第19話 ヴリトラ
俺とリオは、ソル王国の西にある『ルクルムの森』に来ていた。
この森には、比較的強い魔物はおらず、果実や薬草なんかも至るところに生えている。ソル王国の大体の冒険者は始めにここで狩りをするらしく、『始まりの森』なんて呼び方もされているそうだ。
ただし、森の奥にそびえ立つ山脈は、ドラゴンの棲家になっているらしく、近づいてはいけないと受付嬢さんに注意された。
何故、俺達がそんな森にいるかというと、クエストのためだ。
正直、冒険者ランクに興味はないが、定期的にクエストを受けないと資格が消えてしまうらしいのだ。
それで錬成士にとってはメリットの大きい薬草採取のクエストを受ける事にした。
薬草があれば『錬成』でポーションが作れるのだ。
俺のスキル、『創造』は『錬成』の上位スキルなので、『錬成』で作った物より高品質な物が作れる。それを売り捌く作戦だ。
「だいぶ集まりましたね。」
「そうだな。これだけあれば売る分にも困らないな。」
俺とリオは薬草採取を終えて、街に戻るために森を出た。
街が見える位置まで来たところで、嫌な気配を感じた。
「…待ってたわよ。」
「うげ…女勇者…、何してんだよ。」
「うげとは何よ。貴方達を待っていたの。相手をしてくれるんでしょ?ここなら誰も巻き込まないわ。」
「そのためにわざわざ待ってたのか?」
「森には他の冒険者もいるからね。」
―嫌な奴に目付けられたなぁ。
「剣を抜きなさい。二人同時でも構わないわよ。」
ミユは真剣な表情で剣を抜いた。
「…ショウ様。私がやりましょう。」
リオは一歩前に出て、槍を構えた。
―正直、女の子と戦うのって気が引けるんだよなぁ。でも相手するって言ったの俺だし…。このままリオに任せるはちょっとカッコ悪いよなぁ。
「…しょうがない。リオ、悪いけど俺がやるよ。」
俺はリオを押し退けて、ミユと対峙する。
「…わかりました。」
リオは戦いたかったのか、少し肩を落として後ろに下がった。
「案外男らしいのね。女の子みたいな顔してるのに。」
―俺、この女嫌いかも。
「おまえこそ、ぼっちのくせに偉そうにすんなよな。」
「…私はぼっちじゃないっ!!」
ミユは高速で俺に詰め寄り、剣を薙ぎ払う。
俺はそれを刀で受け止め、ミユの足めがけて蹴りを放つ。
しかし、俺の蹴りは空振りした。ミユは瞬時に後ろに飛び、蹴りを避けたのだ。
「攻撃がワンパターンなんだよ!」
「うるさいっ!
ミユは先ほどよりも速い速度で、俺に詰め寄った。
俺はミユが間合いに入ったタイミングで横薙ぎに刀を振るうが、ミユはしゃがみ込み、それを避ける。
「
ミユの剣擊は俺の左脇腹めがけて放たれるが、俺は咄嗟に鞘を引き抜いてそれを防いだ。
「あぶねー。今のはヤバかった。」
「…何で出来てんのよ、その鞘。」
「内緒だよ。」
俺とミユはせめぎ合いながら、そんな言葉を交わし、お互い一度距離を取った。
「やっぱり、貴方の強さは普通じゃないわ。」
「そいつはどーも。あんたも勇者なだけあるよ。」
「…あまり使いたくなかったんだけど…。しょうがないわね。
ミユの瞳が銀色に輝き、全身に金色のオーラを纏い始めた。
―あれは確かリオが使っていた技だ。ちょっとヤバいかも。
「塵となれ!
ミユの剣が眩い光を放ち、ミユはそれを一気に振り下ろした。
すると、ミユを中心に爆風が起こり、目も開けられない程の光の斬擊が放たれる。その斬擊は地面を大きく切り裂きながら、俺に向かって一直線に飛んできた。
「
ミユの斬擊で大量の土煙が巻き上がった。
土煙が晴れると、ミユの立つ位置から数百メートル先まで地面が切り裂かれていた。
「…これじゃあ、さすがに死体も残らないか。」
ミユから金色のオーラが消えていく。本人も息を荒げながらその場で膝を着いた。
「いやー、凄い一撃だったな。」
「…当然でしょ。全力の一撃だったんだか…ら?え?」
俺は無傷でミユの横に立ち、同じ方向を向いている。
「な…?」
ミユは驚いて声にならない。
俺はそんなミユに構わず、ミユから剣を取り上げた。
「はい、ドーン。」
俺はミユに軽くデコピンをした。
「俺の勝ちだな。じゃ、約束は果たしたし、もう行くわ。」
俺はミユに剣を返しリオの元へ戻った。
「待ちなさい!納得行かないわ。なんで生きているのよ!」
ミユは額に手を当てて叫んでいる。
「内緒だよ。」
俺は一度振り返り、それだけ行って歩き出した。
「ショウ様、お見事でした。」
「ありがと。あの子もこれで少しは懲りてくれるといいんだけどなぁ…。」
ーーー!!!
俺達が歩き出すと、突然、空から強い気配を感じた。
俺とリオが空を見上げると、黒い大きなドラゴンが俺達の頭上を通り過ぎて行った。
ドラゴンは一度旋回して、俺達の目の前に舞い降りて来た。
「今ここで戦っていたのは貴様らか…?」
ドラゴンは俺達を威圧するように聞いてきた。
「ドラゴン?!」
ミユはドラゴンの威圧に反応して、剣を構える。
「そうだけど、もう終わったし帰るとこだよ。」
「久方ぶりに強い気配を感じた。この地面は貴様の仕業か?」
ドラゴンは割れた地面を見て、俺の言葉を無視して問いかけてくる。
「あのさ、いきなり現れて、一体なんのつもり?」
俺はドラゴンの横柄な態度に少し腹を立てていた。
やっと女勇者から解放されると思った矢先、今度はドラゴンだ。
冒険者ギルドの件といい、ここまで来ると、厄日どころか呪われているのではないか、と思えてくる。
「…人間ごときが生意気言いよる。」
―カッチーン。これは、ちょっと分からせてやらないとだめだな。
俺は『神魔眼』でドラゴンのステータスを覗いた。
ヴリトラ (竜族) Lv298 ジョブーーー
HP 29600/29600 MP 28600/28600
攻撃力 3110 防御力 2380 魔力 3060
器用さ 2540 素早さ 1380 成長度 8.0
耐性 毒Ⅳ 麻痺Ⅴ 睡眠Ⅲ 魅了Ⅶ 暗闇Ⅹ
火Ⅹ 水Ⅹ 風Ⅹ 雷Ⅹ 土Ⅹ 冥Ⅴ 聖Ⅴ
スキル 威圧Ⅹ 火術Ⅹ 水術Ⅷ 雷術Ⅷ 風術Ⅹ
土術Ⅵ 体術Ⅷ
EXスキル 竜眼Ⅷ
加護 ーーー
―ドラゴンなだけあって基礎能力は高いな。けど後は大したことないか。
「…トカゲ風情が偉そうにすんな。」
「ダメ!そいつは
―ん?女勇者もステータス見たのか。けど、この程度なら逃げる事もないかな。
「我をトカゲだと…?人間風情が…食い千切ってくれるわっ!」
ドラゴンが口を開いて俺に迫ってくる。
「うるせーな!声でけーんだよ!」
俺は高速でドラゴンの顔まで近づいて、右手に神冥術の
ーーーー!!!!
ドラゴンはそのまましばらく動かなかった。
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