第4話 忘れられた異変


 冒険者ギルドは、行方不明になった冒険者の捜索なども職務としている。

 理由は死体があった場合、遺留品を回収することが一つと、死んだ原因が冒険者側の過失によるものか、それと何かしらの想定外の出来事が原因かを見極めるためだ。


 冒険者がポカをやって死ぬ分には問題ない。

 遺留品は冒険者ギルドが処分なり換価し、組織の運営に役立てる。死体漁りもギルドの立派な金策だ。

 そして後者。何かしら冒険者の身に想定外の事が起きて死亡、ないしは行方不明となった場合、その原因を究明し、他の冒険者に周知する必要がある。

 そうでなければ、冒険者が次から次へと死にまくり、組織の運営が成り立たなくなってしまうからだ。

 冒険者の数が減れば、依頼の受諾率も下がる。依頼の受諾率が減れば、組織への依頼件数も減り、利益の減収に繋がる。

 それを避けるためにも、原因調査は重要な仕事であった。


 そしてここは街からそれほど離れていない森の浅い場所。

 ギルドの調査チームは、体の殆どを食い散らかされた冒険者の死体を発見し、その遺留品から彼らが行方不明となった冒険者であると確認した。

 

「二人は骨まで残らずか。もう一人は下半身の骨だけ残ってるが……こいつは別の奴にも食われてるな」

「ですね。骨が無いのは間違いなく触手の仕業でしょう。やつらの食事跡は非常に綺麗ですから。触手に2.5人分食べられ、残りの0.5人分を野犬などその他諸々が食べた、と考えるのが妥当ですね」

「しかし、肉量2.5人分を喰らう触手か。1,000匹クラスの大移動にでも巻き込まれたか?」

「だと思いますけどねぇ。触手の食事量的には、その規模になるでしょう。森の浅い階層ですし、それ程の数がうろついているとするならば、初心者達が心配ですね」

「山狩りも考えねばならんな。よし、金目の物を回収し、撤収!」


 ギルドの調査チームは地面に散らばる遺留品を回収していく。そして気が付いた。


「……綺麗に硬貨だけありませんね」

「ああ。こいつは、きな臭くなってきやがった」


 触手が硬貨を喰うとは思えない。

 金を欲しがるのは人間だ。

 しかし、遺体の損傷具合からすれば、触手が関わっていることは明白。となると、考えられるのは――。


「テイマーの仕業……ですかね」

「その可能性が高い。しかも触手を1000匹単位で操る、凄腕だ」

「複数犯である可能性は?」

「一人じゃ、ないだろうな。ただ、あまり頭が良くないか、物事を知らない奴ばかりだ。硬貨を盗んでおいて、それよりも金になる武器を放置するのが理解できない。こいつはそれなりの武器だぜ」


 血で赤黒く染まってしまった鈍器を見つめる調査隊の隊長。


「ま、触手千匹も連れてるテイマーなんぞ、目立って仕方ないだろうし、街に入ろうにも門で止められる。それに、言っちゃなんだが、こいつは多分、運が悪かっただけだ」

「行方不明の冒険者は素行が悪い事で有名な連中です。どこかで恨みを買って、殺された、という可能性もありますが?」

「いや、それは無いな。そうであるならば、その殺し屋は三流どころじゃない。硬貨さえ盗まなければ、触手の仕業としてこの事件は処理されている。あえて人が関与する証拠を残す必要がない」

「……となると、本当に運が悪かったと?」

「たまたま、ヤベェ奴に絡んじまったとか。他に考えられるとすれば、触手の群れに襲われた後、採取にでも来てた初心者冒険者が通りかかって、金だけ持っていったとか、な」

「後者の方が、可能性がありそうですね……」


 調査隊のリーダは不自然なほど綺麗に斬られた成木の断面を指でなぞる。


「剣士とテイマーがいる事は確定。この断面からすれば剣士もテイマー同様凄腕だ。ここで斬られた木が見当たらないのは気にはなるが……」


 リーダーはそこまで考えて、とりあえず危険が身近に迫っている事は無いだろうと判断した。


「どっちにしろ、死体が無いのは触手だが、原因は制御された触手。それに死体から銅貨すら残さずきっちり金を盗むような貧乏人ご一行様。腕は確かだが、おつむは悪い。となれば、テイマーは町の外で待機して、他の面子が町に入って装備を整えるなりするだろう。一応門兵にそれとなく伝えておけば良い。素通りするならそれでよし。問題を起こすようなら、捕まえる」

 調査隊の隊長は手を叩いて話を終わらせる。

 こうしてギルドの調査チームは、森から撤収し、状況を報告。

 ギルドは一部の信頼できる冒険者や門兵に情報を流し、それとなく犯人探しを始めるのだった。

 

 しかしながら、触手一匹しか持っていないフータはのような初心者テイマーが、これら警戒の網に掛かる訳もない。

 また、見るからに初心者装備をしているフータが凄腕剣士に見られることも無い。

 

 SSR魔剣とSSR触手という非常に特殊なアイテムを持ったフータは、ベテランであるギルドの調査隊が想像した人物から、見事にすり抜けたのだった。


 結局、犯人は見つかることも無く、この話は自然と忘れ去られていった。

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