第18話 もう一悶着

 俺とリオは無事、身分証の発行が完了した。

 その後、一悶着あったが、それも解決した。だから早くフローラの屋敷に戻ろうと思ったのに、その者は現れてしまった。


「…外に転がってる人達は貴方達が?」


 ―最悪だ。一番会いたくない奴が来ちまった。


「…ちょっと訳あってな。もう済んだから、そこどいてくれるか?今から帰るところなんだ。」


 俺は動揺している事がバレないよう答えた。


「…貴方達…何者なの?」


 ―あれ?この子、前見た時は瞳が黒かったような…。


 女勇者ミユは銀色の瞳でこちらを見つめている。


「質問に答えて。貴方達は何者なの?」


 ―厄介だな。多分この子も眼を持ってるんだ。でも良かった。俺もリオも街に入ってからずっと『隠蔽』スキルでステータスを隠してるからな。この子も俺達のステータスは見えてないはずだ。


「何者って…ただの旅人だよ。今さっき冒険者になったけどな。」


「…貴方、何を隠しているの?」


「あんた、さっきから何を言って…」


 ーーーーー!!


 ミユは高速で俺に詰め寄り、剣を抜いた。

 しかし、リオが横から槍を伸ばし、俺に届く前にミユの剣擊を止めた。

 反応できる速度だったので避けようかとも思ったが、リオが動いたのが見えたので、敢えて俺は動かなかった。


「…あなた達、本当は魔人なんじゃないの?」


 ―…はい?何を言い出すのこの子。


「魔人って何?俺、人間なんですけど。」


「嘘をつけ。私の眼は相手のステータスを見る事ができるの。だけど、貴方達のステータスは見えない。何か隠している証拠でしょう。」


 ―あれ?俺もステータス見れないからちょっと警戒してたけど…もしかして、この子あんまり強くないのか?


「俺達さ、あんたみたいにステータスを覗いてくる奴に会ったことあるんだよ。そんな能力がある事がわかったら、当然対策するだろ。あんたもそうじゃないのか?」


「…?!やっぱり、他に魔人の仲間がいるのね?!」


「いや、あんたの言う魔人ってのが何なのかよくわからないんだけど。そいつは仲間じゃないし、むしろ敵として会ったんだよ。」


「そんな話信じられるか!」


 ミユは剣を弾き、俺達から距離を取る。


「おい!勇者様と冒険者がやりあってるぞ!」


「マジかよ。勇者様にケンカ売るなんてなぁ。」


 ―はぁ。今日は厄日だ。やっぱり明日来れば良かったな。

 なんか人だかり出来ちゃってるし。てかケンカ売られてんの俺なんですけど。


「今ここで、あなたを討つ。」


 ミユは周りの人だかりに構わず、剣を構える。すると剣に魔力が集まりだし、光を帯びていく。

 次の瞬間、ミユは剣をその場で振り下ろした。


「『聖なる煌剣エクスカリバー』!!」


「…『聖なる障壁』ホーリーバリア。」


 ―おいおい、こんな所でそんな技使うなよ。


 ミユが剣を振り下ろすと、見えない斬擊が床を切り裂きながら俺に迫ってきた。

 俺はそれをバリアで防ぐ。斬擊とバリアがぶつかった瞬間、まばゆいほどの光が辺りを襲った。


 光が収まると、リオが槍先をミユの喉元に突き付けている光景が目に入った。


「…いい加減にして下さい。戦意のない者に剣先を向けるなど…それが武を謳う者のする事ですか。」


「…お前達魔人を斬るのに、情けも矜持も必要ない。」


「…貴方が何を言っているのかよくわかりませんが、続きをしたければ私が相手になります。」


 ―あーぁ。勘弁してくれよ。もうメチャクチャじゃんか。周りも完全にドン引いてるよ。


「はーい。二人ともストーップ。リオ、槍をしまって。あんたもとりあえず落ち着いてくれ。」


 俺は二人の間に割って入る。


「見ての通り、俺はケガもしてないからリオもそこまでしなくていいよ。」


「…しかし。」


 俺はリオが何かを言いかけるのを遮るように続けて喋る。


「いいのいいの。んで、あんたも早く剣しまって。」


「な、貴様!」


 ーー!


 ミユは俺に剣を振るうが、俺はそれを避けてミユに軽くデコピンをした。


「……!!!!」


「あのなぁ、周りを見てみろ。みんなビックリして固まってるぞ。それに、こんな所でやり合ったらみんな巻き込んじまうから。」


 ミユは顔を真っ赤にしながらおでこを抑えて俺を睨んでいる。


「納得いかないなら、今度改めて相手してやるから、今日のところは帰ってくれ。俺達も人を待たせてるんだ。」


「…わかった。今日のところは帰るわ。けど、まだ貴方達の疑いは晴れていないからね。それを忘れないで!」


 ミユはそう言ってギルドから出て行こうとする。が、俺はそれを引き留めた。


「ー?!何をするの?!」


「いや、この床の修理代。あんたが壊したんだから、あんたが全額払ってくれよ?」


 ―言われもない攻撃を受けたのに、俺が弁償なんて真っ平後免だからな。

 あ、そういえば俺も壁壊してるわ。どさくさに紛れて勇者様に押し付けるか?


「ーーーーー!!!!わかってるわよっ!!!!」


 ミユは怒って出て行ってしまった。


「おい!暴れてる奴はどこだ?!」


 ミユと入れ違いに衛兵がゾロゾロとやって来た。


 衛兵の言葉に、その場にいた全員が俺とリオを見る。


 ―なんなんだよ今日は。めんどくせぇな。


 俺とリオはそのまま衛兵に捕まり、連行された。

 そこで取り調べを受けていると、アランさんが事情を聞いて駆け付けて来てくれた。

 アランさんの説得と受付嬢さんの証言もあり、ただのケンカとして処理され、少しの罰金だけで済んだ。


 ―ホント、今日はとんだ厄日だったなぁ。

 

 そういえば、女勇者が言ってた魔人って何だろうな。アルマロスとなんか関係あるのかな。今度女勇者に会ったら聞いてみるかな。…いや、無理か。


 俺はなんかすごく疲れて、その日はフローラの家で豪華な晩御飯を頂いたのだが、あまり食欲が湧かず、少し食べてすぐ寝てしまった。


 ちなみにリオさんは、たらふく食べて大変満足した顔をしていたそうだ。

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