第9話 山菜取り


 宿屋の娘テルシアちゃんから借りたお金を返すべく、ギルドに赴き、常時以来の薬草類の採取をしようと森へやってきたフータご一行。

 

「女の子に荷物を持たせるとか、雄の風上にも置けないやつよねー」

「ビッチアが家に帰れるかどうかは魔剣それに掛かってるんだ。自分で持て」

「ビッチアって誰よ!? ビリアだしぃ!」

「語尾を伸ばすな、ウザい」


 道中、ビリアとの楽しい(?)会話が弾み、移動の時間はそれほど苦にはならなかった。それに何より、彼女の身体的ステータスが高い事が非常に有用だった。

 フータが本気を出してなんとか持ち上がる荷物を、ビリアなら片手でひょい、と持ち上げる程度に身体能力が高い。

 これを荷物持ちに採用しなくて、どうする。


「適材適所なんだよ。お、薬草発見」

「ふん。その程度の見分けなら、私だってつくしぃ」

「おい! 変な草を勝手に積むな! 絶対それは違う!」


 茎の部分に無数の棘がついている、示された薬草とは全く違う形の植物を、ビリアが根っこから引き抜き、鞄に入れようとしていたので、フータは全力でそれを止めた。

 

「なによ。同じじゃない!」

「どんな目してんだ!? 全然違うだろ! 俺が摘んでる植物に棘はねぇよ! 葉っぱの形も全然違うし! って痛!? なんだこの棘! めっちゃ刺さるんだけど!?」

「ぷぷぅー、この程度の棘が刺さるの? フータって紙装甲じゃん。ダッサ」


 ビリアは無数の棘が生えた草を、両手でグシグシとこねる様に揉んでから、地面にぽい、と捨てる。フータが触れただけで皮膚に刺さった棘の植物をである。もちろん、ビリアの手にはかすり傷一つ付いていない。

 それを見てフータは純粋に、ビリアの頑丈さを褒めた。


「ビリア。凄いじゃないか。お前は立派な肉便器になれる」

「肉便器!?」

「間違えた。肉壁だ」

「言い方!! せめてタンクとか、壁役とか言いなさいよ!」


 再び、ギャイギャイとフータとビリアが騒がしく喧嘩する。

 そんな痴話喧嘩を、フータの頭上で大人しく聞いている触手ちゃん。彼女は時折、二人を狙って頭上から襲撃を仕掛けてくる鳥類系の魔獣や、昆虫系の魔獣を瞬殺している。

 知らないうちに魔物が倒され、そして触手に喰われていく姿に、ビリアは時折、青白い顔をして、なるべく触手から離れた位置を保っていた。

 

「……規格外の戦闘力ね」

「頼もしい相棒だ。触手ちゃんが居なかったら、採取にもこれないからな。どこぞのギャルと違って、触手ちゃんはすごく役に立つ」

「私だって、こうやって荷物持ってるじゃない!」

「そうだね! 荷物持ち偉いねー! すごく助かるよーー、アリガトー、ビッチアちゃん」

「むき~! めっちゃムカつくんですけどぉ!! ビリアだしぃ!」

「語尾を伸ばすな、うざぃ」


 触手ちゃんが敵を倒し、フータが薬草を見分け、ビリアが摘み取っていく。

 即席どころか、成り行きでこうなったトリオであったが、傍から見れば非常に理想的なパーティーに見えた事だろう。

 

「あ。これ、ワラビに似てる。テルシアちゃんに持って行って、食用ならご飯に出してもらおうかな」

「ぷっぷー、おっさんったら、草食べるの~? これは流石に草生えるんですけど~」

「お前には絶対食わしてやらねぇ」


 フータは薬草と同時に、群生している山菜を適度に摘み取り、今日の夕飯を楽しみにしながら町へ戻る。

 そして、薬草を納品し、幾ばくかの対価を得た後、宿屋へ帰還。山菜をテルシアちゃんに見せてみた。


「わー! 立派な山菜です!」

「料理に使ってくれないか? 出来れば揚げて欲しい」

「良いですよ! 他のお客さんにも提供して良いですか?」

「もちろん。テルシアちゃんには迷惑ばっかり掛けてるから」

「そうですね!!」


 全力で肯定されて、ちょっと凹むフータ。

 少しは配慮というか、オブラートに包んでいただけませんかねぇ……。まぁ、俺たちが悪いんだけれど。

 フータとテルシアちゃんのやり取りを見ていたビリアは、少しばかり山菜に興味を示し始めていた。

 

「え、あの草ってそんな嬉しがるものなの?」

「旨いんだよ。酒のツマミになるしな。お前にはやらん」

「ふん! 草なんか誰が食べるもんですか! 牛じゃないんだしぃ」

「牛みたいなご立派なもんぶらさげてるけどな」

「ど、どどど何処見て言ってるのよ! 変態しね!」


 口の減らないガキだ、とフータは思いながらも、ちゃんとビリアの分の夕食も頼んでしまう。


 一応、荷物持ちで働いてるからな。迷惑だし、邪魔だし、煩いし、エロイけど、一応働いてくれたしぃ。あ、やべ。口調が移りそう。


 フータはそう理由付けして、自分を納得させていた。

 そして、夕食。

 

「うまーい!!」


 フータはビリアの前で、これ見よがしに山菜の天ぷらを食して見せる。

 フータだけではなく、食堂に集う客には同じように山菜の天ぷらが振る舞われ、皆が非常に上手そうに食している。

 そして、一人、それをプルプルしながら見つめるビリア。


「ちょー旨いんだけどー! やばくねー、これやばくねー?」

「……まじウザい。マジウザい。マジウザい。しね」


 フォークでプチトマトをめった刺しにしながら、ビリアが呪詛を吐く。

 馬鹿にした手前、自分から食べてみたいとは言えず、かといってフータが魔剣を持っているため、離れる事が出来ず部屋にも戻れず、皆が美味しい美味しいと言って食べる山菜を、ただただ見つめる事しか出来なかった。

 徐々にビリアの目元に涙が浮かんでくる。


 ……素直に食べたいって言えばいいのに。強情なガキだなぁ。


 フータは宝石のような瞳を、涙でウルウルさせ始めたビリアを見て、ため息をつく。そして、フォークで山菜の一つを差し、ひょい、とビリアの前に差し出した。


「ほれ、食ってみろ」

「……いらないしぃ」

「騙されたと思って食ってみろって。美味しいから」

「いらないしぃ」


 強情なガキだなぁ。


「食え。これから山に入って、現地で食材集めて食べる事もあるんだ。どんな味がするか知っておいて損はない。その時になって、初めて食べたら口に合わないとか、体が受け付けないとかしたら、大変だろ? だから味見しておけ」

「……そこまでいうなら、味見くらいはするしぃ」


 そういって、フータの持っているフォークに顔を近づけるビリア。


 え。フォーク持ってくれないの? これじゃぁ、まるで――


「あーん」

「!? あーんじゃないし!! 自分で食べるしぃ!」

「お前、自分から食いに来てたじゃねーか」

「違う! これはその、ついうっかり!」


 ビリアはフータの手からフォークを奪い、バリバリと山菜の天ぷらを噛み砕いていく。そして、その微妙な苦みのある山菜特有の味に、不思議そうな顔をするのだった。


「ふふふ、やはりお子様の口にはこの旨さが分からなかったようだな」

「子供じゃないしぃ! ちゃんと大人だしぃ!」

「体ばっかり大人になって。イヤらしい雌牛め」

「なっ!? 言い方ぁ! 変態しね!」


 フータは少しえぐみの強いこの世界のビールを飲み笑う。

 ビリアはフータに揶揄われ、大きなオッパイをブルンブルンさせながら、ギャイギャイ騒ぐ。

 触手は目の前の山菜の天ぷらを、シャクシャクと美味しそうに食していく。





 こうして今日もまた、騒がしい一日が終わっていくのだった。






『山菜』

『天ぷらにするとすごく美味しい。でも、山菜そっくりな毒草もあるので、素人は採取しない方が無難。お腹痛くなっても知らないよ』


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