第30話 盗賊団討伐作戦 ~リオ③~

「新しい標的を見つけた。じきにキースが捕らえてくるはずだ。」


「そうか、町の娘か?」


「いや、騎士団の一人だ。この町にはもう、めぼしい娘がいないからな。」


「騎士団?大丈夫なのか?」


「一人くらい消えても問題あるまい。バレる事はないさ。」


 ここはレオナルドの屋敷の一室。

 レオナルドは黒い格好をした、怪しい男と会話をしている。すると突然、誰かが部屋の扉を叩いた。


 ーーコンコン


「誰だ!?」


 レオナルドは扉の音に反応し、声を上げる。

 もう一人の男は素早く扉の横に身を隠した。


「失礼します。夜分遅くに申し訳ありません。」


 扉が開くと見覚えのある、銀髪の女性がそこに立っていた。


 ーーーーー


 私はキース様を捕らえ、そのままレオナルド様の屋敷に向かいました。

 騒がれても面倒なので、首の骨を折っておきました。手土産としては、死体でも問題無いかと思いましたので。


 屋敷の周りには衛兵が数人見張りをしているので、キース様の死体を一度、物陰に隠し、『隠密』を使って、気付かれぬよう、一人ずつ気絶させて回りました。


 警備をする者全員、気絶させた事を『気配察知』で確認し、再びキース様を拾って、屋敷に侵入しました。屋敷内は警備が薄かったので、すんなりとレオナルド様の気配を追う事ができました。


 レオナルド様の気配がする部屋の前に着き、扉を叩いて、中にいるか確認をします。


 ーーーコンコン


「誰だ?!」


 ―いるみたいですね。他にももう一人いるようですが、問題ないでしょう。


 私は扉を押し開き、部屋の中に入ります。


「失礼します。夜分遅くに申し訳ありません。」


「…貴方は…こんな時間にどうされたのですか?それにその者は…。」


 レオナルド様は最初に会った時の優しい雰囲気で、声をかけてきました。


 ―見え透いた作り笑顔ですね。


「おかしいですね。この者に、レオナルド様が私をお呼びだとお聞きして来たのですが。」


 私はキースの死体をレオナルド様の方へ転がしました。次の瞬間、背後からもう一人の男が鉤爪で襲ってきました。

 私は振り向かないまま、その攻撃を横に避け、槍を空間魔法で取り出し、男の胴体を貫きました。


「がふぉ。」


 男は大量の血を流し、そのまま動かなくなりました。


「なっ?!」


 レオナルド様は、その様子に驚き、大きな声を上げます。


「お静かに。ご家族が起きてしまいますよ?」


 私は槍を持っていない方の手の人差し指を口元に立て、そう言いました。


「…貴様、ここから生きて出られると思うなよ。」


 レオナルド様は壁に掛けてあった片手斧を掴み、ゆっくりと近付いて来ます。

 もはや最初に会った、優しい雰囲気は無くなっています。


「そう焦らないで下さいませ。せっかく二人きりになったのです。ゆっくり楽しみましょう。」


 私は笑みをこぼしながらレオナルド様を挑発します。それと同時に、『神龍眼』でレオナルド様のステータスを覗きました。


 レオナルド(ヒューム) Lv 61 ジョブ 戦士ウォーリアー

 HP 7600/7600 MP 3100/3100

 攻撃力 650 防御力 620 魔力 360

 器用さ 460 素早さ 460 成長度 7.6

 耐性 麻痺Ⅵ 暗闇Ⅵ 毒Ⅲ 混乱Ⅳ

 スキル 威圧Ⅳ 暗視Ⅵ 狂戦士化Ⅴ 斧術Ⅵ 体術Ⅴ

 盾術Ⅲ 

 EXスキル ーーー

 加護 ーーー


「…本当に貴方とキース様は対象的ですね。」


「ほざけっ!!」


 レオナルドは私の側まで来て、斧を勢いよく振り下ろします。私は黒い格好の男から槍を抜き、そのまま槍で斧を防ぎます。


「貴様…いつから気付いていた!」


 レオナルド様は、振り下ろした斧に力を込めたまま、私に話しかけてきます。


「そうですね、違和感を感じたのは最初に会った時でしょうか。私は他者のステータスを覗き見る事ができるのですが、衛兵のキース様が『暗殺者』アサシン、貴族であるレオナルド様が『戦士』ウォーリアー。おかしいですよね?」


 私がそう言うと、レオナルド様は少し、驚いた顔をしました。私は構わず話を続けます。


「確信に変わったのは、この屋敷に来てからです。…いらっしゃいますよね?この屋敷の地下に、行方不明になった女性達が。」


「貴様!」


 私がそこまで言うと、レオナルド様は斧を弾き、距離を取って口を開きます。


「…そこまで知られてしまったのなら、益々貴様を生かしてはおけん。捕らえて玩具にするつもりだったが、仕方あるまい。…『狂戦士化』!」


 レオナルド様がそういうと、身体が少し肥大化し、赤いオーラを纒いだします。


 ―『狂戦士化』。どうやら身体強化の一種のようですね。ですが…


 私がそう考えていると、レオナルド様が先程よりも速いスピードで私に近づき、再び斧を勢い良く振り下ろしました。


 ―…やはり脆弱ですね。


 私はレオナルド様の腕を片手で掴み、攻撃を止めました。


「なに?!」


「どうしました?もっと力を込めたらどうです?」


「く…動かん…何故だ…!」


 私はレオナルド様の様子を見て、落胆しました。もう少し楽しめるかと思ったからです。

 私はため息混じりに口を開きました。


「…やはり貴方では楽しめないようですね。気が変わりました。手早く終わらせましょう。」


 私は掴んだ腕を握り潰し、槍を空間魔法で収納して、空いた手でレオナルド様の腹部に正拳突きを放ちました。


「うごぁ…!」


 レオナルド様が膝を付き、前屈みになったので、頭を掴み、床に顔を叩きつけました。


 レオナルド様はそのまま動かなくなりました。


「…危なかったです。殺してしまうところでした。力加減が難しいですね。」


 私はレオナルド様が死んでいない事を、ステータスを見て確認し、部屋を後にしました。


 私は屋敷を捜索し、地下への階段を見つけ、そのまま地下へ向かいました。


 屋敷の地下は牢屋のような物がいくつもあり、その一つ一つに、傷だらけになった女性が、鎖で繋がれていました。


 私は一つの牢屋の格子を槍で斬って、中に入り、女性の様子を確認しました。

 女性は生きてはいるのですが、虚ろな目をしていて、何も反応しませんでした。

 余程ひどい目に遭わされたのでしょう。


「悪趣味な事を…。仕方ありませんね。一人では時間が掛かりそうです。とりあえず騎士団の方達をお呼びしましょう。」


 私は一度、屋敷を出て、騎士団の方達を急いで呼びに行きました。そして、皆様に事情を説明し、再度、屋敷へ救出に向かいました。

 騎士団の方々は、大変驚かれた様子でしたが、すぐに準備をして来てくれました。


 おかげで無事、女性達は救出され、レオナルド様と衛兵は捕縛されました。

 私は女性の身体的な傷を癒して回りました。しかし、精神的な傷は負ったままです。さすがに私も、そればかりは治せませんから。人間の業とは深いものです。


 捕縛されたレオナルド様と他の生きている者達は、尋問をかけ、情報を吐かせた後、ソル王国へ送還する事になりました。レオナルド様のご家族も一緒に送られるようです。

 しかし、捕縛した人数が多かったため、荷馬車を三両も減らす事になってしまいました。もう少し減らしておけば良かったです。


「まさか、町の領主や衛兵にまで手が及んでいるとは…。」


「そうですね。それでは被害者も見つかる筈ありません。」


 事が済み、町を出て、街道を進んでいると、分隊長様と騎士様がそんな会話をしていました。


「しかし、リオ殿はあれをたった一人で暴いて、捕縛してしまったのですから。すごいですよね。」


「うむ。凄まじいな。一体何者なのか…。」


 そんな事も聞こえてきましたが、私には興味がありませんでした。それよりも、町で買った肉串がとても美味しいのです。


 私達はそのまま、次の目的地である『ミネラ鉱山』へ向かいました。










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