第10話 神対神
元龍神であるシン。そして、元勇者であり、亜神となったダイ。
二柱の神の攻防は、もはや人智を越えたものである。
光の如く、音よりも早く動き、両者の一撃一撃が必殺の威力。
辺りは一瞬で風景を変えていく。
「シン、やはり大分無理しているな。動きが鈍いぞ。」
「小癪な。いらぬ心配だ。」
両者の攻防は激しさを増していくが、お互い致命傷は与えられない。
しかし、優勢なのはやはりダイの方だ。
シンは先に白装束達から魔法で深手を負わされており、能力も本来の半分程にまで落ちている。
回復魔法で傷こそ癒えているが、ダメージまでは癒せないでいたのだ。
それに引き換え、ダイは万全な状態で戦っている。体力も魔力もまだまだ余裕がある。
そんな状態での戦いなど、初めから決着が着いていたようなものだ。
シンは段々と、ダイの攻撃を捌けなくなってきており、ついに膝を着いてしまった。
「終わりだよシン。あの状態でよくここまで戦えたもんだな。」
「…まだ、終わってはおらぬだろう。どちらかの命が尽きるまで、終わりはせぬ。」
「…ならこれで終わりだな。
ダイの金色の剣に炎が纏っていく。
炎はやがて揺らめきを無くし、剣の形に沿って形を成し、まばゆい光を放つ。
辺りの温度が急激に上昇し、空気中の水分が蒸発していくのがわかる。その炎は、まるで剣の形をした太陽のようだ。
「…大した物だ。人であったおぬしが、ここまでの力を身に付けようとはな。だが我にも龍神としての誇りがある。受けてみよ。
シンの右腕に
だんだんと大きさを増していき、右腕だけに留まらず、身体を伝い、地面にも放電している。側に生物がいれば感電し、焼け死んでいるだろう。
そしてその雷は、空気を裂くような音を放ち、直視できないほどの光量になっていく。
「「いざ。」」
両者同時に超高速で動き、互いに向けて全力の一撃を放った。
「「うぉぉぉ!」」
二つの攻撃が交わった瞬間、激しい轟音と光が辺りを包んだ。
―――――
?!
「なんだ?シンのいる方からすごい気配を感じるぞ?!」
「…おかしいです。もしや、シン様に何かあったのでは…。」
俺とリオはアルマロスとの戦いが終わり、シンの待つ部屋まで戻っている途中だ。
シンの異変に気付いてはいるのだが、俺もリオもボロボロの状態で互いに肩を貸しながら歩いている状態のため、これ以上早くは進めない。
そんな状態にも関わらず、魔物は容赦無く襲ってくる。
「クッソ!こんな時に…。どけ!」
俺は襲いかかる魔物に短剣を突き刺す。
すかさず、リオも槍で魔物を薙いでいく。
「…はぁ、はぁ。シンさん。すぐ行くぞ。」
「…そうですね。行きましょう。もう少しです。」
俺もリオも、もうほとんど魔力も体力も残っていない。
それでもシンの事が心配で歩く足を止めたりはできなかった。
―――――
「…さすがだ、シン。」
「…何を言う。…おぬしの勝ちだ。」
二人の衝突が収まり、辺りが見えるようになった。
ダイは30メートル程先の壁まで吹き飛んでおり、口から血を吐き、腹部を抑えて
一方シンは衝突した場所に、大量の血を流しながらも立っていた。その右側面の床は大きく縦に切り裂かれ、溶けてしまっている。
そして、シンは右肩から先の腕を切り落とされてしまっていた。
「…ここまでか。」
シンは力の無い声で呟く。
「…これも主様のため。旧き友よ、安らかに眠れ。おまえが輪廻転生し、来世で幸せになることを祈ろう。」
ダイは立ち上がり、指をパチンと鳴らす。すると再び白装束の姿に戻った。
そして、シンに切っ先を向ける。
「…ダイよ。我はここまでのようだが、戦いは終わらぬぞ。そしておぬしらはいずれ滅ぶ事になる。我等が友の手によってな。」
「…ぬかせ。戦いなんざ
――――!!
ダイはシンの元まで一瞬で辿り着き、シンを袈裟懸けに斬り捨てた。
シンの身体からは大量の血が吹き出し、そのまま崩れるように倒れてしまった。
俺とリオが部屋に戻った時、目にした光景は、ちょうどそのシーンだった。
姿形こそ変わっているが、斬られた者が『魔眼』を通して、シンであるとすぐにわかった。
そのシンが白装束の者に斬られ、倒れていく。一瞬の出来事だったはずなのに、俺にはすごくゆっくりに見えた。まるでスローモーションで見ているかのように。
―――!!
「シンさん!!」
「シンさまぁぁ!!」
俺とリオは白装束に向かって襲い掛かった。この時俺は何も考えられなかった。
「…思ったより早かったな。だがもう遅い。この堕神はまもなく死ぬ。そしておまえ達もだ。」
白装束の者は俺の攻撃を軽々と受け止める。
「ふざけるなよ…。なんなんだおまえ。シンさんをなんで斬った!」
「…。」
「…なんとか言えよ!!」
「…世界のためだ。」
――!!
白装束の者がそう言った瞬間、リオが背後から斬りかかった。
が、白装束の者はヒラリとかわし、リオに回し蹴りを喰らわせる。
リオは10メートル以上吹き飛んで、その勢いで壁に激突し、動かなくなった。
「…おまえも平和の糧となれ。」
「クッソォ!!!」
――――――
俺は白装束の者に刺された。
それは、一瞬の出来事で、気付いた頃には倒れ込んでいた。
薄れ行く意識の中、白装束の者が振り替える事無く、それ以上何もせずに歩いて行くのが目に入った。
俺はなんとか身体を引きずり、二人の元まで行こうとする。が、意識はどんどん遠くなり、ついには二人の元まで辿り着く事無く、意識を失ってしまった。
「…彼の者達に幸あらんことを。」
ダイはそう小さく呟き、消えて行った。
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