第21話 ポーションの効果

「今日は衛兵の方々が多いですね。」


「そりゃそうだろ。昨日受付嬢さんが言ってたじゃんか。」


 今、街には衛兵がいたる場所にいる。


 と言うのも、俺達は昨日、街に戻ってから冒険者ギルドに行って、クエストの完了報告と、リトラの登録を行った。

 その時に受付嬢さんから「黒竜が街の付近に現れたと目撃情報があった」と忠告された。

 そのため、国を挙げて厳戒態勢が敷かれる事になったそうなのだ。

 幸い、近くにいた勇者が追い払ったという話になっているようで、俺はシラを切る事ができた。


 さすがに、その張本人の黒竜が俺の横で肉串を頬張っているとは誰も思わないだろう。


「てかおい、リトラ。おまえさっきから喰ってばっかじゃねーか!」


「申し訳ありませぬ。人間の食べ物はおいしいのですが、ちと量が少なくて…」


 ―ヤバい。このままではこいつに有り金全部食い散らかされてしまう。早急になんとかしなくては。


「今日はどうするのですか?」


 俺がリトラの肉串を取り上げようか悩んでいると、リオがそう聞いてきた。


「今日はとりあえず、フローラの家に行く予定だよ。前に言ってたポーションについて相談しようかなって思って。」


 昨日のクエストで思った以上に薬草が取れたため、すぐにでも作れるのだが、入れ物のビンと販路に関しては正直よくわからない。

 アランさんならその辺にも詳しいのではないかと思ったのだ。


「お金は必要ですからね。いざとなったらその黒竜の鱗でも剥いで売りましょう。」


「そんな…リオ殿。冗談ですよね?」


「見も心も捧げると仰っていたではないですか。そもそもの原因はあなたの食欲なんです。ショウ様が困った時はあなたが身を削るのは当然です。」


「…そんな、殺生な…。」


 リトラの顔がみるみる青ざめていく。


 ―鱗剥ぐの痛そうだったもんな。リオってたまに怖い事言うけど、冗談なのか本気なのかいまいちわからないから余計怖いんだよな。…冗談だよね?


「リトラ、別にそこまでしなくていいからな。けどしっかり働いてくれよ?」


「お任せ下され!主殿!」


 リトラはリオと違って表情がコロコロ変わるからわかりやすい。現に、鱗を剥がなくていいと言った瞬間、ものすごくいい笑顔を見せてくれた。


 そうこうしているうちに、フローラの家に着いた。


 メイドさんが門まで出迎えてくれて、前もって約束はしていなかったが、すぐに取り次いでくれた。

 そのまま少し待っているとロンドさんが来て、アランさんの部屋に案内してくれた。


 部屋に入ると、アランさんとフローラがいた。


「すいません。急に来てしまって。」


「何を言うんだ。君達ならいつでも歓迎するよ。」


「そうですよ。いつでもいらして下さって良いのですから。」


 アランさんとフローラは急な訪問にも嫌な顔せず、迎えてくれた。


「それで、今日はどうしたのかな?私に相談があると聞いたが。」


「実はこれなんだけど。」


 俺は作ったポーションを取り出して、アランさんに見せた。ビンは雑貨屋に少しだけあったので試作分だけ買っておいた。


「これはポーション…?」


「俺が作ったポーションなんだけど、これを売りに出したいんだ。」


「ふむ、ポーションなら需要があるから難しくはないが…。」


 アランさんは何か考え込むようにポーションを見つめている。


「街で売られている物を少し見て回ったんだけど、どれも品質があまり良くない事がわかったんだ。基本は下級、良くて中級ってところかな。俺が作ったそのポーションは上級の物だよ。」


「なっ!?上級?!」


 アランさんは俺の言葉に驚いて立ち上がる。


「そう。上級ポーション。必要なら最上級も作れるよ。ポーションって素材と作る人によって品質が変わるから、もしかして上級の物を作れる人があまりいないんじゃないかと思って。」


「あぁ。その通りだ。ポーションは錬成の基本ではあるが、上級となると錬成LvⅧは必要だと聞いた事がある。そんな錬成士はこの国にはいないよ。錬成士になる者も少ないからね。」


「最上級はともかく、上級の物なら街に出てる下級の物と変わらない値段で出せるよ。アランさんが手数料を乗せても中級の物くらいの値段で出せるんじゃない?」


 アランさんは再び座り考え込む。


「ショウ君。このポーションの効能を確かめたいのだが構わないかな?」


「もちろん。そのために持ってきた物だから。」


 俺がそう言うと、アランさんは立ち上がり、違う部屋に案内してくれた。


 その部屋にはベッドから窓の外を眺める女性がいた。


「メリッサ。新しい薬だ。飲んでみてくれないか?」


 女性はメリッサと言うらしい。どことなくフローラに似ている気がする。薄暗い部屋で窓の外を羨ましそうに眺めているとこを見ると、どこか悪いのだろうか。


「あなた…。ありがとう。でもいいのよ。この足はもう治らないわ。」


 ―あぁそういう事ね。この人、フローラのお母さんか。んで足を悪くしてると。どうりで前泊まった時に見かけなかったわけだ。


「いや、この薬は今までの素朴な物とは違う。飲んでみてくれ。」


「そうよ、お母様。この薬なら絶対治るわ!」


 ―あれ。なんかスゲェハードル上がってる。これで治らなかったらどうすんだよ。


「…そう。わかったわ。」


 メリッサは信じていないようだったが、ポーションを飲み干した。


 神経の損傷による不随なら上級で充分治るはずだ。さすがに欠損していたら最上級のものが必要だが。


 ―…最悪、ポーションに効果がなければリオに『完全なる治癒』パーフェクト・リカバリーを掛けてもらうか。


「え…?嘘…?」


 突然メリッサがボロボロと泣き出した。


「メリッサ?!どうしたんだ?!大丈夫か?!」


「…あなた…足が…動くわ。」


「ホントか?!」


 ―良かった。効果あったみたいだな。


「メリッサさん。ポーションは傷を癒し、体力を回復するだけの物です。恐らく足は動くようになりましたが、衰えた筋肉までは戻りません。いきなり歩くのは危険です。なので、これを使って下さい。」


 俺は在り合わせの素材で松葉杖を錬成した。


「松葉杖って言います。これで少しずつ身体を慣らして、歩く練習をして下さい。そうすればすぐ歩けるようになりますから。」


 俺は松葉杖の使い方を実際にやって見せて、メリッサさんに渡した。


「あの…あなたは?」


「初めまして。ショウって言います。一応冒険者してます。」


「メリッサ、この方がさっきの薬を作ってくれたんだ。」


「ショウ様は以前、私とロンドの事も助けてくれたのよ!」


「そうですか…なんとお礼を言っていいか。本当にありがとうございます。」


「いえ、お礼は結構です。治って良かったですね。」


―本当に良かったよ。これで治らなかったらすげー恥ずかしい思いするとこだった。


「…良かった…。メリッサ…。本当に良かった。」


「えぇ…あなたも本当にありがとう…。私…もう一度自分の足で歩けるのね。」


 アランさん、メリッサさん、フローラは会話もままならない程ボロボロと泣きじゃくって、喜び合った。

 ロンドさんとメイドさん達もその様子を見て、一緒に泣いている。



「リオ、リトラ。今日はもう帰ろうか。」


「そうですね。」


「さすが主殿。天晴れです。」


 ―家族か。ちょっと羨ましいな。


 俺達は喜びを邪魔しないように静かに屋敷を出た。

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