ソル王国

第13話 ロンドとフローラ①

 ーーーーー


 一台の豪華な馬車が全速力で野を駆ける。


 その後ろからは10メートルはあろう巨大な獣が迫りくっている。見た目は虎の様だが、顔が猿?で尾が蛇になっている。なんだか気持ち悪い。


 馬車は今にも追い付かれそうで、辺りに気を使う余裕もなさそうだ。


 獣は追いかけながら、口から火の玉を吐いて馬車を攻撃するが、ギリギリの所でなんとか避ける。

 次の瞬間、車輪を石に引っ掻けてしまい、馬車は転倒してしまった。転倒した拍子に、馬車の箱から若い女の子が投げ出されてしまった。


 御者をしていた老人は、すかさず立ち上がり、獣に向かって携えていた剣を抜く。


「…お嬢様、大丈夫ですか!」


「ええ、大丈夫よ。」


「ならば、そのままお逃げ下さい!」


「ダメよ、あなたも一緒に!」


「無理です、私が囮になりますから、早くお逃げ下さい!」


 老人と女の子はそんなやり取りをしているが、獣は気にする事もなく、二人にゆっくりと詰め寄っていた。


「お嬢様!早く!」


 老人は女の子の背中を押す。それに合わせるように獣は鋭い爪を携えた前足を振り上げた。


「…ここまでか…。」

 

老人は死を覚悟する様に目を閉じる。


「…『聖なる障壁』ホーリーバリア。」


 ーーーーー!!


「…これは…。」


 見知らぬ男の声が聞こえ、老人は目を開くと、目の前に白いローブを羽織った者が立っていた。

 そして自身と馬車をすっぽりと覆う大きさのバリアが展開されていて、獣の爪はそのバリアに弾かれていた。


『全てを貫く槍』グングニル!」


 今度は女性の声が空から聞こえた。

 その瞬間、空から獣の頭目掛け、一筋の光が降ってきた。

 光は獣の首を貫通し、激しい轟音と衝撃波で辺りの物を吹き飛ばす。その衝撃で獣の首は千切れて、胴体もバラバラになり、別々の方向へ飛んで行った。

 獣のいた場所には一本の槍が地面に突き刺さっており、それを中心に大きなクレーターが出来ていた。バリアが張られていた箇所を除いて。


 そして空からもう一人、白いローブを羽織った者が舞い降りてきた。

 降りてきた白いローブの者は刺さった槍を抜き、こちらに近づいてくる。


「さすがだな、リオ。一撃じゃん。」


 それを見ていた目の前のローブの者は降りてきたローブの者に声をかけた。


「申し訳ありません、少し加減をしたのですが…、お怪我はありませんか?」


「ハハ、あれで加減したんだ。こっちは大丈夫、見ての通り無傷だよ。」


「ショウ様なら大丈夫だと思ったのですが、一応…。」


 白いローブの二人はなんでも無かったかのように談笑をしている。


「…あの、あなた方は…?」


 老人は剣を構えたまま、恐る恐る二人に聞いた。


 ―信じられない。『鵺』ぬえをたった一撃で…あれは災害とも言われる程の魔物だぞ。王国騎士300人が束になっても討伐出来なかったのものを…たったの一撃…そして、その攻撃を簡単に防いでしまうこの防御魔法は一体…?


 ーーーーー


「大丈夫か?襲われてるのが見えたんでね。無粋ながら助太刀させてもらったよ。」


 俺はフードを取って挨拶をした。


「俺はショウ。訳あって旅をしているんだが、地理に疎くてね。近くに街や村とかがあれば案内してほしいんだけど。」


「え?えぇ。そうでしたか。救っていただき、ありがとうございました。そちらの方もお仲間様でしょうか?」


 老人はホッとしたように、肩を下ろし、剣をしまう。


「あぁ。リオ、挨拶を。」


「初めまして、リオと申します。どうぞ、お見知りおきを。」


 リオもフードを取って挨拶をする。


「これは失礼いたしました。私は『ソル王国』に住むロンドと申します。こちらの方は、私がお仕えさせていただいているフローラ様でございます。」


 ―ふむ。ロンドさんは見た目からして、金持ちの執事ってところか。


「フローラと申します。この度は命を救っていただき、誠にありがとうございました。」


 フローラはスカートの両端をチョンと持ち上げ、頭を下げた。

 フローラは見たところ十代前半くらい。

 フランス人形の様に可愛らしい見た目をしていて、金色の髪を巻いている。いわゆるロリドリル。

 振る舞いと雰囲気からして、恐らく良いとこのお嬢様だろう。


 ―んでこっちがロンドさんの仕えている家のお嬢様か。それにしても王国か。大きい街っぽいし、入るのに手続きとかあるかもなぁ。めんどうだ~。…あ、でもこの人達が一緒なら街にも入りやすいかも。


「それで案内なんだけど…。」


「ロンド、どうでしょう。こちらの方々を我が家にお招きさせていただいては。」


「そうですね。しかし、先程の騒動で馬車が壊れてしまいました。馬は無事なようですが…。」


 ロンドは馬車をチラッと見て言った。


 馬車は車輪が外れて、ひっくり返ってしまっている。

 馬は無事なようで、繋がれたままその場に座って草をムシャムシャしている。


 ―お?向こうからお誘いをくれるとは。ラッキー。

 馬車も、あの程度なら簡単に直せるな。もう一押し、恩を売っておくのも悪くないか。


「馬車を直せばいいのか?」


 俺がそう言うと、ロンドは不思議そうな顔をした。


「あれを直せるのですか?」


「うん。俺、錬成士だし。あれくらいならすぐ直るよ。」


「錬成士…ショウ様。代金はお支払致します。どうか直していただけませんか?」


 ―あぁ、金か。そういえば俺達無一文だったわ。

 …貰っとくか。無いと困るだろうし。


「わかった。じゃあ直すよ。」


 俺は馬車を起こして、『創造』で壊れた箇所を分解し、再生した。


「え?!馬車を一人で持ち上げた…?!」


 ―あれ、ロンドさんとフローラがギョッとしてる。

 これくらいなら鍛えてる奴なら持ち上げれるだろ。


「あの、直ったけど。」


「え?もうですか??」


 馬車を直すのに1分程で終わってしまったので、さらに二人は目を見開いてしまった。


「…本当に直っている。リオ様の強さといい…ショウ様、あなたは一体…。」


「え?!だからただの旅をしてる錬成士だって。」


 ―めんどくさいな。こういう生産系のスキルって珍しいのか?


「…は!?申し訳ありません。つい興奮してしまって。」


ロンドはしまったと言うような顔をして平謝りをしている。


―俺、顔に出てたかな。


「あ~大丈夫。でもあまり詮索しないでくれると、ありがたいかな。」


「はい、以後気を付けます。では参りましょう。」


「あ、ちょっと待って。あの死体回収するから。」


 そう言って俺は空間魔法を使って、獣の死体をホイホイ回収していく。


「………?!!」


 ―ん?なんだ?ロンドさんが鼻水垂らしながら口をパクパクしてるけど。フローラも口を開けたまま固まってるし。


「…ショウ様…それは…空間魔法…」


 ―あ、やべ。コレも見せたらダメなやつか。


「…あぁ。えっと、あ、この袋がね、魔法の袋なんだよ。ははは。」


 俺は咄嗟に、何でもない袋を取り出して、苦しい言い訳をする。


「…まさか、それは『魔法の収納袋』アイテム・バック!?|そんな貴重な物まで持っているのですか?!」


 ―あ、なんとか大丈夫そうだ。


「そうそう。『魔法の収納袋』アイテム・バックね。旅の途中でたまたま見つけたんだよ~。いやぁ、ラッキーだったな。はは。」


「左様でございましたか。いや、驚きました。そんな貴重な物を見られるとは。しかし、無闇に人前で使わぬ方がよろしいかと思います。」


「そんな貴重な物なの?」


「はい。それはかつての神の御技、『失われた技術』ロスト・テクノロジーで作られた物です。今の技術では製造できない代物ですから。」


 ―ほぉ~ん。それはそれは。『神空術』と『創造』を使える俺なら多分作れるけど。

 まぁ、面倒だし黙っとこ。


「ロンドさん、貴重な情報ありがとう。回収も終わったし、行こうか。『ソル王国』へ。」


「かしこまりました。」


 俺達四人は馬車に乗り込み『ソル王国』へと向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る