第22話 国王からの依頼①

 翌日、俺達はまたフローラの家に来ていた。


 ポーションの件と、メリッサさんのお礼を兼ねて夕食にお呼ばれしたのだ。


 部屋に通されると、いつにも増して豪勢な料理が並んでいた。

 それを見たリトラが部屋に入るやいなや、早速食べようとしたので、頭をチョップしてそれを制止した。

 リオは料理をただジッと見つめて動かない。


「昨日は気を使わせてしまったようで申し訳無かった。改めて礼を言わせてくれ。本当にありがとう。」


「私からもお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました。」


 俺達が部屋に入ると、先に待っていたアランさんとフローラさんが俺に頭を下げてきた。


「いや、いいよ。そういうの苦手なんだ。それより早く食べないか?折角の料理が冷めちゃうし。」


 ―というよりリオとリトラが我慢できそうにないからね。


 俺達は席に座って食事を始めた。


 リオとリトラは無言で食べ続けている。

 二人とも最早食べる事にしか集中していないようだ。


「ところで、ポーションの事なんだけど。」


 俺は早速本題に入る。お礼よりもそっちが目的だったからだ。


「あぁ、そうだね。是非ともうちで卸させてくれないか?あの効果なら間違いなく売れるよ。」


 ―ん?うちで?


「アランさんって商売人だったのか?」


「ん?言ってなかったかな?私は『シュヴァルツ商会』という商会を経営しているんだよ。」


 ―おぉ。シャチョさ~んだったのね。まぁ騎士って感じでもないし。話した感じ、そっちの方で成り上がったんだろうなとは思ってたけど。


 話を聞くと、どうやら『シュヴァルツ商会』はソル王国のおよそ1/3の物流を担っている程の大商会らしい。武具、薬品、食料とあらゆる物を取り扱っているようだ。


「俺は商売に関しては素人だから、その辺りは任せていいか?」


「あぁ、任せてくれ。全力でサポートさせてもらうよ。」


 ―頼もしい限りだね。これでお金の工面はクリアできるかな。


「それとショウ君。明日少し時間をもらえないかな?」


 ―ん?なんだろ?


「別に構わないけど、何かあるのか?」


「実は今朝、国王に謁見をしてね。その時に『災害』の死体について聞かれて、君達の事を話したんだ。ついでにポーションについても報告しておいた。騎士にも必要な物だと思ってね。そしたら是非お会いになりたいそうだ。」


 ―?!だぁぁ、口止めするの忘れてたぁぁ!


「え…国王に?」


「え?もしかして、不味かったかい?」


 ―いや、きっとアランさんは悪気があった訳じゃないんだ。俺が口止めをし忘れてたのが原因だ。くっ…しょうがないか。


「…わかったよ。明日国王に会えばいいんだな?」


「すまない、何か余計な事をしたようだ。」


「いや、いいんだ。特に問題もないし。」


 ―厄介な事にならなきゃいいけど。


 こうして、この日は夕食を頂き、そのままフローラの家に泊まる事にした。

 リオとリトラは並んだ料理をペロリと平らげ、おかわりまでしていた。その様子にメリッサさんはとても驚いていた。


 ーーーー


 翌日、俺達三人とアランさんの四人で城へ向かった。


 俺は城の雰囲気に圧倒されて、少し緊張していた。

 リオは初めてフローラの家に行った時のようにキョロキョロとしていて、リトラは興味がないのか、眠たそうな顔をしている。


 謁見の間に入ると、貴族風の者が5名程と、色とりどりの鎧を着込んだ騎士5名が左右の壁に並んでいる。恐らくこの国の重鎮達だろう。

 その中央の玉座には国王が座っている。

 国王は立派な髭に王冠を被り、赤いマントを羽織っていて、如何にもな見た目だ。


 そしてもう一人、俺達より先に見覚えのある者が来ていた。


「…なんでおまえがいるんだよ。女勇者。」


「今からその説明があるから。それより、私の名前はミユよ。その呼ばれ方は少し不愉快だわ。」


 ミユは相変わらずの仏頂面で俺の問いに答えた。

 俺はというと、ミユが目に入った事で緊張は無くなり、一気に帰りたくなった。


 すると国王が俺に話しかけてきた。ミユは瞬時に片膝を付き、頭を下げる。

 俺はミユの真似をしようかと思ったが、その体勢が辛そうだと思い、そのまま国王の話を聞くことにした。


「良く来てくれた。勇者ミユと冒険者ショウ、そしてその仲間達よ。私はソル王国、現国王のフリード・ソル・エドワードである。まずはショウよ、『災害』を討伐し、奇跡のポーションを作ったというのは誠か?」


「奇跡のポーションじゃなくて、ただの上級ポーションなんですけど。まぁ、『災害』とやらを倒したのは俺達です。」


 俺はなんだか肩の力が抜けてしまい、適当に答えて早く帰ろうと思った。


「貴様!国王の御前であるぞ!無礼であろう!」


 すると、国王の近くにいた貴族風の者がいきなり怒鳴り始めた。俺の態度が気に入らないのだろう。


「いやいや、呼ばれたから来たんですけど。不愉快なら帰りましょうか?」


 ―うるせーなぁ。なんだよこのジジイは。そもそもこの国の礼儀とかわかんねーっつーの。


「あんたバカなの?!相手はこの国の国王様よ?!せめて頭くらい下げなさいよ!」


 ミユも膝を付きながらこっちを向き、似たような事を言う。


「なんでだよ。俺はこの国の人間じゃないし、頭を下げる義理なんか無いだろ。」


「貴様!なんたる態度だ!国王、この様な者を信用してはなりませぬ!」


 俺とミユの会話に益々怒り出す貴族風の男。

 他の面々もなんだか怒っている様子だ。アランさんは顔が青ざめてしまっている。

 それに反応するように、俺の後ろにいるリオとリトラは額に血管が浮き出ていて、今にも噛みつきそうな顔になっていた。


 ―あー、ちょっと不味いかなぁ。リオとリトラが暴れ出さないうちに帰った方がいいかも。


「静まれ。…すまないな。『災害』には我らも手を焼いていた。討伐、大義であった。」


 すると国王が右手を上げて、口を開いた。それを見た周りの者は一気に静まり返る。


 ―ん?王様の方は意外と話がわかる人なのかも。


「で、何故俺達はここに呼ばれたんでしょうか。」


 俺は理由だけでも聞いておこうと思い、国王に尋ねた。


「うむ。まずは『災害』討伐の褒賞を授けたい。白金貨百枚、それと銅陽勲章だ。受け取ってくれぬか。」


 ―うん?お金はわかるとして、銅陽勲章ってなんだろ?


「な、国王、こんな得体の知れぬ者に勲章など、なりませぬ!」


「黙れ。この者はそれに相応しい働きをしておる。そしてこの者の作るポーションは我が国に多大な利益をもたらすだろう。人柄についてもシュヴァルツ侯爵と勇者ミユから聞き及んでおる。」


「しかし、銅陽勲章とは…この者に貴族と同等の立場をお与えになるというのですか?!」


 ―えっ?貴族?スゲーいらないんですけど。

 てか、アランさんはわかるけど、女勇者は反対してないの?どんな心境の変化だよ。なんか企んでんのか?


「あの~。そのなんやら勲章はいらないんですけど。」


「え?!ショウ君?!何故だ?大変名誉な事なんだぞ?!」


 俺がそう断ると、アランさんが驚いた様子で口を開いた。


「いや、名誉とか名声とか興味ないんで。そもそも俺は旅人だから、この国に留まる気もないし。それを受け取らなきゃいけないならお金もいらないよ。」


 ―貴族なんてめんどくさい事やってらんねーよ。


「わかった。おぬしがそう言うなら、褒賞は白金貨百枚のみにしよう。これは受け取ってもらいたい。我が国の品位に関わるからな。」


 ―う~ん。まぁお金ならもらってもいいか…。でもなぁ。


「受け取っておきなさいよ。この国からのお礼だと思って。」


 ミユのその言葉に、俺も諦めがついた。


「…わかったよ。そこまで言うなら。」


 俺がそう言うと、アランさんもホッと胸を撫で下ろした。



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