第2話 触手


 簡素なベッドの上で、ペラペラの毛布に包まり夜を明かしたフータは、外から聞こえる通りの喧騒によって目を覚ました。

 ベッドの傍らには昨日ドロップしたSSR装備の魔剣が置かれている。

 しかし、それは名ばかりSSRスーパースペシャルレアであった。


「ちっ」


 目覚めて早々、フータは魔剣を見て苛立ちを隠せず舌打ちをする。

 魔剣を収めた鞘から剣は抜けず、鞘には『ただいま営業時間外』という日本語が明滅するばかり。なんという使えないSSR装備であろうか。これではタダの鈍器だ。

 

「だが、俺にはまだチャンスがある。今日も一回、ガチャを回せる。起死回生を図ろうではないか」


 木製の窓を開け、部屋に外気を取り込み、眩い朝日に目を瞬かせる。

 フータは光が差し込む室内へ体を向け、叫んだ。


「いでよ! SR以上確定ガチャ!」


 そして現れたミニチュアガチャのレバーをゆっくりと掴み、呼吸を整える。


 毎日SR以上のアイテムが手に入るのだ。たった一回、外れ装備が来たからと言って悲観してはいけない。それに未だに性能は未知数。もしかしたら化けるかもしれない。


 フータは心を落ち着け、何度も深呼吸を繰り返す。

 そして、己が感じ取ったタイミングで、レバーをグリン、と一回転させた。


 チンッ、とトースターの「焼けましたー」という合図のようなベルの音が鳴り、カードが飛び出す。

 フータはそのカードを手に取り、思わず雄たけびを上げそうになるのを、寸でのところで堪えた。

 だが、眦はだらしなく下がり、口元は自然とにやけて口角が上がる。


『SSR 触手』


 二日連続SSRの出現!! 来ている! 波が来ている!


 フータは震えだす全身を、鋼の理性力(そんなものがあれば債務超過に陥っていない)で抑え込み、地団太を踏んで喜びの舞をする。

 そして、ハタと気が付いた。


 そうだ。まだ説明文を読んでいない。


 たとえSSRでも油断はするな。

 昨日経験した恐怖が、フータの心に淀んだ空気を漂わせた。


「いや、大丈夫だ。いける! いけるはずだ!」


 自らを鼓舞するように叫び、ゆっくりとSSRカードの裏面説明文へ目を通すフータ。


『強い(説明不要)。常にお腹を空かせている。飢えさせると所有者を食い殺す』


 フータは一度カードから目を離し、目頭を押さえ、揉み、己の頭が正常かどうか素数を数え、窓から外を眺めた。肺いっぱいに美味しい空気を吸い込み、しっかりと目を覚ましてから、もう一度カードの説明文に目を通す。



『強い(説明不要)。常にお腹を空かせている。飢えさせると所有者を食い殺す』




「説明しろ!!!!!!!!!」


 フータはキレた。





『SSR 触手』

『強い(説明不要)。常にお腹を空かせている。飢えさせると所有者を食い殺す』







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る