第26話 盗賊団討伐作戦 ~ショウ②~

 俺達は、『ミトラ遺跡』の近くにある、村に来た。盗賊の目撃情報などを聞くためだ。

 村というだけあって、大きな建物もなく、自然に囲まれた景色の良い場所だ。


 俺達は早速、村へ足を踏み入れた。すると、妙な違和感を感じた。


「なんか変じゃないか?」


 俺がそう言うと、他の者も異変に気付いたようだ。

 村は静まり返っていて、人の気配が感じられない。嫌な予感が頭をよぎる。

 異変を感じた俺達は、直ぐ様村の調査をする事にした。

 村を少し歩くと、あちこちに血の後や建物に刺さった矢なんかが見つかった。


「…やられたな。」


 村は何者かに襲われていた。村の開けた場所へ行くと、張り付けにされて身体中に矢が刺さった者や、首や四肢を落とされた者の死体があちこちに見つかった。その悲惨さに、嘔吐する者もいた。


「…惨い事を…。」


 騎士の誰かがそう呟いた。確かにその通りだ。だが、俺は不思議と冷静だった。怒りがこみ上げる訳でもなく、気持ちが悪くなる事も無かった。感じたのは村人達への哀れみ。それだけだった。


「…生き残りを探そう。もしかしたらどこかに隠れているかもしれない。」


「ちょ、兄さん!待ってくれ!


 俺は騎士達にそう言って先にその場を離れた。一緒に歩いていた護衛の男も後から付いてきた。


 俺は周りに比べて少し大きめな建物に入った。

 建物の中は荒らされたままの状態で、色々な物が散乱している。

 そのまま中を探索すると、血だらけになった老人の死体が横たわっていた。抗おうとしたのか、老人の手元にはナイフが落ちている。


 その死体に近付いてみると何か音が聞こえた。


 ―?今何か音が…ん?微かだけど、気配を感じるな。


 俺は辺りを見渡し、もう一度死体に目をやる。


 ―下に何かいる…?


 俺は老人の死体をどかし、床を調べてみた。


「兄さん、何してんだ?」


 護衛の男は俺の行動に疑問を持ったのか、そう聞いてきた。しかし、俺はそれに構わず床を調べる。

 床にはうっすらと不自然な切れ込みがあり、ゴソゴソと探ると、その箇所が開いた。

 そこには意識を失った10歳くらいの少年が身体を丸めて入っていた。


「兄さん!その子、生きてんのか?」


「みたいだな。多分気を失ってるだけだろ。騎士達の所に連れて行こう。」


 ―この子は無傷か。回復魔法も必要無さそうだ。


 俺は子どもを抱き抱え、建物を出た。そのまま騎士達の元へ戻り、分隊長に声を掛けた。


「その子どもはどうした?」


「さっき見つけたんだ。気を失ってるだけみたいだからそのうち起きると思う。何か情報を持っているかもしれないから、俺達で保護しよう。」


「…そうだな。とりあえず、荷馬車に運んでもらえるか?死体の横で寝かせる訳にもいかんからな。」


「それもそうだな。わかったよ。」


 俺が荷馬車へ向かおうとすると、いきなり少年の目が開いた。


「うぁ!盗賊!」


 少年は俺を見ると、急に暴れだした。そのせいで少年を地面に落としてしまった。


「悪い、大丈夫か?」


「おまえら、あいつらの仲間か?姉ちゃんをどこにやった!」


 少年はすぐさま起き上がり、俺達から距離を取って叫び出した。怖いのだろうか、声と身体が震えているのがわかる。


「落ち着け。俺達はソル王国から来た騎士団だ。盗賊を追ってここへ来たんだ。何があったか教えてくれないか?」


「…騎士団…?」


 俺のその言葉に安心したのか、少年はそのまま泣き崩れてしまった。


 ―まいったな。泣き止むまで待つしかないか。


 俺達はしょうがないので、少年が落ち着くまで待つ事にした。


 ーーーー


 少年はなんとか落ち着いて、事の経緯を話てくれた。


 少年の名はロイといい、ロイは早くに両親を無くし、村長に引き取られて、姉と村長の三人で暮らしていたそうだ。

 2日程前の夜、突然多くの盗賊が村を襲ってきた。盗賊は食料や金品を奪い、逃げる村人を容赦なく殺していった。

 若い女は凌辱され、男や老人はまるで玩具で遊ぶように殺された。


 事態に気付いた姉と村長はすぐさまロイを床下に押し込んだ。床下は子ども一人分しか入れるスペースが無かったため、姉と村長は囮になり、村長は殺され、姉は連れ去られた。


 それが事の経緯だった。ロイはそこまで話すと再び泣き出してしまう。


「…なんでもっと早く来てくれなかったんだよ!なんであいつらをもっと早く捕まえてくれなかったんだよ!なんで…。」


 ―辛いだろうな。…けど、誰かが言ってやらなきゃいけない事だ。


 俺は気持ちを押し殺して、口を開いた。


「自分に起こった悲劇を他人のせいにするな。こうなった原因はおまえや村の人間が弱かったからだろ。」


「ちょ、兄さん!」


 護衛の男は俺の言葉に驚いて、声をあげる。俺はそれに構わず続けて口を開いた。


「これが現実だ。周りに泣きついたって何も変わりはしない。死んだ人間は生き返らないし、時間だって巻き戻らないんだ。」


「じゃあどうしろって言うんだよ!俺は…どうしたら…。」


 ロイは俺に掴みかかって来たが、俺はそれをあえて振りほどかず、頭を撫でてやった。


「強くなれ。それが無理なら知識でもいい。二度と奪われないための力を身に付けろ。」


「奪われないための力…。」


「あぁ。だが、それは奪われないための力だ。奪うためじゃない。おまえを庇って死んだ村長や、囮になって連れ去られた姉さんが見せてくれたはずだ。」


「…姉ちゃん…村長…。」


 ロイはそのまま下を向いてしまう。


 ―…こんな小さい子には酷な事だよな。


「…とは言っても、このまま泣き寝入りも出来ないよな。おまえはまだ子どもだし、力も無いが、ここには頼りになる大人が集まってる。今回は俺達が力を貸してやるよ。」


 俺がそう言うとロイは顔をあげた。


「心配すんな。きっちり仇取ってやる。」


 俺はロイの頭をポンポンと優しく叩いて、ロイを引き離した。


「おう、ボウズ!俺達に任せとけ!」


 それに続いて護衛の男もロイの肩を掴んで、ニカッと笑った。


 すると一人の騎士が走ってきた。


「分隊長!盗賊の物と思われる足跡を発見致しました!」


「なに?よし、早速盗賊を追うぞ。みな、準備を!」


 分隊長はそう言った後、ロイに近づく。


「ロイ君。すまないが村人達の弔いは後にする。足跡が消えぬうちに盗賊共を追いたい。構わないか?」


 ロイは分隊長の言葉に小さく頷く。それを見た分隊長はロイの頭を撫でた。


「王国へ戻っている暇も無いため、君にも付いてきて貰う。だが、事が済んだらもう一度ここへ戻る。その時は我々も弔いを手伝おう。」


「わかった。」


 ロイは一言そう言った。その顔はさっきまでの泣きじゃくっていた顔ではなく、しっかりと前を見据えた凛々しい顔になっていた。


「よし、では行くぞ!」


 こうして俺達は分隊長の声を合図に、村を出発した。

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