第6話 油断
今、俺とリオは目的の魔物を『気配察知』を使って追っている。
何度か魔物と遭遇したが、今のところは順調だ。
シンからもらった盾が非常に高性能で、軽い上にあらゆる攻撃を弾く。おまけに傷一つ付かない。おかげで俺も無傷で切り抜けられている。
リオも攻撃に専念できるようで、相手が10体程いても、すぐに片付いてしまう。
恐るべし龍神の鱗。
しかし、肝心の
それでも、俺にも相手の気配が感じられる様にはなってきたので、近づいては来ているはず。
相手の強さを考えれば、気配を断つ事もできるだろうが、隠すつもりはないみたいだ。誘っているのだろうか。「早く来い」と言わんばかりだ。
少し進んだところで、リオが急に立ち止まり、振り返った。
「ショウ様。シン様の事なのですが…。」
「シンさんがどうかしたのか?」
「いえ。その…、幻滅されてしまったのではないかと…。」
―あぁ。シンさんが着いて来ない事を、俺が気にしてるんじゃないかって事か。
「正直、少し戸惑ったよ。でもシンさんの事だし、何か言えないような理由があるんだろ?」
「…はい。今はお話する事ができませんが、決して私達に厄介事を押し付けている訳ではありません。それだけは、理解して頂きたく思います。」
「わかってるよ。シンさんがそんな奴じゃないって事くらい。わざわざ自分の身体を傷付けてまで、俺に盾をくれたんだ。それに、力になれないのは俺も同じだしな。正直、悔しいよ。」
「そんな事はありません。ショウ様がいらしてからは、シン様はとても楽しそうにしていらっしゃいますから。」
―そうなのか?
まぁ、リオもこんな感じだし、二人きりだとあんまり喋らないだろうからなぁ。
「だったら良かったよ。ただ、いつか話してくれる時がきたら、俺も嬉しいかな。」
「そうですね。近いうち、お話になられるかと思います。さぁ、先を急ぎましょう。」
―近いうち、か。
その時は、俺も話さなきゃな、自分の事。…シンさん、受け入れてくれるかな。
少し不安になった。自分の過去を話す事で、今の関係が終わってしまうのではないか、幻滅されないかと。
俺は今の生活が気に入っている。飯は不味いし気持ち悪いけど、二人と一緒にいるのは、何より居心地が良かったから。
―いや、この二人なら受け入れてくれる。だから守らなきゃな。もう失いたくない。
俺は再び決心し、歩を進めた。
ーーーーーー
しばらく進むにつれて、段々と魔物の数が減ってきた。
魔物が減ってきた事で、俺は少し気が緩んでいた。恐らくリオもそうだったのだと思う。
少し進んで、薄暗い一本道に入ると、リオは何かを感じ取ったのか、突然立ち止まり、身構えて口を開いた。
「…やられました。申し訳ありません、ショウ様。これより先は相手のテリトリーだったようです。壁を背に、防御に徹して下さい。」
リオのその言葉と同時に地響きがしだした。
「…おいおい、マジかよ。」
俺は慌てて壁に向かう。
地響きは大きくなってきて、その原因がはっきりと姿を現した。
俺達を挟み込むように現れた魔物の群れだ。
大きい奴、小さい奴、虫型、獣型と様々な種類の魔物がいる。その数は少なくとも百はいるだろう。
魔物は止まる事なく俺達に突っ込んでくる。
「この辺りの魔物を支配下に置いていたようですね。ほとんどの魔物が『気配遮断』を持っているようで、気付くのが遅れました。ショウ様は私の後ろから動かず、盾で凌いで下さい。」
リオは俺を背に槍を構えた。
「わかった。俺の事は気にしなくて良いから。リオは攻撃に専念してくれ。」
俺も盾を構えて臨戦態勢をとる。
複数の虫型の魔物がリオに向けて酸を飛ばす。
リオはヒラリと宙に舞い、それを避ける。と同時に無数の風の刃を放つ。
「
リオが放った風の刃を受けた魔物は、バラバラになっていく。
まるで、龍の鉤爪に切り裂かれた様だ。
俺にも獣型が襲いかかってくる。
「おらぁ!食えるもんなら食ってみろ!
俺の周りに炎が立ち、踊るようにうねりを上げる。
それでも魔物は構わず襲いかかってくる。それを盾で防ぎ、ナイフで牽制する。
「小物共がわらわらと。鬱陶しいですね。」
リオから凄まじいプレッシャーを感じた。恐らく、『威圧』のスキルだ。
魔物はリオのプレッシャーに一瞬怯む。
「邪魔です。道を開けなさい。
一瞬の隙を狙って、魔物の群れに勢い良く槍を突く。その瞬間、槍から凄まじい音と共に、砲撃のような一撃が繰り出された。
リオの直線上の床は半円に抉られて、40体程いた魔物は木っ端微塵になった。その周りにいた魔物にも無数の穴が空いていて、既に半死状態だ。
「…すげぇ。なんだ今の。」
俺はリオの一撃にあっけに取られていた。
その気の緩みが行けなかった。
「ショウ様!」
リオの声で我に返るが、時すでに遅く、針状になった無数の岩が俺に飛んで来ていた。魔物が土術で作り出した物だ。
―ヤバッ!!
俺は咄嗟に目を瞑って、持っていた盾に力を込めて構えた。タイミング的には絶対に間に合わなかった。
はずなのだが、なかなか岩が飛んでくる気配はない。
俺が目を開けると、周りに見覚えのある結界が張られていた。
『
「あ、あれ?なんで?」
俺はチラッとリオを見るが、リオはチラチラとコチラを見ながら魔物と戦っていて、バリアを張った様子はない。
よく見ると盾がうっすら光っている。
―これか!盾がちょっとずつ俺のMP吸ってる。こんな能力あるなら言っといてくれよ、シンさん!
俺は状況を理解しリオに言葉をかける。
「リオ!この盾の力でバリアを張れるみたいだ。こっちの心配はいらないから、おもいっきり暴れてくれ!」
その言葉を聞いてリオは小さく頷いた。
ーーーーーーー
その後、後顧の憂いがなくなったリオは凄まじかった。
あっという間に魔物を殲滅してしまったのだ。俺に攻撃が当たらないよう加減しながら槍を振るっていたのだろう。加減を無くしたリオは魔物を突き刺したまま、他の魔物をぶっ叩いたりしていた。
おかげで、俺の方にも容赦なく魔物の死骸が飛んできたりした。バリアが無ければ、魔物の死骸に潰されていただろう。
改めてリオが味方で良かったと思った。
「ショウ様。お怪我はありませんか?」
「おう。おかげさまで。リオは大丈夫か?」
「問題ありません。では、早いうちにここを抜けましょう。またいつ挟撃されるかわかりませんから。」
「そうだな。先を急ごう。」
大量の魔物の死骸を背に、俺達は再び歩きだした。
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