第11話 別れ

「…ショウ。起きよ。」


 ―あれ、シンさん?俺いつの間に寝て…まだ頭がぼーっとする…あれ?


「…気が付いたか?」


「…シンさん、俺…あれ?」


 ―…違う!あの白い奴に俺、刺されて…シンさんもリオもやられたんだ!


「シンさん!平気なのか?!」


 シンは龍の姿に戻っていて、俺の事を包んでくれていた。横には身体が綺麗になったリオもいる。まだ意識はないようだが。

 シンの身体は温かくて、気持ちよかった。


 辺りを見渡すと、激しい戦いの後がそのままになっている。

 あれは改めて現実だったのだと思った。


 俺は咄嗟に刺された箇所を触った。


 傷がなくなっている。


「…シンさんが治してくれたのか?」


「全く。二人とも世話の焼ける。」


 シンはいつもの優しい顔で、憎まれ口を叩く。


「…なんで。」


 俺はシンを見たら、涙が自然と溢れ出てきた。


「なんで自分の事は治さないんだよ。」


 シンの身体はズタボロだった。右腕があったであろう箇所は切断面を覗かせており、絶えず血が流れ出ている。そこだけではない。いたる箇所から血が流れ出ていて、足元の床は既に血溜まりができている。


「決まっておるだろう。おぬし達の方が大事だからだ。」


「…そんな、待って、今リオを起こすから!」


「リオなら起きぬよ。リオの動力源である魔力核が壊れてしまっておるからな。」


「…そんな、なんとかならないのか。」


 俺は泣きながら思考を巡らせる。しかし、どうすれば良いかわからない。


「…ショウ、気にするな。我は充分生きた。そろそろ幕を引く頃合いだ。だが、おぬし達は違う。まだ若く、未来がある。」


「待ってくれよ、まだ何も返せてないんだぞ!勝手にいなくなるなよ!」


「フフ。やはりおぬしはいい奴だな。ならばショウよ、おぬしには今までの恩を返してもらおうか。」


「なんだよ、なんでも言ってくれ。」


「我はもはや死ぬだけの身だ。神格化した我は死ねば即座に骨だけとなり、力は消える。そうなってはもうリオを直してやることも、おぬし達をここから出してやる事も叶わぬ。故に、ショウ。我が生きてるうちに我を喰らい、己の力とせよ。」


「できねぇ、俺にあんたを食えって言うのかよ。そんな事できねぇよ…。」


 ―わかってる。頭ではわかってるんだ。それしか方法が無いって事くらい。

 放っておけばシンは死ぬ。シンが死ねばリオもこのまま目覚めないんだ。


「う…う…」


「泣くな。貴様は男であろう。…おぬしにしか出来ぬ事だ。我をおぬしの中で眠らせてくれ。」


「…あぁ。わかったよ。」


「良かった。確かまだ頼みは言えるな?何度も助けておるからな。もはやおぬしに拒否権はないぞ。」


 ―ここに来て拒否権とか…。そんなんするつもりもねーよ。


「なんでも言ってくれ。」


「我を取り込めば、おぬしの力でリオを直す事も、ここから出る事も出来るだろう。その力でリオを外に連れ出してやってはくれぬか。いつまでもこんな薄暗い場所に居させたくはない。」


「あぁ。端からそのつもりだよ。リオも大事な仲間だ。一人にはさせない。」


「…おぬしに会えたのは運命だったのかもな。これで諦めていた願いが叶う。」


 シンはそう言って遠くを見つめた。


 そしてすぐに向き直り俺を真っ直ぐ、優しい目で見る。


「…ショウ。怒りに流されるなよ。これは我の寿命のようなもの、誰のせいでもない。復讐などと考えるな。おぬしの人生だ、好きに生きよ。」


「あぁ。わかった。ありがとう。」

 

 ―シンさん。こう言ってしまったけど、それは無理だよ。あいつらには一発くらい喰らわしてやらないと気が済まない。


「…ではお別れだ。リオを頼んだぞ。おぬしの事も見守っておるからな。我が友よ。」


「あぁ。ゆっくり眠ってくれ。」


 シンはそう言って目を閉じ、その場に横たわった。

 俺は止まらない涙を何度も拭い、シンの流した血をすすった。


 シンはそのまま骨だけを残し、消えて行った。


 ――――


 シンの力を取り込んだ俺は髪の毛が銀色に変色し、EXスキル『魔眼』が『神魔眼』に変わった事で、瞳の色も常に紫色になった。もはや日本人の面影はないだろう。


「リオ、今直してやるからな。『創造』。」


 これはシンのEXスキルだ。錬金術、錬成術、の上位互換だ。『創造』を使えば、材料、工程、結果が頭に流れ込んでくる。リオの様に意思を持ったゴーレムなんかも作れるだろう。


 俺はシンの血と骨を媒介にして、リオの魔力核に『創造』を実行する。


 すると、リオからまばゆい光が放たれた。


 俺はリオの左胸に手をあてる。


 ードクン、ドクン


 リオの左胸から人と同じ、心臓の鼓動が感じられた。念のため、リオのステータスを覗いてみた。


 リオ (龍人族ドラゴノイド) Lv 326 ジョブ 聖槍士ホーリーランサー

 HP 32800/32800 MP 40050/40050

 攻撃 4112 防御 3032 魔力 4032

 器用さ 3482 素早さ 3822 成長度 9.2

 耐性 毒Ⅹ 麻痺Ⅸ 魅了Ⅸ 混乱Ⅶ 暗闇Ⅹ 火Ⅸ

 水Ⅷ 雷Ⅵ 土Ⅸ 風Ⅹ 冥Ⅹ 聖Ⅹ

 スキル 隠蔽Ⅷ 風術Ⅶ 偽装Ⅷ 雷術Ⅱ

 体術Ⅹ 威圧Ⅶ 気配察知Ⅹ 空間術Ⅵ

 EXスキル 神龍眼Ⅱ 神槍術Ⅲ 神聖術Ⅸ 隠密Ⅶ

 加護 ーーー


「…よし。『自動人形』オートマタから『龍人族』ドラゴノイドに変わったな。さすがに人間にはならなかったけど、これでリオも人間と同じように生きていけるはずだ。」


 シンの血と骨を媒介にした事で、リオの身体に骨格ができ、血が流れるようになった。血は臓物を作り、人形の身体だったのが、生き物としての身体になったのだ。これでシンの魂はリオにもしっかり受け継いだ事になる。

 これは全て『創造』のおかげだ。事前にこの結果になる事もわかっていた。まさに神の力だ。


「『創造』は破格の性能だけど、何回もできないな。今のでMPが無くなっちまった。」


 そう。リオに『創造』を使用した事でほぼ全てのMPが持ってかれてしまったのだ。

 これでは回復するまで何もできない。


 ―使いどころは考えないとな。でもこれで、リオも目覚めてくれる。これでいいんだよな、シンさん。


 回復するまでやる事もないので、シンの亡骸にもたれ掛かって休む事にした。


 ―当然なんだけど、やっぱ骨だけだと冷たいよな。さっき起きた時はあんなに温かかったのに。ホントに死んじまったんだな。

 …シンさん、短い間だったけど、本当にいっぱいありがとう。そして一旦さよならだ。シンさんのお陰でこの世界でもちゃんと生きていけそうだよ。

 ちゃんとジジイになるまで生きてから、そっちに行くから。そしたらまた一緒に飯でも食べような。



 俺はシンと出会った頃を思い出しながら眠った。




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