大に顔面を強打。地面に魔剣を落し「うぎゅぅぅぅ」と鼻頭を抑えて痛みを堪えている。
フータはそんなダメギャルビッチビリアを無視し、触手ちゃんを探す。
一瞬「魔法少女ダメギャルビッチ☆ビリア」という語呂合わせが、フータの脳裏をかすめる。
「ん? どうした触手ちゃん。そんな部屋の隅で」
触手ちゃんは部屋の隅でモジモジしていた。その触手ちゃんの下には何かが敷いてある。
フータが近づくと、触手ちゃんはいつもと違い、「シャーッ!」と威嚇のような事をしてくる。
だが、フータはそれを気にすることなく、触手ちゃんをひょい、と両手で掴み、持ち上げた。
触手がモジモジ身もだえるが、可愛い小型犬が必死に抵抗しているようで、心がほっこりする。
『キューキューキュー!!』
「……パンツ?」
持ち上げられた触手ちゃんが盛大に暴れる。
まるで『キャー! 見ないで―!』と言っているかのように。
フータは触手ちゃんを小脇に挟み込み、空いた手で床に落ちたパンツを拾う。
女性物のパンツ。色は紫。
細やかなレースの刺繍が施され、ちょうど正面部分には奇怪な紋章が縫い込まれている。総合的に判断すると、煽情的な色気を漂わせる極上の一品だ。
「な、何それ。ショーツ?」
「パンツだろ。なんでこんなところに?」
フータは何気なく、パンツを鼻先に近づけ臭いを嗅ぐ。
どことなく、洗濯をした後のような香りがした。
「………………………」
「……おい、なんでそんな部屋の隅に下がるんだよ」
「私、生まれて初めてドン引きしたかも」
「ちょっと臭いを嗅いだだけだろ!」
「ド変態じゃない! 超変態よ! 超人変態野郎よ!」
「何が変態なんだ! 洗濯済みか確認しただけだろう! 洗濯してなかったらばっちいだろ!」
妙ないちゃもんを付けられたフータは、謎のパンツを手に持ちつつ、左脇に抱えた触手の元気がない事に気が付いた。
「どうした。元気がないじゃないか、触手ちゃん」
触手ちゃんは返事も無く、ぐでー、と俯いている。
心無し、泣いているような気もするが、きっと気のせいだ。
「あ。カード」
ビリアが部屋の隅、ちょうどパンツがあった場所を指さす。
そこにはクレジットカードサイズのガチャカードが落ちていた。どうやらパンツに夢中で見落としていらしい。
フータはカードを拾い、その説明文を読む。
『SSR パンツ』
『高貴なお方の使用済み』
レア度は最上級。
絵は紫色の女性用下着。
説明文は簡潔明瞭。
つまりこれは。
「このパンツを売ろう。高く売れるかもしれない」
次の瞬間、フータはビリアから蔑みの目を向けられ、左手を触手ちゃんにがぶり、と噛まれた。
その後、触手ちゃんに食われかけたが、何とか落ち着いてもらい、二人と一匹はテーブルを囲む。
テーブルの上にパンツが置かれ、その取り扱いについてお話し中だ。
パンツ如きで……、と思うかもしれないが、このパンツは伊達にSSR装備ではない。
もしかしたら、装備すると同時に、不思議な力に目覚める可能性もある。ならば、俺が装備するべきなのだが、それは全力でビリアと触手ちゃんが否定したため、お流れとなった。
「じゃあどうするんだ。装備することもだめ。売るもダメ。後は保管する?」
「保管して何に使うのよ。あ、分かったわ。ナニに使うのよね? イヤらしい!」
「なるほど。確かに。チビでガキンチョなお前よりは、余程役に立ちそうだ」
「どういう意味よそれ!? 私に失礼じゃない!!」
バンバン、と机を叩く魔族少女アホギャルビッチ☆ビリアを無視するフータ。
そして、この紫な素敵勝負下着の持ち主である触手ちゃんに話しかける。
いやはや、マジでびっくりですよ。この触手ちゃん、ちゃんと触手の世界では人型で、こっちの姿は依り代に宿った姿なんですって。すごーい、こんな勝負下着を履くなんて、きっと人型の触手ちゃんは超ナイスヴァディーなお姉さま系なのだろう。期待アゲである。
触手ちゃんは即座に焼却処分を希望していた。
売るのもダメ。保存もダメ。となれば、処分しかない。
「ふぅ……致し方ない。これ以上触手ちゃんに嫌われては、俺の生命維持に関わる。ギャルビッチは役に立ちそうにないから、俺には触手ちゃんだけが頼りなんだよ」
「非力な変態人間よりは役に立つわよ!」
「脳筋パワー厨は黙っててくれめんす」
「捻りつぶすわよ!!」
ギャルビッチがしゃべると、話がちっとも進まない。
「あんたの言いたいことは良ーくわかった。じゃあ、私が魔法で燃やすわ」
ということで、ビリアの魔法でおパンツ様は焼却処分されることになった。
ビリアが紫おパンツを手に取り、手の平の上に乗せる。そして小さく呪文を唱え始めた。
「……あれ? これって」
ビリアは詠唱を中断し、パンツを両手で広げる。
彼女はパンツの中央辺りに縫い込まれた紋章をじっと見ている。そして、徐々に青ざめ始めた。
ビリアの視線が、触手とパンツの間を行き来する。
「あ、あなた……『語られない触手』のご婦人ですか?」
「はぁ? 語られない触手?」
ビリアは触手に向かって、そう質問をした。
これに対し、フータは首を傾げ、触手は『キュッ』と短く返事をする。
内容は、多分「そうだよー」だ。
ビリアの手から、パンツがひらひらと地面に落ちた。
そしてビリアは、そのままストン、と地面にへたり込む。
所謂、女の子座り、というやつだ。
そして壊れたように笑い出した。
いや、壊れたように、ではなく、壊れた。
なぜならば――
「うおぁっ!? 何漏らしてんだアホ!!」
「あははははは、あはははは、あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「テルシアちゃーん。テルシアちゃん雑巾プリーズ!! ビリアが漏らした!!」
その後、ビリアはしばらく笑い続け、次いで泣き始め「私が死んだら両親に伝言を」とフータに遺言を託し、疲れ切って眠りに落ちた。
俺はそんな状態に陥ったビリアをそっと見守り、頭の上の触手ちゃんと心を通わせる。
「あいつヤバいな。情緒がヤバイ」
『
そして俺はテルシアちゃんにお願いをして、ビリアのボンテージ調の衣装をひっぺ返し、普通の服をツケで購入してきてもらった。
いつまでもボンテージ衣装では、町に繰り出せないし、余計な厄介事を引き込みかねないと思ったからだ。
別に魔族少女アホギャルビッチ☆ビリアが、おっさんに孕まセックスされても俺には実害が無いので構わないのだが、脳筋キャラであるならば、魔剣持ち&荷物持ちとしてこき使える可能性がある。
「服代の借金は、十日で一割です」
「う、うっす」
宿屋の看板娘テルシアちゃんにニッコリ脅された。
早くテルシアちゃんに服代を返さないと、こちらの世界でも借金漬けになりそうだ。
そう思ったフータは、明日からはしっかり狩りに出かけようと考える。
そして、このビリアのボンテージ衣装とSSRパンツをどうにか変態に売りつけられないものかと、悪だくみをするのだった。
『SSR パンツ』
『高貴なお方の使用済み』
『SSR 触手』
『強い(説明不要)。常にお腹を空かせている。飢えさせると所有者を食い殺す』
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