第15話 勇者

「あれ、列に並ばなくていいのか?」


 俺達は街の門前についたのだが、並んで検閲を待っている人達の横を通り過ぎていく。


「大丈夫です。私はこの街の貴族の娘ですから。」


 フローラはドヤ顔でそう言った。


 ―大丈夫なのか?フローラ達はいいかもしれんが、俺とリオは完全に部外者なんだけど。


「いや、俺達の事だよ。この街の人間じゃないだろ。」


「大丈夫です。そのまま座ってお待ち下さい。」


 俺は不安を隠せずいたが、とりあえずそのまま待つ事にした。


 門前の兵士がこちらに近づいて来る。


「おかえりなさいませ。フローラ様、ロンド様。」


 兵士は馬車の前で敬礼したまま固まっている。


 ロンドが御者席に座ったまま、懐から何かを取り出して、兵士に見せた後、後ろを指差して何か説明しているようだ。

 そして、兵士に何かを手渡した途端、道を開けてくれた。


 ―おいおい。検閲ザルだな。本当に大丈夫か?しかも今の賄賂じゃねーの?


「何も心配いりません。通行料を支払っただけですから。」


 フローラは俺の考えてる事がわかるかのようにそう言った。しかし、馬車の中さえ確認しないのはどうかと思った。


 ―まぁ、俺達は楽でいいけど。一応兵士のステータス確認しておくか。


 俺はなんかあったら逃げようと思って兵士のステータスを確認した。


 ラルフ(ヒューム) Lv 23 ジョブ 戦士ウォーリヤー

 HP 3560/3560 MP 1020/1020

 攻撃力 310 防御力 280 魔力 110

 器用さ 180 素早さ 160 成長度 6.1

 耐性 ーーー

 スキル 剣術Ⅲ 盾術Ⅱ 体術Ⅱ

 EXスキル ーーー

 加護 太陽神の加護


 エド (ヒューム) Lv 18 ジョブ 戦士ウォーリヤー

 HP 3180/3180 MP 980/980

 攻撃力 290 防御力 270 魔力 100

 器用さ 160 素早さ 140 成長度 6.5

 耐性 ーーー

 スキル 剣術Ⅱ 盾術Ⅱ 体術Ⅱ

 EXスキル ーーー

 加護 太陽神の加護


 ―…マジか。これじゃ、あの獣も倒せない訳だ。でもこれならなんかあってもすぐ逃げれるな。


「…門を守る者があれでは、この街はすぐ滅びてしまいますね。」


「…リオ、言ってやるな。」


 ―リオも兵士のステータスを見たのだろう。かなり呆れた様子だ。けどリオの言うとおり、この国の守備体制はかなり頼りない。兵士のLvがあれでは、リオ一人だけでもこの国は落とせるな。


「…あの、何か気になることが?」


 フローラは俺達の様子が気になったのか、不安そうに覗き込んできた。


「いや、別に何もないよ。」


 俺がそう言うと、フローラは安心したように笑顔に戻った。


 とにかく、俺達は無事ソル王国に入国できた。


 中に入ると、街の中はたくさんの人で賑わっていた。

 中でも気になったのは、頭の上に獣の耳を付けてしっぽの生えた者や、すごく小さいのに立派な髭を携えたオッサンや、耳の長い者と、変わった見た目の者がチラホラいることだ。

 だが、実物の龍や堕天使だのを見た後では、大して驚きはしなかった。


 そのまま街の中央通りを通っていると、一人の女性が目に入った。


 その女性は一人で歩いていたのだが、見た目が見慣れていた日本人のそれだったのだ。

 短く整えられた黒髪に黒い瞳。見た目は十代後半くらいで、軽鎧を着ているが、外人風な顔立ちの人ばかりのこの街では変に目立っていた。


 俺はその女性を馬車の窓越しに見ていると、不意に目が合った。


 ミユ (ヒューム) Lv ??? ジョブ 聖勇者ホーリーブレイブ

 HP ???/??? MP ???/???

 攻撃力 ??? 防御力 ??? 魔力 ???

 器用さ ??? 素早さ ??? 成長度 ?

 耐性 ???

 スキル ???

 EXスキル ???

 加護 主女神の加護


「?!」


 ードン


 俺はびっくりして思わず、立ち上がってしまった。そして馬車の天井に頭をぶつけた。


「ショウ様?大丈夫ですか?」


 リオとフローラが心配そうに寄ってきた。


「いってぇ…大丈夫大丈夫。驚かせてすまん。」


「…何かあったのですか?」


「…あぁ、いや、なんでもない。」


 窓からもう一度外を覗くと、その女性はもう見えなくなっていた。


 ―今のはなんだ?『神魔眼』でもステータスが見えなかったぞ。それに、日本人の見た目に『勇者ホーリーブレイブ』のジョブ。…俺と同じ転移者か?だとしたら厄介だぞ。


 俺はシンを殺した白装束の奴を思い出した。


 ―あいつの強さは異常だ。恐らく今の俺とリオでは、二人がかりで挑んでも勝てないだろう。あの女性が転移者ならあいつに関わってる可能性がある。今接触するのは危険かもしれない。


「…あの、ショウ様。本当に大丈夫ですか?」


 フローラは心配した顔をしてこちらを見ていた。リオの方を見ても同じようにな顔をしていた。恐らく顔に出てしまっていたのだろう。


「ごめん。大丈夫だ。それよりフローラさんの家はまだなのか?」


 俺は二人にこれ以上気を使わすのは申し訳ないと思い、あまり考えないようにした。また顔に出てしまうだろうから。


「もうすぐですよ。」


 フローラは笑顔でそう答えた。


 そのまま馬車に揺られ10分程でフローラの家に着いた。


「…でけぇな。」


 俺は、そんなつまらない感想を思わず口にしてしまう。

 見たこと無いような大きさの家に、管理の行き届いた、噴水のある庭。無駄に思えるような彫刻が柱にあしらわれていたりする。

 リオも興味があるのかキョロキョロとしている。


 入口にはメイドが左右に数名並んでいて、お出迎えをしてくれていた。


「大したおもてなしはできませんが、どうぞお入り下さい。」


 フローラは振り返り、俺達を招いてくれた。


 俺とリオはお言葉に甘えて、中に入った。









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