異世界特典にSR以上確定ガチャを選択したのは間違いだったかもしれない

あるあお

第1話 はじまり

『異世界特典はSR以上確定ガチャでお願いします!! 他はいりません!』


 異世界からの闖入者であるフータは、何処とも知れぬ謎空間で出会った、女性とも男性とも思えぬ神という存在に、そう頼み込んだ。

 フータには後が無かった。

 それはもう、文字通り、生か死か。

 その時の彼が取った行動は、命乞いとも思える懇願だった。


 画してその願いは聞き届けられ、僅かな路銀と共にフータは異世界へ足を踏み入れた。



 気が付いたら、その場所にいた。

 ぐるりと見渡して一言で感想を述べれば、広場。

 広場の中央に噴水があり、その縁に腰かけた状態で、フータは異世界においての生活をスタートさせた。


 若い体も、健康な体も、優れた容姿も頼んでいない。

 日本に居たときと同じ、冴えないおっさんが、噴水の波喪に揺れる水面に僅かながら映し出される。

 フータは見慣れぬ周囲の状況に戸惑うことも無く、即座に最寄りの宿屋へと駆け込む。そして一番安い個室の部屋を頼み、足早に部屋へ向かうと扉を閉め、鍵を掛けた。

 客室にはベッド、机、椅子が一つずつあるだけの簡素な物。窓を開けねば、薄暗いだけの室内。

 しかし、フータにとって部屋の豪華さなど、まったく気にもならない事であった。


「ふっふっふ……勝った。勝った勝った勝った! もうこれからは苦労なんてしないぞ!」


 思わず口から漏れ出た心の声。

 フータは室内で謎の喜びダンスを舞いながら、机の上を指さし、宣言する。


「いでよ! SR以上確定ガチャ!」


 その言葉と共に、机の上に魔方陣が出現し、現れたのはティッシュ箱程のサイズをしたガチャガチャだ。駄菓子屋の外に置いてある、百円入れてレバーをグイっと回すと、カプセルが落ちてくるアレだ。あれのミニチュア版が机の上に現れた。


 一日一度しか回せないガチャであるが、その内容はSRスーパーレア以上が必ず出てくるとされるチート魔法具(と本人は思っている)。

 定番スキルの鑑定や身体強化、イケメン化、ハーレム化などには眼もくれず、ガチャ一本に特典を絞ったのも、一重にフータのガチャ狂いによるものだ。

 前世ではガチャにハマるや、貯蓄していた数百万円を溶かし尽くし、消費者金融に頼り、債務超過に陥って半ばホームレスと化しながら、それでもガチャだけは止められなかったガチャ廃人である。


 フータにとって、どんな絶世の美女であって、ガチャの前には霞む。

 美女とセックスするか、SR以上確定のガチャを回すかと問われれば、躊躇なくガチャを回す。

 どれほど腹が減っていようと、SR以上確定イベント中ならば、食費をガチャに回す。

 目を血走らせ、悪魔に魂を売っても良いと願いながら、SR以上が来ることを願ってガチャを回す。


 そんな悪夢ともこれでおさらばだ。なにせ、俺には毎日SR以上が手に入るガチャがあるのだから。


 フータは晴れやかなる気持ちで、ミニチュアガチャのレバーを握った。


「ああ。なんて心地よいんだ。SRが確定で出てくるガチャだなんて。ガチャと僕は運命の出会いと言っても良い。さあ、来てくれ。僕のスーパーレア!」


 ゆっくりと瞼を綴じるフータ、31歳童貞無職。

 その表情は、まるで憑き物が堕ち、神に身を捧げる聖人のようであった。


 フータはゆっくりと、ガチャのレバーに力を籠め、グルン、と一回転させる。すると、箱の天辺から、チンッという音と共に、カードが一枚飛び出してきた。

 クレジットカード程の大きさのカード。

 表面に赤褐色の剣の絵。裏面にはその説明が書かれていた。


『SSR 魔剣』


 レアカードの出現を知らせる、射幸心を煽る演出があるのかと思ったら、呆気ない程簡単に飛び出してきたカード。

 そこに記載された格付けランクはSRよりもさらに上のSSRスーパースペシャルレア


「――――っぁぁぁぁぁぁ!!」


 フータは宿屋の客室内で、奇声を発し、トチ狂ったように全身で喜びを体現する。


 これだ! この瞬間が、俺に生きていると感じさせてくれる!

 

 脳汁がドバドバと放出され、多幸感が全身を支配する。

 SSRが来てくれたというだけでも、絶頂しそうな程気持ちが良いのに、さらにここは異世界。このSSRの中身が自ら使えるようになるのだから、絶頂どころではない。

 むしろセックスしていると言っても過言ではない!

 

 俺は、ガチャと、セックスしてるんだ!!


 完全にあぶないオジサンになりながらも、どこか頭のなかで冷静にカードの性能を見ようとするフータ。

 このSSRに一体どれほどの性能が秘めているのか。

 彼は期待に胸を膨らませ、カードの裏面に記載された説明文を読んだ。


『平日九時から夕方六時まで使用可能な派遣型魔剣。完全週休二日制。魔剣使用後は対価に見合う代償が必要。この武器は手放すことが出来ず、また他武器との併用は出来ない。魔剣を紛失、盗難にあった場合、所有者に対し、厳しい罰が下る』


「……はぁ?」


 先ほどまで危ういテンションであったフータは、呆けた声を上げ、一瞬で正気に戻るのだった。




『SSR 魔剣』

『平日九時から夕方六時まで使用可能な派遣型魔剣。完全週休二日制。魔剣使用後は対価に見合う代償が必要。この武器は手放すことが出来ず、また他武器との併用は出来ない。魔剣を紛失、盗難にあった場合、所有者に対し、厳しい罰が下る』

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