第14話 ロンドとフローラ②

 俺達四人は、順調にソル王国へと進んでいた。


 ロンドとフローラに関しては金持ちっぽいって事はわかったのだが、それ以上は聞かなかった。

 と言うよりあまり興味がなかった。深く関わるとめんどくさそうだと思ったから。

 元より、街に行くのも、旅に必要な物資の調達をしたいだけだったから。


「ショウ様とリオ様は長いこと旅をされていらっしゃるのですか?」


 不意にフローラはそんな事を尋ねてきた。


「そんなに長くはしてないよ。でも魔物は毎日のように狩ってたな。それで生活してたようなものだし。」


「そうですか、どうりで、でお強いわけですね。では冒険者なのですか?」


 ―冒険者?別に冒険なんかしてないけど。


「いや、そういう訳じゃないんだけど。ただ住んでた所が魔物の多い場所だっただけだよ。」


「?!冒険者ではないのですか?ではあの退治した魔物はどうなさるのですか?」


「?いや、魔物の素材って何かと役に立つし、もったいないかなって。」


「…ならショウ様、一つご提案があるのですが…。」


「何?」


「あの魔物の素材をお譲りいただけませんか?勿論、代金は適正な価格をお支払いたします。」


 ―うーん。まぁ特に必要な物ではないし、経験値も取ったから、いらないっちゃいらないんだけど。


「別に構わないけど。でもバラバラになっちゃってるよ?それでもいいの?」


「ええ。構いません。あれだけ凶悪な魔物です。爪一枚でもかなりの価値になりますよ。」


 ―ほー。それはそれは。なら全部お譲りしよう。

 しかし、この子、見た目の割にしっかりしてるな。大人と喋ってるみたいだ。


「ちなみに、ショウ様とリオ様は冒険者では無いとの事ですよね?でしたら、我がソル王国には冒険者ギルドがあります。そこで登録をすればギルドカードが発行できますので、身分証として発行しておくと良いですよ。」


 ―あぁ。『冒険者』って冒険する奴の事じゃなくて、職業的な物の事か。


「身分証か。必要かな?」


「はい。旅を続けるのであれば、持っていた方がよろしいかと。身分証がないと入れない国もありますので。」


 ―それは問題だな。なら登録だけでもしておくか。


「では国についたらまずは我が家にお越し下さい。魔物の商談も詳しくしたいですし。それに、助けて頂いたお礼もしたいので。」


 ―ムム。なんか完全にフローラのペースだな。このままだと言いくるめられてしまう。


「そういえば気になってたんだけど、フローラさんとロンドさんはあんな所で何してたの?」


「私達は、森を抜けた所にある村へ視察に行っていたのです。なんでも女性と小さい子どもが行方不明になる事件が起こっているようでして…。」


「そんな場所へ護衛も無しに?」


「…いえ、護衛は20名程付けていたのですが、先程の魔物に…。」


「…あ~、ごめん。余計な事聞いたみたいだ。」


 ―そうだよな。危険とわかってて、二人だけで移動するはずないか。


「いえ。ですが、ショウ様とリオ様に出会えたのは幸運でした。まさかあんな場所で『災害』と出くわすなんて…。」


「災害?あの獣がか?」


 ―あの獣のLvは80ちょっとだ。なのに『災害』なんて大層な呼び名がついてるのか。

 ちょっと大げさな気がするな。屑穴にいた芋虫の方がよっぽど強いぞ。


「はい。あれは滅多に現れない魔物なのですが、出会ってしまったら最後。人も魔物も関係なく食らってしまうのです。以前、騎士団と冒険者の合同で300名程の討伐隊を結成し、退治に向かったそうなのですが、全滅させられたと聞いております。」


「300人?!それが全滅?!」


 ―リオの加減した一撃で木っ端微塵になったアレがか?

 …この国大丈夫か?


「そ、そうなんだ。なら退治できて良かったよ。」


 俺は苦笑いをしながら、そうとしか言えなかった。


「それにしても、リオ様も凄かったですね!舞い降りてきた様はまるでお伽噺にある『戦乙女』シグルーン様のようでした。」


 フローラは目をキラキラさせながらリオを見つめている。

 一方リオは興味なさげに窓の外を静かに眺めていた。


「…えっと、その『戦乙女』シグルーンって?」


 リオは多分何も答えないだろうと思ったので代わりに聞いてみた。


「はい。『聖書カノン』に登場する、女性の英雄です。人の身でありながら神の力を宿し、龍を従え、数多の悪魔を討ったと伝承されています。『戦乙女』シグルーン様の持つ槍はありとあらゆる物を貫いたとか。『聖戦』ジ・ハードでは反逆の天使ルシフェルを討ったとも書かれていました。」


 ―おぉ。すごいな。神話マニアか。


「へぇ。詳しいな。まぁ、リオは俺に戦いを教えてくれたりしたからな。槍だけじゃなくて体術とかも相当な腕前だよ。」


「そうなのですね!リオ様、私にも何か教えて下さいませんか??」


 フローラは更に目を輝かせリオに詰め寄る。


「………。」


 リオはもの凄くめんどくさそうな顔をして何も言わなかった。表情豊かになったものだ。


「…やめといた方がいいよ。リオの特訓はとても厳しいから。」


 俺はフローラをなだめて、その場はなんとか収まった。


 ーーーーー


 そうこうしているうちに、目の前に大きな街が見えてきた。

 20メートルはあろう壁に囲まれ、中央には大きな城がそびえ立っている。王国とは良く言ったものだ。


 丘を下ればもう街の入り口だ。立派な門に多くの人が長い列を作っているのが見てとれる。


「ショウ様、リオ様。あれが『ソル王国』でございます。」


 ロンドさんが御者席から声をかけてきた。


「あれがそうか。やっと着いたな。」


 俺はこの世界に来て、初めての街に少しテンションが上がった。

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