第31話 盗賊団討伐作戦 ~リトラ①~


 我は今、荷馬車に揺られながら、ソル王国とやらの東に進んでいる。

 その先には『アダの大森林』があり、そこにはエルフが住まうと聞いた事がある。


 エルフの国はソル王国とは友好関係にあるらしく、エルフが育てた果物や薬草は良質で、ソル王国でも人気があるらしい。我は肉が好物なので、あまり興味はないが。


 我と人間達は、そのまま半日程進み、森の入口に到着した。

 日が沈みかけているので、森には入らず、その場で休息をとるようだ。

 人間とは寿命が短い割りに、随分と、ゆっくり生きるものだ。


 我は暇なので、馳走ができるまで、荷馬車の中で寝る事にした。


 しばらくすると、なにやら人間達が騒いでおる。我は起き上がって、辺りを確認すると、人間より一回り大きく、豚の頭をした人型の魔物がうじゃうじゃと森から出てきておった。


「…オークか。これはイカンな。馳走が遅れてしまう。」


 我は荷馬車から出て、背伸びをした。


 ―長いこと馬車にゆられておったからか、身体が凝っておるな。


 我は首に右手をあてて、首を回す。


「おい、豚共。我の至福の時間を邪魔するでない。殺すぞ。」


 我は『威圧』を使い、オーク共に警告をした。しかし、オーク共はみな怯む事なく、歩を進めてくる。


 ―なんだ?豚共に我の威圧が効かぬだと?


 我は、生意気にも、我の『威圧』を防ぐオークに少し腹が立ったゆえ、そのうちの一体に近付き、腹部に正拳を喰らわせた。

 オークは木を薙ぎ倒しながら十メートル以上吹き飛んでいった。すると、横にいたオークが、手に持った大きななたを振り下ろしてきた。

 我はそれを横に回転して避け、そのまま頭部に回し蹴りを浴びせた。

 蹴られたオークも、先程のオークと同様に吹き飛んでいった。


 ―おかしい。オークはバカではあるが、ここまで鈍くはないはず。普通ならこれで引いて行くものだが…。


 オーク達はやはり気にも止めずに向かってくる。

 我は一度距離を置き、オークを観察してみた。


 オークの目は焦点が合っておらず、ヨダレを垂らしておる。


 ―なんだ?何かに操られておるのか?


 辺りを見ると、既に人間達とオークの群れが交戦を始めている。オークの数はおよそ二十。こちらの数はおよそ五十。人間達だけでも、決して倒せない数ではない。


 ―我がいなくても始末できそうだが…。主殿に人間達を守れと言われておるしな。仕方のない。


 我は両の手にグローブをはめ、劣勢になっている場所を探し、オークを仕留めていく。


「豚共がうじゃうじゃと。気色の悪い。『風の鉤爪』エア・クロウ!」


 我は風の刃を無数に作りだし、人間達に当たらぬよう、オーク共に放った。

 風の刃はオーク達の首を着実に捉え、十五体のオークがその場に倒れた。


 しかし、辺りを見ると、まだ交戦が続いており、一人の人間に鉈を振り下ろそうとするオークの姿が目に入った。


 我はすぐにそのオークの背後に回り、背中に正拳突きを放った。

 すると、オークの胴体は吹き飛ばず、正拳突きをした箇所に拳大の穴が空いた。


 ―ん?先程と変わらぬ力で突いたはずだが…。このグローブのせいか?


 我はその威力に、少々戸惑った。と同時に、快感も覚えてしまった。


 ―ふふ。主殿から頂いたこのグローブという物は素晴らしいな。


 我はオークを殴った感触が気持ち良くて、殴るのに夢中になっていた。


 気付いたらオークの群れは全滅していて、少し物足りなさを感じてしまった。


 ―もう終わりか。つまらん。所詮は豚か。だが人間共はみな無事なようだな。


「あのオークの群れを、たった一人で…。」

「何者なんだ…。」


 オークの群れを撃滅した後、辺りを見渡すと、人間共が、なにやら小話をしながら、我を見つめていた。


「…何をしておる。早う馳走の支度をせぬか。」


 我は身体を動かして、腹が減っていたので、人間達のその様子が、少し不愉快であった。


 だが、我がそう言うと、人間達は馳走の準備を急ぎ足で始めたゆえ、それ以上は何も言わぬようにした。


 その後、我は馳走を頂き、腹の虫も治まった事で、眠気に従おうとしておると、一人の人間が我の元へやってきた。


「リトラ殿、少しよろしいか?」


 その人間はこの集まりを仕切っておる者だった。

 我は眠かったため、視線を返す事で返事とした。…つもりであったが、威嚇と思われたのか、その人間は言葉を言い直した。


「…リトラ様、あの、少しよろしいでしょうか?」


「…なんだ。我は眠い。ゆえに手短に話せ。」


「はい、先程のオークの事なのですが…。」


 ―豚共がなんだというのだ。もう終わった話であろうに。


 人間の話をしょうがなく聞いてみると、オークの様子が変であったという話であった。

 あれほど、圧倒的な力を見せ付けられながら、怯む事なく、向かって来た事に違和感を覚えた、と言う事だ

 。


「リトラ様はどう思われますか?」


 ―ふむ。確かにそれは我も感じたな。我が知る豚共は、まずそんな勇猛ではない。とすれば…。


「何者かに操られていた…か。」


「リトラ様もそう思われますか。」


「我は感知系の能力は持っておらぬゆえ、確かな事は言えぬが、そう考えるのが妥当であろうな。」


「…そうですか…。ありがとうございます。おやすみのところ、申し訳ありませんでした!」


「うむ、苦しゅうない。」


 我が目を閉じ、再び寝る体勢に入ると、人間は静かに去っていった。


 ―この辺りの魔物なら恐れる事はないと思うがな。人間というのは身も心も弱い生き物だ。


 そう思ったが、大して興味もなかったゆえ、我はそのまま眠りにつき、この日を終えた。

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