第25話 盗賊団討伐作戦 ~ショウ①~

「ふぁ~。ねむ。」


 俺達は街の正門前に来ている。

 まだ夜が開けたばかりだというのに、集まった騎士達は皆生き生きとしている。俺は皆の士気についていけず、重たい目をこすっていた。


 というのも、結局リトラのアクセサリーも作らされたからだ。

 リオのネックレスを見たリトラは、子どものようにずっと駄々をこねていた。それに折れて、仕方なくリトラには両腕につけるバングルを作った。デザインはシンプルで、魔力を込めると攻撃力が少し上がる仕様だ。


 リトラは新しい装備とバングルに朝からテンションが高く、シャドーボクシングをしている。


 ―黙っていれば美人なのに。もったいないよなぁ。


「ショウ様、おはようございます。」


 俺がリトラを見てため息をつくと、後ろから声を掛けられた。

 振り替えると軽鎧を着込んだフローラとロンドさん、それに冒険者風の男達、20名程がいた。


「フローラ!?何してんだよ。」


「私も今回の作戦に参加しますの。」


 ―は?何言ってんだ?


「被害が出ている村の中には、シュヴァルツ家の領地の村もございますから。」


 ―そういえば、初めてフローラ達に会った時に村の子どもや若い女性が行方不明になってるとか言ってたな。にしても…。


「ロンドさん、大丈夫なのか?」


 俺はロンドさんをちらっと見て、確認した。


「えぇ。旦那様には報告しておりませんが…。」


 ―おいおい。それはダメだろ。


 俺が言おうとした事を悟ったかのように、先にフローラが口を開いた。


「大丈夫です。これでも幼少の頃から剣術は嗜んでおりますので。」


 フローラはそう言うが、ロンドさんはため息を吐きながら首を横に振る。


「あのなぁ、お散歩に行く訳じゃないんだから。今回は俺達に任せて家に戻れよ。」


「わかっています。ですが、どうかお願いします、足を引っ張ったりはいたしません。それに護衛もいますし、ロンドもいますから。」


 フローラは真剣な声色で、頭を下げた。


 ―えぇ…さすがに無理があるだろ。


 俺が困った顔をしていると、ロンドさんも申し訳無さそうに頭を下げた。


「…ショウ様、申し訳ございません。」


 俺は二人の様子を見て、何故こうなったのか少しピンときた。


 ―あ~、放っておいたら勝手に出ていっちまうから、それなら付いて行こうって事か。なんとまぁ、お転婆娘だこと。ロンドさんも大変だなぁ。


「…なら俺のいる隊に来いよ。それなら守ってやれるから。」


 何を言っても無駄だろうと思い、俺は了承した。

 いざとなれば、空間移動で安全な場所に飛ばせばいいか、と簡単に考えてしまった。


「あら。可愛い戦士さんがいるわね。どう?私と一緒に行かない?」


 そう考えていると、俺の後ろからミユが現れた。


「急に現れてなんなんだよ。この子は俺の知り合いなんだ。俺が連れて行くからあっち行ってろ。シッシッ。」


「何よ。あんたみたいな男にこんな可愛い子、任せられる訳ないでしょ。私のいる部隊は女の人が多いから、そっちの方がいいに決まってるわ。」


 ―こいつは一体、俺をなんだと思ってんだ。俺に幼女趣味はねぇよ!…あれ?でも、こいつが側にいるんなら問題ないか…?そうすれば俺の負担は減るし…。終わった後も、アランさんにとやかく言われなくて済むか…?


 今回の作戦は俺、リオ、リトラ、ミユはそれぞれが別に動く事になっている。戦力の分散のためだ。

 相手は2000人程との情報が入っているが、全員が集まっている訳ではないはず。

 百の盗賊団が集まっているのなら、一つの集まりに20名、多くても100名程と予想した。そこでおよそ50名ずつの10隊に編成して、各個捜索、撃破する事となった。


 俺が少しばかり自己中心的な考えをしていると、フローラが大きな声を出した。


「え?勇者様にお供できるのですか?!」


 フローラは芸能人を見るファンみたいな顔になっていて、目をキラキラさせている。


「フフン。決まりね。」


 ―なんでそんなドヤ顔なんだよ。俺としても助かるからいいんだけど、なんか腹立つな。


「…なら頼んだよ。フローラ、気を付けてな。」


 こうして、フローラはミユに付いて行く事になった。ロンドさんも責任を感じてか、フローラと一緒に行く事になり、護衛の人達は俺のいる部隊に編成された。


「リオ、リトラ。まぁ大丈夫だろうが、無茶はするなよ。それと、同じ部隊の人達は出来る限り守ってやってくれ。」


「かしこまりました。ショウ様もお気をつけて。」


「主殿、お任せあれ。」


「うん、じゃあ行くか。」


 こうして俺達は街の外へと出発した。


 ーーーー


 俺のいる部隊は盗賊の目撃情報が多い『ミトラ遺跡』へと向かっている。ここは街の北西に馬で1日程走った場所にあるため、中間地点でキャンプをし、翌日の日の出とともに出発する予定だ。


 予定通り中間地点へついて、夕飯を食べていると、不意に声を掛けられた。


「ショウさん、で合ってるよな?ちょっといいか?」


「ん?あぁ、フローラの護衛の人か。何か用か?」


 振り返ると、フローラの護衛に来ていた男が立っていた。


「今回は迷惑かけちまって申し訳ねぇ。」


 護衛の男はそう言って頭を下げた。


「いや、別に迷惑って程の事でもないから。それを言うなら勇者様に言ってやってくれ。」


「いや、あんたにも少なからず負担をかけちまうだろうからな。」


 ―まぁうまくいけば最終的に頭領のアジトで全員が集合するからな。その時は守ってやらなきゃいけないか。


 そう考えていると、護衛の男は続けて口を開く。


「…あのよ、フローラお嬢様の事、嫌いにならないでやってくれよな。」


「は?別に嫌いになったりしないよ。」


「そうか。なら良いんだが…。あの人は物事を一度決めると、周りが見えなくなっちまうからな。今回の事もそうだ。でも誤解しねぇでくれ。」


「誤解って何をだよ。」


「今回の事はお嬢様の正義感による暴走に見えちまったと思うが、本当は理由があるんだよ。フローラお嬢様が仲良かった村の娘がさらわれちまったみたいでな。お嬢様なりに、友達のために覚悟を決めて来てるんだ。」


 ―あぁ、そういう事か。正直、厄介なお転婆娘だと思ってたよ。


「だから、この件が無事終わっても、あまり責めないでやってくれ。」


 護衛の男は一通り喋ると、再び頭を下げた。


「それは約束できないな。あの子が自分の力に見合わない無茶をするようなら、叱ってやらなきゃイカンだろ。」


「いや、でもよ…。」


「それが友達ってモンだろ?」


「…そうか。へへ。ありがとよ。」


 護衛の男はニカッと笑った。それは歯の抜けた部分が強調されて、強面ながら愛らしい笑顔だった。


 護衛の男はフローラの事を喋り終えると、自分の仲間の元へ戻っていった。


 ―愛されてんなぁ。フローラお嬢様。



 こうして俺の討伐作戦1日目が終了した。


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