第33話 盗賊団討伐作戦 ~リトラ③~

「確か、ガルグイユはこの森の奥にある、沼地が棲家だったな。」


 我はガルグイユを探すべく、一人で森を駆けていた。


 我が何故、一人で歩いているかと言うと、人間達には何も説明していないからだ。

 ガルグイユは伝説竜に近い、上級竜であるため、並の人間では歯が立たない。

 エルフの王の話によれば、何故だか凶暴化しているようで、Lvの低い人間を連れて行くのは、ちと荷が重い。言ってしまえば、足手まといなのだ。


 駆けてきたおかげか、思ったより早く目的の沼地に到着した。

 すると、黒いローブを羽織り、杖を持った者が五人、沼地の側にいるのが見えてきた。


 ―何かおるな。人間か?


 我は隠れる事なく、その者達に近づき、声を掛けた。


「おい、おぬしら。ここは上級竜の棲家ゆえ、危険だぞ。何をしておる。」


 我がその者達に声を掛けると、驚いたのか、一斉にこちらを向き、持っていた杖を構えだした。


「…おまえは騎士共と一緒にいた女だな。」


「ん?何故その事を知っておる。貴様らは何者だ。」


「教えてやる事など何もない!出てこい、ガルグイユ!」


 ローブを羽織った者の一人がそう叫び、杖を天にかざすと、沼地の水面が膨れ上がり、水しぶきと共にガルグイユが頭を出した。

 ガルグイユはそのままゆっくりと、沼を這い上がり、我の元まで近づいてきた。

 我は『竜眼』を使い、ステータスを覗いてみる。


 ガルグイユ (竜族) Lv196 ジョブーーー (上級竜)グレーター・ドラゴン

 HP 19800/19800 MP 19600/19600

 攻撃力 1890 防御力 2880 魔力 2060

 器用さ 1820 素早さ 1010 成長度 7.9

 耐性 毒Ⅳ 麻痺Ⅴ 睡眠Ⅵ 魅了Ⅲ 暗闇Ⅹ

 火Ⅹ 水Ⅹ 風Ⅷ 雷Ⅴ 土Ⅸ 冥Ⅲ 聖Ⅲ

 スキル 威圧Ⅶ 水術Ⅹ 風術Ⅹ 土術Ⅷ 体術Ⅷ

 鉄壁Ⅶ

 EXスキル 竜眼Ⅶ  

 加護 ーーー


 ―確かに本物のガルグイユのようだ。


 ガルグイユは顔がドラゴンで、胴体は亀のようになっている。

 翼がないので、空を飛ぶ事ができないが、かわりに水中では他のドラゴンよりも、素早く移動する事ができる。

 そして、背中にある甲羅は、絶大な強度をほこり、攻撃力よりも、防御力に特化した、珍しいドラゴンなのだ。


「久しいな、ガルグイユよ。おぬし、エルフを襲ったそうだが、一体どうしたのだ?」


 我はガルグイユに声を掛けるが、何も反応しない。だが、しっかりと敵意は向けてくる。


 ―やはり様子がおかしい。どうしてしまったのだ。


「ガルグイユよ!その者は敵だ!やってしまえ!」


 我がガルグイユの様子に疑問を感じていると、ガルグイユの背後から、ローブを羽織った者がそう叫んだ。

 すると、ガルグイユは顎を膨らまし、勢い良く口を開いた。ガルグイユの口から大量の水が勢い良く放出される。

 ドラゴン特有のブレスだ。

 ガルグイユは炎ではなく、水のブレスを吐く。故に、ガルグイユは炎を得意とするドラゴンに対しては無類の強さをほこる。

 好戦的な性格でないにも関わらず、伝説竜に近い強さを持っているのは、その特質であるがゆえだ。


「くそ、ガルグイユよ!目を覚ませ!我がわからぬか!」


 我は空中に飛び上がり、ガルグイユのブレスを避けた。そのブレスは、水圧で辺りの木々を粉々に吹き飛ばした。


 ―まともに食らえば、我とて無傷では済まんな。


「やってしまえ!ガルグイユ!」


 ―ん?あの人間が手に持っている物は!ーーっ?!しまった!


 我は一瞬、人間共に気をとられてしまい、ガルグイユのブレスを受けてしまった。


「フフフ。あの女はオーク共を一人で始末してしまう程の強さだからな。ガルグイユをぶつけようと思っていたが…まさか向こうからやって来るとはな。手間がはぶけたわ!」


 その様子を見た、ローブを羽織った者が嘲笑っている。


「…おのれ…我に牙をむけるとは…。ガルグイユよ、我の強さを忘れてしまったのなら、再び思い出させてやろう。そして、人間共よ。竜を侮るとどうなるか、思い知らせてやる。」


 我はブレスをまともに受けてしまったが、それよりも、人間共と、ガルグイユに腹が立ったため、あまり痛みを感じなかった。

 その時、怒りで擬人化が少し解けてしまい、角と翼と尾が出てしまった。


「ひぃっ?!な、何故生きている?!」


 その様子に人間共は驚いているようだ。

 我はそれに構う事無く、厄介なガルグイユを標的に絞った。


「…まずは貴様からだ、ガルグイユ。歯を食いしばれ!『竜の一撃』ドラゴ・スマッシュ!」


 我はガルグイユの顎下に移動し、アッパーを放つ。

 そしてそのまま飛び上がり、今度は、ガルグイユの頭上に移動した。


「まだ終わらぬぞ!『天罰』ネメシス!」


 我はガルグイユの頭を目掛け、雷を落とした。まばゆい光が空から放たれ、轟音と共に強烈な衝撃がガルグイユを襲った。


「あれは雷術LvⅧの『天罰』ネメシス…?それにあの姿は…まさか、人間ではないのか?!」


 ローブを羽織った者はその光景を見上げ、小さく呟いていた。


 我はそれに構わず、右手に雷を纏わせ、拳を構えた。そのせいか、拳が熱を持ち、赤く変化している。


「この一撃で終いだ!『全てを粉砕する一撃』トール・ハンマー!!」


 我はそのまま、ガルグイユを目掛けて降下し、その勢いのまま、甲羅を殴り付けた。

 その衝撃でガルグイユの甲羅は砕け、地面に大きなクレーターを作った。

 そして、そのままガルグイユは血を吐きながら倒れていった。


「な…な…ガルグイユが…。」


「…さて、次は貴様らだな。どうしてくれようか。」


「ひぃっ!お、お願いします、どうか命だけは…!」


 人間共は、もはや戦意もなく、泣きながら命乞いをしている。

 その様子に、ただ呆れるしかなかった。今さら助ける気など無いと言うのに。


 ―しかし、殺す前に聞いておかねばならんな。


「ならば、我の問いに答えよ。貴様らは何者だ。」


「俺達は命令されただけで…!」


「その黒幕とは誰だ。どこにいる。」


「『百鬼』の幹部のアルカダと言う男です!こ、ここから南へ行った所にある洞窟です!」


 ―南の洞窟か。


「貴様の持つ、その魔道具もその男が?」


「そ、そうです。これがあれば魔物を使役することができるからと…。」


 ―何故そんな物がここに…いや、こやつらに聞いてもわからんだろうな。


「ふむ。では貴様らがさらったエルフはそこにいるのか?」


「え?!いや、その…。」


 ―やはり、さらわれたエルフはもう…。


 我は人間共の反応に、再び怒りがふつふつと沸き上がった。


「…わかった。もう良い。」


 我は両の手に雷を纏わせる。


「そんな、正直に話しました!た、助けて。」


「助けるなどと、誰が言った。我ら竜族を愚弄した時点で、貴様らに命などない。」


「竜…族?」


「我が名はリトラ。この名はある御方につけて頂いた名で、今はそう名乗っている。だが、少し前まではヴリトラと名乗っておった。…もうわかるな?貴様らが誰に喧嘩を売ったのか。」


「…ヴリトラ…伝説竜の…?」


 人間達はその名を聞き、諦めたように項垂れた。


「さぁ、弱き者よ。おのが運命に嘆き、そして、死んで行け。『竜の怒り』ドゥク・イーラ!」


 我は人間共に向かって、数本の電撃を放った。


「うぁぁぁ!」


 その場に再び轟音が鳴り響き、人間共は放たれた電撃によって瞬時に焼き焦げた。それと同時に摩道具も破壊された。


 ―…ふむ。ガルグイユに放った最後の一撃…我ながら良い一撃だったな。まぁ、主殿に頂いたグローブのお陰で出来た技だがな。感謝しますぞ、主殿。


「ガルグイユ、起きろ。」


 その後、我はガルグイユに向き直り、主殿に頂いていたポーションをガルグイユに振りかけた。


「…これは一体…え?ヴリトラ様!?」


 すると、傷がある程度塞がり、ガルグイユは目を覚ました。


「うむ、元に戻ったようだな。」


「一体何が…ここの所の記憶がございません。まさか、私はヴリトラ様に何かご迷惑を?!」


 ガルグイユは何も覚えていないようだったため、今までの経緯を説明してやった。

 すると、ガルグイユはみるみると項垂れていき、説明が終わった頃には、完全に頭を地面に擦り付けている状態になっていた。


「そのような事を私は…誠に申し訳ありません。助けて頂き、ありがとうございます。」


「良い。おぬしは操られていただけだからな。それより、我もすまなかった。おぬしの甲羅を叩き割ってしまった。」


「構いません。日が経てば治りますので。しかし、さすがはヴリトラ様ですね。これでは自慢の甲羅も形無しです。」


「まぁ、それは我だけの力ではないがな。」


「それは一体、どういう意味でしょうか?」


「ん?まぁ、それはまた今度話そう。それより、もうエルフの民を襲ったりするでないぞ?」


「えぇ。わかっております。」


「うむ、ゆっくり話も出来ず、すまないが、我は先を急ぐ。また会おう。」


「いえ、こうして会えただけでも良かったです。また会える日を楽しみにしております。」


 ―これで、エルフの王からの依頼は完遂したな。残るは小悪党か。竜を舐めるとどうなるか思い知らせてやらねば。


 我はガルグイユが元に戻った事で、少し気分が落ち着いた。

 だが、黒幕のアルカダという人間はどうしても許す事ができなかった。


 我はすぐさま、南へ向かい、アルカダがいる洞窟へ向かった。


 洞窟に着き、入り口に二人の人間が立っているのが見えた。


 ―恐らくここだな。ならばさっさと終わらせるとするか。


 我は人間共に近付くと、それに気付いた人間が口を開いた。


「おい、女!ここで何してやがっ?!」


 しかし、言葉を言い切る前に顔を蹴飛ばして、首の骨を折ってやった。


「やかましいわ。アルカダなる者はどこだ!出てこい!」


「てめぇ!いきなり現れて何言ってやがっ?!」


「やかましいと言っておるだろうが!」


 我はその二人の人間を蹴り殺した後も、中にいる人間は問答無用で始末していった。


 一番奥の部屋に辿り着き、中に入ると奴はいた。


「…おまえ、たった一人でどうやってここまで来た。」


「貴様がアルカダか。ふん。どうやってここまで来たかだと?無論、全員殴り飛ばして来たまでよ。」


 アルカダ (ヒューム) Lv 60 ジョブ 魔導師ウィザード

 HP 5800/5800 MP 6800/6800

 攻撃力 340 防御力 480 魔力 620

 器用さ 610 素早さ 320 成長度 6.8

 耐性 毒Ⅱ 麻痺Ⅱ 暗闇Ⅴ 混乱Ⅳ 沈黙Ⅴ

 スキル 火術Ⅳ 水術Ⅳ 風術Ⅳ 雷術Ⅳ 土術Ⅳ

 EXスキル ーーー

 加護 ーーー


「…ふざけるなよ、女。」


「それはこちらのセリフだ、山猿め。」


 アルカダは我の言葉に怒りを表し、臨戦態勢をとる。


「抜かせ!『風の砲弾』エア・キャノン


「ふん。『風の砲弾』エア・キャノン。」


 アルカダは風の大玉を作り出し、我に放った。

 すかさず我も同じ魔法で迎えうつ。

 だが、我の作り出した大玉は、アルカダの作り出した大玉の3倍の大きさで、アルカダの作り出した大玉をかき消して、アルカダを吹き飛ばした。


 アルカダは吹き飛んだ衝撃で、壁に激突し、たまたま出ていた尖った岩に身体を貫かれた。


「ば…かな…。」


「…やはり、所詮は山猿だな。他愛もない。貴様にはお似合いな死に様だ。」


 アルカダを仕留めた後、部屋を調べると、床に魔法陣が描かれており、隅には無数の人の白骨が放置されていた。その白骨をよく見ると、大きさがバラバラで、子供の物もある事に気付いた。

 それは恐らく、無垢な者の魂を生け贄に捧げ、悪魔を呼ぶ儀式で、白骨はその生け贄の亡骸だ。


 ―くだらん事を。やはり、低俗な者の考えはよくわからんな。


 我はアルカダの首を切り落とし、その場を後にした。


 その後、我はエルフの国に戻り、エルフの王に報告をした。


「これは…?」


「エルフの王よ。約束の首だ。この辺りの盗賊は皆片付けてきた。それとガルグイユも大人しくさせてきた。もう心配ないだろう。」


「本当ですか?あぁ…ありがとうございます。なんてお礼を言えば…。」


「良い。報酬さえもらえれば、それで充分だ。」


「いえ、改めて、エルフの民の代表として、お礼を申し上げます。本当にありがとうございました。」


 ―固い性格よな。まぁ悪い気はせんが。


 エルフの王への報告が終わり、ソル王国の人間達にも報告するため、泊まっている場所へ向かうと、人間達はいなかった。住民に話を聞くと、入れ違いで討伐に向かったそうだ。


 ―まぁすぐ戻ってくるだろう。今のうちに肉を独り占めしておくか。


 我はエルフの王から報酬でもらった肉を一人で食べ、人間達を待った。


「次の目的地も美味い肉があると良いがな。」


 我は肉で腹が満たされたため、人間達を待ちきれず、そのまま寝てしまった。


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