第34話 盗賊団討伐作戦 ~ミユ①~

 私はフローラという女の子を後ろに乗せ、騎士50名を連れて、馬で駆けていた。

 ソル王国から北に半日程行った場所にある、小さな村へ向かうためだ。


 そこは名前も付いていないほどの小さな村なのだが、フローラの家が管理している村らしく、そこも盗賊被害にあっているようで、フローラの願いで、一度寄る事になった。


 馬で駆けていると、不意に、後ろからフローラが話しかけてきた。


「勇者様、私のワガママを聞いてくださり、ありがとうございます。」


「何?急に。別に構わないわよ。盗賊が関わっている可能性があるんだから。今回の目的にも合致しているわ。」


「いえ。勇者様が後押しして下さらなければ、あの村は後回しにされていたと思いますから。」


 フローラは、そう言うと私の腰に回す腕の力を少し強めた。恐らく、自分の無力さを噛み締めているのでしょう。


 ―力が無いというのは、とても辛いものよね。


「…その村で情報が手に入れば儲けものだわ。急ぎましょう。それと、フローラちゃん、私の名前はミユよ。勇者と呼ばれるのは、あまり好きではないの。」


 私はなんて声をかければ良いかわからなかったため、話題を変える事にした。

 すると、フローラは顔を上げて、聞き返してきた。


「え?お名前でお呼びしてもよろしいのですか?」


「ええ。できればそう呼んで欲しいわ。」


「わかりました。ではミユ様と呼ばせて頂きますね。私の事もフローラとお呼び下さい。」


 ―…様もいらないのだけれど。まぁ、いいか。


 私が黙って頷いた。すると、フローラは恥ずかしそうに変な事を聞いてきた。


「あの…ところでミユ様はショウ様とどういったご関係なのですか?」


「はぁ?!なんであいつが出てくるのよ!!」


 私は突然、変な事を聞かれたため、大きな声を上げてしまった。


「いえ、とても仲が良さそうに見えたもので…。もしかして…恋人…とか。」


 ーーぶふっ!!


 私は『恋人』と言うワードに思わず吹いてしまった。


「あんな得たいの知れない奴とそんな関係な訳ないでしょ!あり得ないわ!」


「そうなのですか?ショウ様はとても優しくて、頼りになる御方なので、ミユ様もてっきり…。」


 ―あれが優しい?はっ?何言っているの?バカなの?


 私は頭の上に出た『?』はてなマークを振り払い、冷静に答えて上げた。


「…まぁ、最近は悪い奴では無いと思っているけど、あんな失礼で、男か女かわからないような見た目の奴は私の好みじゃないわ。」


「そうですか…良かった…。」


 私の言葉を聞いたフローラは、安心したような声色で、そう呟いた。


 ―あの変態め。こんな小さな子まで手を出そうとしてるわけ?やっぱりあいつに任せなくて正解だったわ。


「悪い事は言わないから、あんな奴、やめときなさい。」


 私はフローラがショウの事をどう思っているか理解した上で、忠告しておいた。


「え?何故そこまでショウ様の事を悪く言うのですか?…もしかして、ショウ様を想う私の事が邪魔なのですか?では、やはりミユ様とショウ様は…。」


「なんでそうなるのよ。そんな訳ないでしょ。二度とそんな事言わないで。」


「え、ええ。わかりました。申し訳ありません。」


 ―ったく。なんで私があんな奴と。腹立たしいわ。


 フローラの意味不明な質問に付き合っていると、目的の村が見えてきた。


 私達は村に到着し、中を進むと、誰もいない事に気が付いた。


「何か様子が変ね。何かあったのかしら。」


「とりあえず村の長様に聞いてみましょう。」


 私達はフローラの案内で村長のお宅へ向かった。

 すると、村長の家には村の大人達が集まって、何か話し合いをしているようだった。


 村長は私達に気付き、声をかけてくる。


「これはフローラ様!それに、そちらの方の、その髪色は…もしや、勇者様ですか?!」


「自己紹介は必要無いようね。私達は盗賊を討伐するために来たのだけれど、何かあったの?」


 私が何かあったのか訪ねると、村長は何があったのか説明してくれた。


 昨日、突然、盗賊が村へやってきて、定期的に食料と若い女性を渡せと言ってきたそうだ。そうすれば、命は助けると。その答えを今日の夜までに出せと言われているようだ。

 その時に、人質も何人か取られてしまっているらしい。


 ―…完全な脅迫ね。確かに、この村の規模では全滅もあり得るわ。…外道共め。


「…その盗賊達は何人くらいいるの?」


「私が知る限りでは二百人以上はいるかと…。」


「二百だと?!」


 私が村長に盗賊の人数を聞くと、思った以上の数が聞こえた。その数に、一緒に来た分隊長さんも驚いているようだった。


 ―多すぎるわ。私はなんとかなるにしても、フローラや他の人達は…。今から増援を頼んでも間に合わないし、全員を避難させるには馬が足りない。どうすれば…。


 私がどうすべきか考えていると、村人の一人が口を開いた。


「勇者様、我々も戦います。」


「何言ってるの?あなた達ではムリよ。」


「私の娘は人質に取られているんです!逃げたら家族が殺されてしまいます。勇者様や騎士団の方々が戦ってくださるならば、私も一緒に戦います!」


 ―無茶だわ、この人達のLvはせいぜい15。それに戦闘職でもない。戦力にはならないわ。


 私は村人達には悪いけれど、断ろうと思った。正直、この人数では上手くいったとしても、何人かは確実に殺されると思ったから。


「勇者様、どうなさいますか?」


「ミユ様…。」


 しかし、その場にいる全員が私を見つめる。普通に考えれば迎え討つなどありえない。でも村の人達の決意を無下に断る事ができなかった。


 ―私が頑張ればなんとかなる。さらわれた人達や、この村の人達は必ず助ける。この人達は覚悟を決めたんだ。なら私もそれに応えなくちゃ。私は『勇者』なのだから。


「わかったわ。戦う意志がある者はついてきて!」


 この時の私は、自分の力を過信していたように思う。


 私達は、盗賊達がいつもやってくる方角を重点的に固め、騎士団の予備の武器を村人達に配った。

 戦えない者達は、できるだけ村から離れた場所へ避難させた。


 ―今からじゃ、武器の扱いを教えている時間はない。村の人達の意思の強さに賭けるしかないわ。


 準備が整い、その時が訪れるのを待っていると、奴等はやってきた。

 けど、その数は聞いてた以上に多く、見ただけでも三百はいる。


「そんな…。」


 どこからかそんな声が聞こえる。


 ―まずい。これじゃあ、戦う前から心が折れてしまう。


 すると一人の盗賊が前に出て来て、口を開いた。

 その盗賊は見るからに、他の盗賊とは雰囲気が違っていた。


「ん?どうなってんだこりゃ。騎士がいるのはどうゆう事なんだ?」


 ―こいつがこの集団の頭?なら、こいつを先に倒せば…!


 私はそう思い、その男のステータスを覗き見た。


 バンディ (ヒューム) Lv 78 ジョブ 野伏レンジャー

 HP 7200/7200 MP 5600/5600

 攻撃力 710 防御力 630 魔力 580

 器用さ 800 素早さ 760 成長度 8.6

 耐性 毒Ⅲ 麻痺Ⅴ 暗闇Ⅵ 混乱Ⅲ

 スキル 気配遮断Ⅴ 気配察知Ⅳ 暗視Ⅵ 罠解除Ⅴ

 命中補正Ⅴ 短剣術Ⅴ 弓術Ⅳ 風術Ⅲ

 EXスキル ーーー

 加護 ーーー


 ―大丈夫、大した事ないわ。これならやれる!


 そう思い、剣を構えると、バンディという男が私を見て口を開いた。


「黒い髪に銀に輝く瞳…そうか。おまえは勇者か。これはラッキーだな。」


 ―ラッキー?私がいる事が?アンラッキーの間違いでしょ。


「何が言いたいんだ、おまえ。」


 バンディは『勇者』である私に怯む様子もなく、ニヤニヤと笑いながら口を開く。


「いや、こちらの話だ。それよりもムダな抵抗はするな。見ての通り、おまえらに勝ち目はないぞ?」


 バンディがそう言うと、数人の盗賊が私を囲む。その盗賊達の手には、光る何かが握られていた。


「だったらなんだ!村の人達に手を出すな!」


 私は構わず、バンディに斬りかかろうとした。すると、バンディは避けるそぶりも見せず、笑みを浮かべながら、右手をスッと上げた。その瞬間、私の左足にわずかな痛みが走った。

 見てみると、左の太ももに一本の針が刺さっていた。


 次の瞬間、身体がうまく動かなくなり、私は転倒してしまった。


 ―これは…麻痺?なんで?私の麻痺耐性はLvⅧよ?まさか、それ以上の麻痺毒?!


「ククッ。どうした?勇者よ。俺を斬りたいんじゃないのか?」


 ―どうして動かないの? お願い、動いて!


 私は必死に身体に力を入れる。しかし、身体がいうことを聞かない。


「勇者といえど、所詮は人だな。安心しろ。おまえは殺さない。だが、俺等に逆らったこの村人達はダメだ。村人達がなぶられる様を、そこでゆっくり見ているといい。」


 盗賊達は一斉に襲い掛かり、そこにいた騎士や村人達は次々と殺されてしまった。私はただ、その光景を眺めている事しか出来なかった。

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